舞台上の観客 | ナノ
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「時空眼を開眼した時あいつは過去を視た。人々から疎まれ、拒絶され、孤独を味わう人柱力が、けれど各里の戦力バランスを保つため兵器として必要とされてきた過去を。そしておそれられる尾獣達を」


二の句が継げない群集に、オビトは続けて口を開く。


「あいつは未来も視た。人柱力は暁に狙われ尾獣を抜かれ、最後まで孤独に死んでいた。ーー名前はそんな未来を変えたいと思った」
「だからってどうして暁に……名字名前は人柱力捕獲の際、先頭切って来てたんだぞ」
「人柱力から尾獣を抜くこと……いや、人柱力と尾獣を離すことが、双方の助けになると思っていたからだ。尾獣と心を通わせることが出来た人柱力などほんの僅か。同じ体にいることで憎しみ合うのなら、離した方がお互いの為になる」
「……それでも最後、名前はナルトを信じた」


サクラの言葉にナルトがハッとする。
オビトが頷いた。


「元々、尾獣達が生まれた時に望まれたことは共存だからな。だがそれからの歴史、過去がそれを否定してきた。それでもナルト……名前はお前の中に、未来への希望を見出したんだろう」


沈黙が落ちて、オビトは周りを見回すと舌を打つ。
名前を見つけたという報告は未だ上がってきていない。


「け、けど何も暁に入らなくても良かったんじゃ……」
「確かに、名字名前は時空眼っていうすごい眼を持ってるんだから、暁が襲いに来る前に先にやることだって……」
「……ナルトの場合はそれで良かったかもしれないな。だが、他里の人柱力はどうする」
「……え……?」


忍達は、オビトが何を言っているのか分からない、という風に聞き返す。


「人柱力は各里に散らばっていて、木の葉にいながら守り抜くことは不可能だ。それにもしも名前が未来のことを伝え、だから尾獣を抜かせてくれと頼み、頷く里がどこにある?」
「そ、それは……」
「それにナルトについても、たとえ一度暁を退けたとしても必ず次の襲撃が来る。そう何度も守ることは難しい」
「……だから名前は、暁に入ったのか」


カカシの言葉と同時に、鋭い面々が息をのむ。
オビトは頷いた。


「尾獣、そして人柱力を守り抜く確実な方法が一つだけあった。それは時空眼を持つ名前だからこそ出来たことーー暁に入り人柱力を捕獲し、時空眼の作用をかけながら尾獣を抜く……人柱力の体の時間を止めれば死ぬことはないし、そうして尾獣と離れさせることも出来る」


だから名前は暁に入ったーーオビトは繰り返して言う。
そのうち一人の忍がポツリと呟いた。


「出来るわけないだろ……」
「お、おい」


隣の忍が制するも、呆然としたままそれを振り払って声を上げる。


「自里の忍の為ならまだしも、どうして他里の忍にそこまで出来る!?それにーー人柱力だぞ!俺達が認識を改めたのなんてつい最近。なのに数年前に、眼の中で視ただけの奴のために、そこまで出来るはずが……!」
「いや、出来る。名前ならな。むしろやっと、すっきりしたぜ」


厳しい顔で頭をかいて、シカマルは続ける。


「ずっとわけが分からなかったが、これでようやく辻褄が合った。けど……あいつの心が変わってなかったことを喜べる結果でもねえな」
「あ、暁だぞ!?」


信じられない、というように別の忍が叫ぶ。


「犯罪者の集団だ!入れば憎まれ、狙われ、気が休まる時なんてありはしない。それを他人のために……!」
「関係ないんだ」


サスケは再度言う。


「関係ないんだ。あいつにとっては。人柱力であるとか、他里の忍だってことは」
「でも名前、暁に入ったせいで、よくも知らない奴らからありもしないこと言われて……」


キバが思い出すのは数年前、名前が里を抜けてからの商店街での噂話。


「やあねえ、抜け忍ですって」
「どんな子だっけ?」
「ほら、三代目火影様が連れてきた孤児よ」
「ああ、あの!孤児ですもの、いつかは何かすると思ってたのよ」
「三代目様の顔に泥を塗るような真似して、報われないわね、三代目様も」
「あの子と仲が良かった裏の奥さんは泣いて悲しんでたわよ」
「そりゃあ猫かぶって騙してたんでしょ。そういうすべを身につけて生きてきたのよ」



「名前ってば本物の、馬鹿だってばよ……」


ナルトが言う。
握りしめられた拳がブルブルと震えていた。


「そんなことの為に!どうして……!」
「ーーナルト、そんなこと、なんて言わないで」


飛んできたサクラの厳しい声に、ナルトは思わず声を上げる。


「だけどサクラちゃん……!」
「今はもう、人柱力が虐げられていた時とは違うわ。げんにナルト、あんたは忍の世界にとって必要な存在になった。それにーー」


ナルトはハッとする。
うつむいたサクラの肩は震え、膝にはポタポタと涙がこぼれ落ちていた。


「名前が必死になって守ろうとしたものを、守り抜いたものを、そんなことなんて、言わないで……」
「……サクラちゃん」
「名前が馬鹿なのは、何一つ私達に、相談しなかったことよ」
「……確かに最初は、相談なんて、する気は無かったんだろう」


オビトの言葉の先をカカシが引き継いだ。


「自分が里を抜けることは、迷惑はかけるが不安は起こさせない。皆には関係ないことだーーと思ってたんだろうな。あの時はまだ時空眼に関する巻物も見つけられていなかったから、証拠が無いと信じない者達もいた可能性はある」
「あの巻物か……」
「オビト、お前も知ってるのか」
「ああ。俺はうちはマダラを名乗るようになった時に、計画がスムーズにいくよう、マダラと時空眼をもつ一族の歴史について、かいつまんでだが視せられたんだ。だから知ってる。それは、マダラが作らせたものだ」
「マダラが?」


綱手がピクリと反応を見せる。


「木の葉へ保管したのもか」
「ああ……マダラは、時空眼を持つ者達のことを、風化させたくなかったんだ。たとえ覚えているのが自分だけでも、忘れ去っている奴らのことを恨んでいても……巻物を見た奴の記憶を取り戻すキッカケになることを望んでな」


だが、とオビトは表情を変える。


「今やその巻物も名前の手の内だ。このままじゃその取っ掛かりすら、失うことになる」
「砂でいくつか複製はしたがーー」
「それじゃ駄目だ。時空眼の停止の作用がかけられているのは、オリジナルの一つだけ。その他の文献からは全部、術の代償として巻き戻されてしまう」


場に焦りが走る。
そんな中カンクロウが呆然と呟いた。


「どうしてだよ」


「鉄の国での言葉……ありがとうございました」
「とても信じられなくて、そしてーー嬉しかったです」



「俺は最近、名前が、いい意味で変わったと思ってた。やっと少しは鈍いのが治ったかよ、って」


その言葉に、思い当たる節がある者達がハッとする。


「なのにどうして何も、言ってくれなかった。そんなに俺らは、頼りないかよ……!」
「カンクロウ……」


悔しさ、情けなさから声を荒げるカンクロウの肩にテマリが手を置く。


「裏切り者には死を」


答えたのはサスケだった。


「それが暁のルールだった。……尾獣と人柱力を救う。その目的を達成するため、あいつは死ぬわけにはいかなかったんだろう」
「……それにサスケ、お前もな」
「俺……?」


オビトの言葉の意味が分からず、サスケは眉を寄せて聞き返す。


「未来を視ることの出来る名前が、何故お前の里抜けを止めなかったと思う」
「ーー!」
「それは理由を知っていたからだ。そして復讐を遂げるまではお前が里に戻らないことも分かっていた。だから未来を視て、お前が確実に里へ戻る道を探し続けていた」


「忘れたことなんてなかったよ」


サクラが息をのむ。
先ほどまで、確かに自分の目の前でにっこりと笑っていた名前の声が脳裏で響いた。


「絶対に、最後は元に戻るから…!絶対に、仲直りさせるよ!」


サクラは自分の体を抱きしめると名前を呼んだ。
けれど嗚咽で声にならない。



するとサスケが何か思い出したように息をのんだ。
オビトに詰め寄る。


「おい、鷹が暁に入った時に話していた術ーー」


「名前、お前は知っているハズだ。あの術を使い、そしてそれだけで、死んでしまったお前の一族の者を」


「あれがまさか、このことか」
「……ああ」


舌を打つと駆け出そうとするサスケをナルトが止める。


「サスケ!どういうことだってばよ。前に何があったんだ?」
「……前にこいつと、名前が術について話していたのを聞いたことがある。その時こいつは、術を使い、そのせいで死んだ者がいると言っていた」


群集が息をのむ。


「オビト!それってば、本当なのか?代償は記憶から消えるってだけじゃ……いや、それもスゲーやばいことだけど、死んじまったら何もかも……!」
「言っただろ。使えば負担がかかる時空眼の最高瞳術の一つだぞ。幸い名前は一族の中でも群を抜いて優れた忍だが、それでも安全だと言い切れはしない」
「けど名前ってば何回も、人柱力を生かして……!」
「それは時間を停止して生かしていただけで、別に生き返らせたわけじゃない。負担はまるで違う」


サクラがいのにすがりつくようにして問う。


「いの!感知は……!」
「やってるわよ!さっきから、ずっと……!」


目を閉じて、感覚を研ぎ澄ませているいのの声は震えていた。


「だけど少しも、見つからない……!」


戦争で薄汚れたその頬を、涙が伝い落ちていく。


「匂いも全然しねえ!何かおかしいぜ、これ!」


「えっと、時空眼で作った結界の中にいました」
「誰にも邪魔されずに時空眼を使いたくて……だから感知されないために、です」



オビトは思い出して息をのむと、歯を食いしばる。
ーーこういう時だけあいつは、未来を読んで、行動をする。


「どうして、見つからない……!名前ちゃん……!」


白眼で周りを見回すヒナタの目からも涙が止まらない。 


「おい、本当にピクリとも感知出来ねえぞ!もしかして、あいつもう……!」


香燐が言葉を止めた。
ーー不思議な光景だった。




















ーー私はこれまで時空眼でたくさんのことを視てきた。
過去、そして未来……その中には結局は起こらなかった未来もたくさんあった。


けれど、この光景を視るのは初めてだ。


「綺麗……」


天から、地から、光の粒が現れる。
降っているような、舞い上がっているような光。


これがーー魂なんだろうか。




















オビトが吐き捨てるように笑う。


「終わりだ」


目元に手をあて笑うオビトは空を仰ぐ。
指の隙間を涙が縫った。


ーー空は憎らしいほど、綺麗だった。



「術が始まった」





141201