舞台上の観客 | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
「こういう時は、相手の好きなところとか、嫌いなところを言えばいいんだよね」
「って、本当にすんのかよ……」


サイの言葉にシカマルが顔をしかめる。
それに苦笑するように笑ったチョウジが口を開いた。


「それじゃあ僕から話すよ。カルイの好きなところはね、いっぱい食べてたら、男らしいなって褒めてくれるところとかかな。他にも色々あるけど」
「そうなんだ。それじゃあカルイさんはデーー」
「ま、まあとにかく、お似合いな相手が見つかって良かったってばよ!」


デブ専ーーと言いかけたサイの口をナルトが手で押さえる。
チョウジは首を傾けたが、取り繕うナルトの笑顔に流されると、再び意識を目前の食べ物へと移した。


「そういうサイ、お前はどうなんだってばよ」
「僕は、猫被りなところが好きかな」


一同が瞠目する中、サイは笑顔で続ける。


「前に、異性との付き合い方っていう本を読んだんだけど」
「……相変わらず、すげー変な本読んでんな」
「いのって、その本に書かれてる女性像にぴったり当てはまってるんだよね」


サイの言葉にシカマルが賛同した。


「確かにあいつは、良くも悪くも女らしいからな」


サイは頷く。


「それに最近は、その猫も剥がれてきてて、それも面白いかな」
「面白いって、お前な……」
「だけどいのってさ、自分が大丈夫じゃない時も、猫を被って、平気なフリをするんだ。そういうところを見たら、いのは気丈に振る舞おうとしてるのに、何故だか繊細に思えるんだよね」


うっすらと頬を緩めるサイを見て、ナルトが嬉しそうに笑う。
けれど一方シカマルとチョウジの幼なじみコンビは顔を寄せ合うと声をひそめて言葉を交わしていた。


「ねえシカマル、まさかそれすらいのの作戦……なんてことはさすがに無いよね?」
「そう信じはしたいが、強がってることをサイに気付かれるような可愛げが、いのにあるかどうか……」
「シカマル、お前はどうなんだ?」


突然自分に回ってきた会話にシカマルは驚きの声を上げる。
そして直ぐに面倒くさそうに頭をかいた。


「俺か?それじゃ、笑顔が可愛いところで。そんじゃ次」
「もっと真剣に答えろってばよー!」


不満の声を上げるナルトにひらひらと手を振りあしらうシカマル。
チョウジと我愛羅だけが、シカマルのその答えに静かに笑みを深めた。


「俺は、好きなところも嫌いなところも、両方同じだ」


するとサスケが言う。
ナルトが首を傾けた。


「同じって、何だってばよ」
「一途なところだ。あいつの一途さに助けられたことは多い。だが、頑固とも言えるからな」
「なるほど……まあでも、それは俺も分かるってばよ」


ナルトは、脳裏にうつったヒナタの姿に自然と頬を緩めていた。


「あいつも、俺のことをずっと昔から、想ってくれてたからな」
「ナルト、実は自分がノロケたいだけなんじゃないの?あ、これおかわりしよう」


チョウジの言葉にナルトはどこか照れたように笑う。
そして最後、と我愛羅を見た。


「我愛羅は?名前のどこが、好きなんだってばよ」
「ーー全てだ」


この言葉には全員が固まる。


我愛羅は何てことない、といった風に続けた。


「名前だから、愛している。だからどこが好きかと聞かれれば当然、全部だ」
「……お前ってば、昔は昔で殺してやるとか口に出してたし、一貫して素直な奴なんだな」


ナルトは呆れて言う。
しかし直ぐに笑ってしまった。


我愛羅とそして名前。
自分の大切な者達が幸せそうにしていることはとても嬉しいものだった。


「それじゃあ、嫌いなところはあるのか?」


ナルトは問う。
我愛羅が持つ名前の嫌いなところが果たしてあるのかどうか、そこからしてナルトには疑問だった。


けれど答えたのは我愛羅ではなく、それよりも先にサイ、シカマル、チョウジの三人。


「「「こわいところ」」」


そう口を揃えて言う。
示し合わせていたかのようなそれに他の者達は目を丸くするが、驚いていたのは当人達も同じだった。


まずはサイに、シカマルとチョウジが同情のような視線を送る。


「まあ、いのはな……」
「気が強いもんね……」
「嫌いなところってわけじゃないんだ。ただ、そのーー」


穏やかな笑顔を浮かべたままのサイの顔色が白を通り越して青くなる。


「女性って、難しいよね」


その言葉には、ナルトと我愛羅以外の面々がため息を吐いて賛同の意を示した。


すると目を丸くして会話を見守っていたナルトが、何か思い出したように声を上げる。
そうしてチョウジのことを指差した。


「確かにチョウジ、お前の相手ってば怖ェってばよ」
「え?どうしてナルトが知ってるの?」
「そういえばナルトは昔、カルイさんにそれはもうボコボコに殴られてたもんね」
「な、なにそれ?」
「いやまあ、あれは俺も悪かった。俺に非がある。だけどそれにしたって力が強すぎというかーーチョウジ、もしも喧嘩した時は早めに折れろよ。直ぐに謝るのが吉だってばよ」
「う、うん」


チョウジはよく分からないまま頷いた。


「俺のとこも、ありゃ母ちゃんより怖ェしな」


シカマルのことを我愛羅が見やる。


「確かに家で一番権力があるのはテマリだ……気をつけろ」
「……風影よりもか?」
「ああ」


がっくりとうなだれたシカマルを見て、ナルトが笑い声を上げた。


「お前ら将来、尻に敷かれてそうだな」


言い返そうとする三人だが、けれど口を閉ざす。
ーーヒナタがナルトを、いやたとえナルトでなくても誰かを、尻に敷くなんて光景は到底想像できなかった。


「サスケはサクラちゃんの嫌いなところーーって言ってたな。頑固なところか。……俺ってば、サクラちゃんも十分こわいと思うけど」


その言葉に何か思い出したのか、サイが再び顔色を悪くしながら、けれど笑顔でナルトに問う。


「ナルトは?何かあるの?嫌いなところ」
「俺も、嫌いなところってわけじゃねえんだけど、ヒナタってばやっぱりどこか、気弱なところがあるからな。たまに自分のことを責めて落ち込んでるから、もっと自分に自信を持っていいとは思ってる」
「お前の自惚れが強いから、ちょうどいいんじゃないか?」
「ってサスケェ!誰の自惚れが強いって?」
「聞こえなかったのか。ウスラトンカチ」
「お前のそれも久しぶりだってばよ……!」


明後日の方向を見るサスケと、そんなサスケを好戦的に見るナルト。
二人を宥めたのはチョウジだった。
シカマルが懐かしい光景にため息を吐く。


ーー落ち着いたナルトは我愛羅を見た。


「そうだ。俺ってば我愛羅に聞いてたんだってばよ」
「名前の、嫌いなところか」
「ああ。あんのか?」
「無い。が……直してほしいところならある」


集まる視線に、我愛羅は自身のこめかみを押さえながら吐き出した。


「自分自身に、鈍いことだ」


その答えに一同は皆納得したような声を上げる。


「確かに名前は鈍いよね。自分以外の人のことには、びっくりするくらい鋭いのに。ーーアスマ先生と紅先生のことについてだって、名前は一番に気付いてたよね」
「ああ。あれは驚いたな。それにーー」


シカマルは思い出す。
ーー初めて受けた中忍試験の時のこと。
試験後に会った名前は、自分とテマリの関係について何やら好意的な言葉を口にしていた。
もちろんその時は名前の勘違いだと思っていたがーー今こうして自分とテマリがそうした関係になっていることを考えると、ひょっとしてこうなることが分かっていたんじゃないかとすら思えてくる。


けれどその話を口に出して、万が一にでも自分へと話の矛先が向かうのは勘弁願いたかったため、シカマルは言葉を濁すと口を閉ざした。


サスケがため息混じりに言う。


「あいつの場合、本来自分へ向けるはずだった関心を、周りの奴らへ向ける分に回し過ぎたんじゃないか」
「確かに、我愛羅だけじゃなくて俺も、名前にはそこを、直してほしいってばよ」
「名前は本当に鈍感だもんね。明らかに下心があって近付いてるのに、それに気がつかないし」
「わっ、馬鹿!サイ!」


サイをナルトが止めるも時既に遅し。
我愛羅は眉根を寄せて口を開く。


「何の話だ……?」
「が、我愛羅、落ち着け」
「ああそうか。確かに自分の恋人が、普段手が届かない里で、見も知らずの輩に言い寄られてるなんてことを知ったら落ち着かなーー」
「サイ!お前ってばわざとやってんだろ!?」


我愛羅の怒りが、瓢箪から砂となって現れる。
居酒屋の個室に充満するその怒気に、皆の表情に焦りの色が浮かんだその時ーー隣の個室の襖が勢いよく開かれる音がした。


「さあて、今日は飲むぞーっ!」
「もう、いの。居酒屋だからって別にお酒を飲むわけじゃーー」
「分かってるわよそんなこと。気分よ気分。ったく相変わらず冗談が通じないんだから」
「サ、サクラさんもいのさんも、落ち着いて」
「名前、居酒屋は空気が悪いからな。具合が悪くなったら直ぐに言うんだぞ」
「アンタは過保護すぎんだよ。名前のそばには私がいるんだから余裕だって!な?名前」
「うん、ありがとうカルイ。それにテマリさんも」



ーー男性陣は思わずピタリと動きを止めたのだった。





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