舞台上の観客 | ナノ
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ーー頭が上手く働かない。
私の前にいるのは、私の大切な人達。
その人達が、私の名前を呼んだ。


「どうして」


引きつった声でポツリと問いかけると、キバが笑って答える。


「へへっ、驚いただろ。だけど俺達はその何倍も、お前に驚かされたんだからな。お返しだ」
「お返し……」


おうむ返しに呟くけれどまったく意味が理解できない。
分からない。
どうして私のことをーー覚えているんだ。


「私は確かに術を……」
「ああ。お前は術を完成させた。だから俺は一度死に、そうして生き返った」


ネジさんが言う。


「それなら……どうして私のことを覚えて」
「マダラのおかげだ」
「……マダラさん……?」


オビトさんは続けて話した。
術が完成してからのことを。













ーー世界は一際大きな光に包まれた。
あまりの眩しさに皆は目をつぶっていたが、恐る恐る瞼を上げる。
光はおさまり、光の粒も消え、そうして死者がよみがえっていた。


「名前!」


するとナルトが叫ぶ。


「名前、名前」


確かめるように何度かその名を呼ぶと、グッと握り拳を作った。


「大丈夫だ。俺ってば全部ちゃんと、覚えてる!」


私も、俺も、と声があちこちから続く。


「どうなっている……」


困惑するオビトもその一人。
名前のことを忘れていなかった。


オビトはサスケを見る。


「サスケ、お前が名前の時空眼に何かしたのか?」
「いや。大体、写輪眼が時空眼に何か出来るという話を聞いたのはさっきが初めてだ」
「だとしたら他に誰が……」


サスケは何かに気づきハッとした。


「カグヤを倒し戻ってきた時、あいつはマダラと話をしていた」
「マダラと?」
「その時マダラが、名前の瞳に写輪眼で何かしていたが……まさかそれか」
「恐らくな。……そうか、マダラが」










「ーーマダラさん」


思い出すのは、優しく細められた写輪眼と、頭を包む大きな手。


「だがようやく、俺とお前らの願いが、交わったな」


あの時マダラさんはそう言った。
てっきり私は、これからかける術ーー連合軍の忍達を生き返らせることに対してマダラさんも賛成してくれたのかと思ってた。
だけど、私の願い。


皆に生きててほしくて、そして一緒にいたい。
ーー忘れてほしくない。


「マダラさん……!」


そのことを一緒に願ってくれた。
叶えさせてくれた。











「ーー!感知した!」


名前のことを覚えているーーそのことを確認した時いのが声を上げた。
感知タイプの忍達もほぼ同時に反応する。

けれど直ぐにその顔が曇った。


「いの!どうしたの?」
「感知出来たのは、一瞬よ。現れたと思ったらまた直ぐ、消えた……」
「結界が破れたな……」


オビトの言葉にナルトが反応する。


「オビト!結界って」
「名前は時空眼で結界をつくっていた。それが破れて感知出来たんだろう」
「つうことは、また時空眼が勝手に解けたんだな!?」
「解けただけじゃない。反応は直ぐに消えたんだ」


焦りを顔に滲ませて言うサスケの言葉に、場に緊張が走る。


「案内しろ!!」


我愛羅が砂を出した。
浮ける者や速い者はそのまま、それ以外の者達は砂に乗って、一瞬だけ感知出来た方角へと向かう。


「ーーあそこ!」


一番に発見したのはヒナタだった。
白い指が差す先には、林の茂みの中仰向けに倒れている名前の姿。

ナルト達は息をのんだ。
名前の体には目立った外傷は無く、少し吐血しているだけ。
陽に包まれ目を閉じている名前はきれいなままで、けれどその光景が逆に恐ろしかった。


「名前!!」


名を呼んでも名前はピクリとも動かない。
転がり落ちるように砂から下りたサクラが駆けより、名前の首元に手をあてる。
脈を確認しようとするも、指先が震えて、そして脈が無いのか弱いのか確認出来ない。
サクラはそんな自分に苛立ち、叱咤するように唇を噛むと指はそのままに名前の胸に耳をあてた。

一同は息を詰めて事を見守る。


ーー暫しして、サクラが目を見開いた。
その目の縁にだんだんと涙が溜まっていくのを見て、皆に絶望が走る。


けれどサクラの頬は次第に上気した。


「生きてる……」


そうして泣きながらつむがれた言葉に、群衆からドッと歓声が沸き起こった。











「でも名前、危ない状態だったのよ。後少し、チャクラが減ってたら……だから少しでもチャクラが残ってる人達皆に、助けてもらったの」
「皆に……」
「遠い里の奴らとかは帰っちまった奴もいるけど、言ってたじゃん。是非今度、話を聞かせてくれって。名前の一族の誰かと仲良かった奴、あんなにもいたんだな」


カンクロウさんが話す内容に私は驚く。
ーー私が目を覚ますまでの間、病室に色んな里の人が来てくれたらしい。
そうして髪が似てるだとか、鈍いところがそっくりだとか色々言っていたと。


私は自分の胸に手をあてた。
確かに感じる鼓動は、色々な人のおかげだった。


「よいか名前。過去は、未来のためにあるのだぞ」


六道仙人の言葉を思い出す。
そして私にチャクラをくれた歴代の火影様達を。


私の一族は今までずっと、歴史から消えてきた。
人々から忘れ去られてきた。
けれど今私は、マダラさんのおかげで、みんなの記憶の中にちゃんと生きている。
そして火影様達や六道仙人、それに皆のおかげで、生きている。


ーー過去は未来のためにある。
歴史がーー変わった。




「名字名前。うん、ちゃんと覚えてるよ」


カカシ先生が優しく笑う。


「第七班の一員で、俺の大事な大事な部下でーー木の葉の仲間だ」


その笑顔に、言葉に、涙が止まらない。
頬を拭いながら言った。


「わ、私は、里を抜けた忍です。それに暁に入った」
「お前が里を抜けた理由と暁に入った理由は、もう全員分かってんだよ。それでも罰されたいって言うんなら、そうだな、とりあえず俺達と一緒にいろ。どうしてもって言うんなら罰は考えてやるから、話はそれからだな」


シカマルの言葉に私は瞬く。


「分かってる、って」
「俺が教えたんだ」
「オビトさんが?でもーー」


その理由は話したことがないのにーーそう続けようとして、止めて笑う。


「オビトさんには、本当に何でも、お見通しなんですね」
「お前の嘘が下手なんだよ」
「というか、お前が罰されるのなら俺もそうだ。だがこいつらは、俺でさえも許した」


サスケに続いて、ナルトが口を開く。


「つうか名前は俺達の幸せってやつを、やっぱりまだ全然、分かってねーってばよ」


私は瞬く。


「だって俺ってば今全然、幸せじゃねーし」


驚きの声を上げた私に、ナルトは笑う。
四代目様の笑顔を思い出した。


「名前がいねえ。だから、幸せじゃねえってばよ」
「ーー!」
「名前ってばさっき、泣いてただろ。俺達と一緒にいたいって、そう思ったんだろ?」


ナルトは続ける。


「同じなんだよ。俺達も」
「同じ……」
「名前と一緒にいたいと思ってる。俺達と名前の間に壁なんて、何にもねえ!」


ーーナルト達は前に、私との間にある見えない壁を割ってくれた。
だけどその時は、私が逃げてしまった。


すると我愛羅が一歩踏み出す。


「俺は昔、お前に言ったな。名前の家族になる、と」


「名前が大きくなって、ぼくも、大きくなって…そのときにまだ…み、見つかってなかったら…――ぼ、ぼくでいいなら、ぼくが名前のかぞくになるよ…!」


ーーあの時、我愛羅のそばには誰もいなかった。 
それは私も同じことだった。
そして私の後ろには、家族を探す旅の入り口、砂漠だけが広がっていた。

だけど今、我愛羅と私のそばには大切な人達がいる。
私の後ろには大切な、木の葉隠れの里がある。


「あの言葉は、俺が一人だから言ったのではない。お前に家族がいないから言ったのではない。ーー名前だから、言ったんだ」


差し伸べられた手に、目を見開く。




「愛してる、名前」



ーー私は、運命なんてものは信じない。
だってこの眼は私にいくつもの未来を視せてきたから。


それに変わるものはたくさんある。
人柱力と尾獣、時空眼の忘却、増えた繋がり。
全部、過去とは変わったものだ。


だから私は、運命なんて信じない。
ーーだけど。
だけど変わらないものも、たくさんある。




わたしでいいの…?
「私で、いいの……?」



そして確かに信じたい未来が、ここにある。



「名前がいいんだ!」
「名前がいいんだ……!」



過去から変わらない言葉、想い。




私は踏み出す、一歩を、皆に向けて。
そして手を伸ばす。


我愛羅に引かれて、抱きしめられた。



「やっと、届いた……!」






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