舞台上の観客 | ナノ
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昼過ぎには任務が終わり、木ノ葉へ帰ってきたナルトは、体力が有り余っているため、演習場にでも行こうかと里の中を歩いていた。
すると坂の下に見える路地裏で、何故だか名前が立ち尽くしているのを見掛けて、ナルトは首を傾ける。


「名前ーー」
「ほら、あの子よ。元抜け忍の、暁だかって犯罪組織に入ってた子」


名前を呼び掛けて、ナルトは固まった。
はっとして眼下を見回せば、大通りで数人の女性が話し込んでいる。
路地裏にいる名前を見ながらのその言葉は、階段を上った場所にいるナルトにかろうじて聞こえているのだから、名前の耳には当然届いているだろう。
ナルトの中でかつての自分と、今立ち尽くしている名前の姿が重なった。


「抜け忍っていうだけでも犯罪者なのに、暁だなんて。怖いわよねえ」
「本当。よく戻ってこれたものだわ」
「暁に入っていた理由も、本当かどうか、怪しいものよね」


ナルトは思わず、違う、と声を上げかけて、けれど悲しそうに眉根を寄せる名前に気づくとはっとして口を閉ざした。
ナルトは昔のことを思い出す。


自分について、周りの人間はその事情を知ってはいたが、理解しようとしてくれた人間は、初めは少なかったことを。
必死で努力して、やっと皆から認めてもらえるようになったことを。
そして仲間たちと名前が、救ってくれたことを。


大きく頷いたナルトは、名前が目を細めたのを見て、首を傾げるとその視線の先を追った。
少し離れた道の先にはサクラとサスケが並んで歩いていて、ナルトは微かに目を見開く。
視線を名前へと戻せば、名前は踵を返すところだった。
仲間たちとは反対方向に向かい、影の中へと入っていく。
その光景に悪寒が走って、ナルトは咄嗟に地面を蹴り、塞ぐように名前の前へと飛び降りていた。










ーー心臓が止まるかと思った。


任務が終わって夕飯の買い物にでも行こうかと路地裏を歩いていたら、少し先にサクラとサスケの姿を見つけて。
耳は二人の会話へと向き顔は緩みそうになり、と大変だったけれど、隠しきれていなかったのか、大通りにいる主婦の方々の視線が痛かったので、私はその場を立ち去ることにした。
もちろんそれ以上二人を見ていたら色々と危ないからでもあったのだけれど。
そうして路地裏の影に入り人目がないことを確認して思う存分気持ちを爆発させようと思った時に、ナルトが突然飛び降りてきたのだ。


「ナ……ナルト」


何とか言った私に、ナルトは笑う。


「名前、俺、名前が好きだってばよ」


え、と私は目を丸くする。


「どうしたの?突然」
「いや何つうか、俺も昔、名前に言葉を掛けてもらって、救われたからよ」


突然現れたナルトがどうしてこんなことを言ったのかは分からないけれど、私は笑った。
けれどすぐにはっとすると、顔を引き締める。
するとほっとしたように笑みを零していたナルトが、真剣な眼差しを私に向けた。


「どうしたんだってばよ、名前。なんで、笑おうとしねえんだ」


ナルトの問いに、いや、と私は言葉を濁す。


私は普段、緩む顔を、咳をすることで隠しているけれど、そもそも表情に出さないようにすることも大切なんじゃないだろうか。
時空眼のこともあってか、皆は私の体調に気を遣ってくれているから、咳で誤魔化すという手段を取るのも心苦しくなってきたし。
……待てよ?
そもそも顔が見られないようにする、という解決方法もあるじゃないか。


「ごめんナルト、カカシ先生に用事があるからもう行くね」


言って私はナルトの横を通り過ぎた。


顔を見せずに里に忍として貢献するーーそんなうってつけの部隊が、木ノ葉隠れにはあるじゃないか!










「却下」


木ノ葉隠れ、火影室。
六代目様に笑顔で言われて、私は恐る恐る訊く。


「じ……実力が足りませんか」
「いいや、十分すぎるくらいだよ」
「それなら、どうして」


わけが分からず首を傾げる私に、カカシ先生は言った。


「暗部は、俺も昔入ってたから分かるけど、言わば闇だ。これからは減らしていこうかとも考えてるけど、それでも忍の世界にとっては必要な存在だし、働いてくれている暗部の者たちを、他の忍たちと同じように、大事に思ってる」


だけど、とカカシ先生は声を低くした。


「名前のことは、暗部には入れられない。時空眼を持つお前を、みすみす闇の世界には連れて行けないんだよ」
「この眼を狙う連中になんて、負けません」


言えば、カカシ先生は少し考えるように口を閉じていた。
ややあって、それにしても、と先生は言う。


「どうして突然、暗部に入れて下さいなんて言い出したの?」
「……それは」


言えない、にやける顔を隠すためだなんて。


言葉を探す私を、カカシ先生は見定めていたかと思えば、やがてにこりと笑った。 


「俺を納得させられるだけの理由が言えるようになったら、またおいで」















「納得させられるだけの理由、か」


すっかり日も暮れて夜になった頃、私は里が一望できる公園のベンチに一人座っていた。


あれから色々と考えてはみたのだが、暗部でなくちゃ駄目な理由が見つからない。
かと言って、正直に理由を話すことなんてできないし……。


どうしたものかとため息を零せば、気配を感じて、私は振り返る。
歩いてきたのはナルトだった。


「ナルト、お昼ぶりーー」
「暗部に入りたいって、言ったんだってな」


言葉を遮られて、くわえてその声からどこか怒りを感じ取って、私は驚く。
立ち上がる私に、ナルトは震える声で、どうしてと言う。


「どうして名前は、暗いところへ、行くんだってばよ」
「ナルト……?」
「どうして名前は!自分が幸せになろうとしねえんだってばよ……!!」


ーー私の、幸せ。


「ナルトーー」
「分かってんだろ、もう」


ナルトが私の腕を掴む。
その力は強くて、思わず痛みに眉が寄るほどだった。


「いくら名前が闇の中へ行こうとしても、俺は絶対、諦めねえ。追いかけ続けて、必ず手繰り寄せる」


けど、とナルトは顔を歪める。


「自分から幸せになろうと、しろってばよ。名前が闇の中に行かなきゃならねえ理由なんて、一つもねえんだから」


ナルトの言葉に、私は目を伏せ考えた。


ーー皆の幸せが、私の幸せ。
だから私が暗部に入り、名もない忍になろうとも、皆が幸せであるならば、それはとても良いことだと、そう思う。
だけど欲を言うのなら、本当は皆のことを、これからも傍で見ていたいんだ。


「皆といると」


私はぽつりと言う。


「あまりに幸せで、自分を、保っていられなくなっちゃうんだよ、ナルト。だからーー」
「いいじゃねえか」


私は顔を上げる。
ナルトがひどく優しい顔で笑った。


「幸せになって、いいんだってばよ」
「でも、ナルト」
「自分を保てねえくらい幸せな気持ちになって、何が悪いんだってばよ。そもそも俺は、名前のことを、どろどろに溶けちまうくらい、幸せにしたいと思ってるってばよ」


あまりにありがたいナルトの言葉に、私は咄嗟に自分の顔を覆った。


「面をつけたい」


言えばナルトが声を低める。


「まだ暗部に入るって言うのかってばよ」
「だ、だってーー今は到底、人に見せられる顔じゃないから」


必死で緩む頬を抑えようとしていれば、急に顔を覆っていた腕を取られて、ナルトと目が合う。
驚く私を、ナルトは勢いよく抱きしめてきた。


「ナ、ナルト……!?」
「ああもう名前ってば、可愛すぎるってばよ……!」





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