舞台上の観客 | ナノ
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※旅に連れて行くver






「名前」
「なに?サスケ」
「お前はこれから、どうするんだ」


大戦が終わり、サスケが里へ戻ってきて、けれど旅に出ると決めたことを聞いた日。
第七班で集まりその話をした帰り、帰路が同じ方向のためサスケと歩いていたらそう訊かれた。

眉を寄せて唸り、口を開く。


「私もサスケと同じく罪を許してもらったから、これからは昔と同じように、里や皆の力になれるよう頑張ろうとは思ってる」


だけどーーと言いよどむ。
そのまま口を閉ざした私に、サスケが言った。


「俺はこれから旅に出る。もちろん昔と目的は違うがーー過去、俺達は同じ時に里を出たな」


サスケの言葉に頷く。

脳裏によみがえるのは夜、復讐のため力を求めて里を抜けようとするサスケ。
そして暁に入るため同じく里を抜けようとする私。
言葉を交わして、けれど止めなかったあの時。


「あの時俺は思ってた。俺が里を抜けた後、お前がーー死ぬんじゃないかと」


初めて聞いた事実に驚く。


「そうだったの?てっきり、一緒に修行していたから、それなりに戦えることを分かってもらえていたのかと思ってたよ」
「それは分かってた。お前は強い。体も、……心も。けど、お前は誰かを庇うだろ」


サスケに限らず何度も言われたことのあるその言葉に苦笑する。


「俺の知らない間にお前が怪我をしたりすることは、その……気にはかかった」
「そんな、サスケにはもっと他に、大事なことがたくさんあるよ」
「……確かに……だからあの時俺は、お前に何もせずに里を出た」


サスケは言葉を継ぐ。


「これからの旅にも、目的はある。言ってみれば、義務のようなものも。それでも、あの時とは違う。いや、違うものにしたい」


サスケが足を止めて、私に向き直った。
不思議に思いながらもサスケにならい、見上げる。


「だから、名前」


目が合うとサスケは一瞬逸らし、そして何かを決意したような真剣な表情で真っ直ぐに私を見た。


「一緒に来い」


ーー私は目を丸くし、何度か瞬く。
するとサスケは痺れを切らしたように口を開いた。


「昔、言っただろ。お前が周りの奴らのことを気にするのなら、誰かがお前のことを考える必要がある、って」


戸惑いながらも頷く私に、サスケは言った。


「俺の傍から、離れるな」


ーーその時私は理解した。
サスケは私の気持ちを汲んでくれようとしているのだ。


私の罪は、人柱力と尾獣、そして大戦で出た死者の命を救ったことで許され無くなった。
許してくれたことについては本当に有り難いことで、感謝してもしきれない。
けれど同時に、納得しきれないこともまた事実だ。
これで無理に裁かれたり、償ったりして、報われるのが自分の気持ちだけというのも分かってる。
それでも罪悪感のようなこの感情はふらふらと落ち着かない。


サスケはそんな私の気持ちを汲み取ると言ってくれているのだ。
罪を償う意味も含んだ旅に同行し、気持ちをおさめる機会を与えてくれると。


私はにっこりと笑った。


「誘ってくれてとても嬉しい。サスケはやっぱり優しいね!ありがとう」







「ーーそうか、名前も……」


ーーサスケの誘いに応えた次の日、私はその報告をするため火影室を訪れていた。
椅子に座るカカシ先生が優しく目を細める。


「またすぐ会えなくなっちゃうようで寂しいけど、いいよ。かまわない」
「ありがとうございます。カカシ先生」


頭を下げたところで、だけど、という言葉が飛んできた。


「サスケの優しさって言ってたけどーー」
「それは違うだろ。名前」


カカシ先生の傍ら、立ち控えているオビトさんが言葉を継いだ。
私は首を傾ける。


「違うって」
「名前、お前はたとえば、二人きりで旅をしている男女に出くわしたら、そいつらのことを何と思う」
「大抵は恋人同士かと」


オビトさんの問いに即答した私は、オビトさんが何故こんな質問をしたのかを考える。
そうして気が付き、ハッと息をのんだ。


なるほど、サスケが私を旅に誘ってくれた理由はもう一つあったんだ……!
それは、虫除けならぬ女除け。
サスケほどのモテ男となれば、一人で旅をしていたらこれ幸いと近付く女性が後を絶たないはず。
けれどそれでは順調に旅を進められない。
いくら私といえど、二人で旅をしていると知れば、それがどんなに不釣り合いなものでも、身を引いてくれることも多いだろう。
こ、これは責任重大だ……!


「つまりサスケは、お前のことをーー」
「待ちなよオビト。サスケ本人が名前に言っていないのに、俺達が教えるのは筋違いだ。しかし、サスケのあの素直じゃないところ……まだ直ってないんだね」















カカシ先生とオビトさんの言葉を思い出しながら、私は眼下を見る。
旅に出て数日ーーとりあえずのところ旅は順調だった。
けれどついに、その時がきたのだ。


木の枝から見下ろした先には、三人の女性に囲まれているサスケの姿。
ここは近くにある村から近く、道も出来ている場所だから、旅ではなく日常的に歩いているのか女性達は軽装だ。


「あのう、お一人ですかぁ?」
「連れがいる。寄るな」
「お名前教えてください!」
「鬱陶しい」
「クールなところも素敵〜!」


しかしーーと自分に与えられた使命を余所に、私はまじまじとその光景を見下ろす。


サスケと一緒に過ごすのは久しぶりだけれど、この人気ぶりは少しも変わらないな。


休憩しようと足を止め、私が近くを流れる川に水を汲みに離れたほんの少しの間にーーまさに女性ホイホイだ。


それにカカシ先生とオビトさんが気付かせてくれていてよかった。
もし二人から教えてもらっていなかったら、私はサスケと女性達の邪魔をしまいと、この場から立ち去っていたところだろう。


木の枝を蹴り、四人の近くに着地する。


「名前」


驚く女性達と、私を呼ぶサスケ。
にっこり笑ってそれに応えた。


「サスケ、お待たせ」
「……もしかして連れって、この人ですかぁ?」


女性の横を通り過ぎ、サスケの隣に並ぶ。
ーーけれどサスケの魅力は思った以上に女性達を惹きつけていたらしい。


「サスケさんっていうんですね!」
「あの、私達もお邪魔してもいいですか?旅は道連れって言いますし」


あの虫をホイホイする道具も、一度虫を捕まえたら強い粘着力で逃がさない。
サスケもやっぱり女性ホイホイだ……!
女性達を惹きつけて離さない魅力がある……!
そこに痺れる憧れーーって、感心している場合じゃない。


私はサスケの腕に手を回すと寄り添った。
サスケがぴくりと肩を揺らし、私を見る。
そんなサスケの視線、そして女性達の視線に冷や汗をかきながら私は言った。


「せっかくですけど、二人で旅をしているので」


ーー道連れするつもりはない、と暗に言えば女性達は気圧されたようにして去っていった。


二人きりの状況に戻り、私はサスケから離れるとうつむく。


や……やりすぎただろうか……!?
けれどサスケも拒絶の意は示していたから……。


不安になってサスケをちらりと見上げる。
するとサスケと目が合った。


「サ、サスケ?」


サスケが私を見ていたことにその時気付き、驚く。
何か用だったのかと慌てて名前を呼べば、サスケも同じく何故か慌てたように顔を逸らす。


いくらか経って、ぼそりと呟いた。


「あれくらい、俺が払える」
「ーー!そ、そっか。出過ぎた真似だったね。ごめん」
「いや……けどーー」


サスケは私から顔を逸らしたまま言葉を継ぐ。
その耳が赤いことが目に留まった。


「嬉し、かった……ありがとう」


私は眼を見開く。
するとサスケはそのまま歩き出した。


「こ、今度は俺が水を汲んでくる。ここで待ってろ」


去っていく黒の髪と外套。
ーーその後ろ姿を見つめながら、私は思わず呟いた。


「サスケ、恐ろしい子……」


下げて上げる……いや、そう下げられたわけではないけれど、あれくらいの人払いなら一人で出来ると言った後に、耳を赤くしながらのお礼。
アメとムチというか、相変わらずツンデレマスターだ。
耳を赤くしていたのも計算の内だったら恐ろしいな……いや、計算じゃないからこそ恐ろしいのか?


「あれ、君どうしたの。一人?」


すると後ろから複数の足音が聞こえて、声をかけられて振り返る。
数人の、これまた軽装の男性。


「いいえ、連れが」
「もしかして男連れ?」
「そうですが、いったい……?」
「よかったら俺達と遊ばないかなって思ってね」


状況が分からず首を傾ける。
そんな私の肩に手を回そうとしてきた一人の男性。
けれどその時、冷たい声が響いた。


「触るな」


急に響いたその声に男性達は驚く。
私は声の冷たさに驚いた。


足早にやってくるサスケを振り返る。


「サスケーー」


するとサスケに肩を掴まれ引き寄せられる。
そのまま胸の中へと押しつけられるようにおさまった。


「黙って、失せろ」


サスケの腕の中で私は眼を見開く。
ーー慌てた声と、足音が去っていくのを聞き届けて、サスケの手が離れる。
私は困ってサスケを見上げた。


「サスケ、何もここまでしなくても……」
「お前は一人じゃ、ああいう奴らを払えないだろ」


確かに女よりは男の方が力が強いから振り払う相手としては強敵かもしれないけれど、別に男性を払う必要はーーハッ!
ま、まさかさっきの女性に続き今の男性達も、サスケのことを狙って……?
だからわざと私とくっつくことで、諦めさせたのか……。
認識が甘かった。
これからは性別関係無く、いやいっそのこと、生きとし生けるものすべてがサスケを狙っていると考え行動した方がいいのかもしれない。















けれど、これで本当にいいのかという気もするんだよね。
だって今の私の状況は、サスケに立っているフラグを、片っ端からへし折っているようなものだから。
もちろんサスケがそれを望んでいるからいいのだろうけれど、やっぱり、もったいないと思う気持ちも生まれてしまう。


夜になり、小高い丘の上でサスケと二人、何の気なしに空を見上げる。
里から見る夜空も綺麗だけれど、やっぱり森の中の方が、他の明かりがない分星が鮮明にいくつもあって見惚れてしまう。


すると名前を呼ばれて、空からサスケに視線を移す。


「その……旅はどうだ」
「贖罪の意味も含んでるのにこんなこと言っていいのかはあれだけど……とても嬉しい。サスケとまた過ごせることも、皆が里で待っていてくれることも」


私は苦笑するように笑う。


「サスケを一人占めしちゃってるみたいで、ちょっと申し訳ないけどね」
「……そうか。俺も今お前を、一人占めしてるんだな」


サスケはうつむくと、ちらりと笑う。
その笑みの意味が分からなくて首を傾ける。
するとサスケは顔を上げると真っすぐに私を見た。


「名前……俺はこれからも、お前といたい。永遠に」


え、と思わず声を漏らす。


「……どうだ」
「えっと……嬉しいよ。サスケとずっと、一緒にいられるなんて」


言うとサスケは息を吐いた。
その時やっと、サスケの肩に力が入り、手は握りしめられていたことに気付く。

だけど、と口にしたところで、サスケの手が私に向かって伸ばされていたことに気が付いて言葉を止めた。
サスケはぴくりと眉を寄せると、一度止めたその手を再び伸ばして私を引き寄せる。


「だけどって、何だ」
「え?いや、サスケはそれでいいのかなって」


生き遅れるんじゃないだろうか。
いや、というか今のは生涯独身宣言だったのか?


「ウスラトンカチ……」


サスケは呆れたようにため息を吐く。


「俺が先に、お前といたいって言ったんだぞ。それでお前も、い、いいなら、何も問題はない」


サスケが私の両頬を包む。
近いーーそう思ったところで更に近づいてくるサスケの端正な顔。
私は慌てて周りの気配を探るとサスケに言った。


「サ、サスケ!今は周りに誰もいないよ」
「はぁ?だったら、悪いことなんてないだろ」
「ま、周りに誰もいないのにするの?」
「……お前、そんなに誰かがいるところでしたいのか?まあ虫除けにはなるが……というか、少しは空気を読め!このウスラトンカチ!」


突然の罵倒に私は瞬く。


「こっちの心臓のことも少しは考えろ……!」
「心臓?それにいくら虫除けって言っても……サスケほどのフラグメーカーならそりゃ経験豊富だろうけれど、私は素人も素人だから、もう少しお手柔らかにお願いしたくて」
「フラグメーカー……?というか、経験なら俺だってーー」


サスケは言いかけて、はた、と止まる。
そうして息を呑んだかと思えばうつむくように顔を逸らした。


「サスケ……?」


不思議に思って名前を呼べば、サスケは私を抱きしめる。


「……名前」


掠れるような声音で名前を呼ばれて、思わずぴくりと肩が動く。
応えようと口を開きかけて、するとサスケは少しだけ離れる。
唇と唇が触れそうな距離まで詰められて息をのんだ。

サスケが僅かに笑い、息がかかる。


「今度はちゃんとーー覚えてろよ」





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