舞台上の観客 | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「時空、眼……」


カグヤが震えた声で呟く。
この眼を知っていたことにも驚いた。
けれどそれよりも、私を見つめるカグヤの瞳が悲しみに染まり、涙を流している。
そのことの方が驚きで、目を見開く。


「どうして……何故……!」
「母さん落ち着いて!」
「何故まだわらわを、許してくれない……」


カグヤの言っていることが分からない。
けれど、どうして、何故、と繰り返すカグヤの言葉をのみ込んだ私は口を開く。


「いつかの時の苦しみを、別の時に押しつけてはいけないからです」


カグヤは黙り、震えながら、睨むように私を見ている。
だけど白い頬を伝う涙は止まっていない。


「いつかの時の幸せを、別の時が奪ってはいけないんです!」


カグヤが顔を覆って哀哭する。


するとその隙を突いてサスケがカグヤの隣へと一瞬で移動した。


「母さん!とりあえず始球空間へ行くんだ!」


けれどその時再び空間が変わった。
超重力はなく、ただ大きな岩がたくさんあるだけ。


カグヤを探すと空にいた。
すると浮いているカグヤの前に、今度はナルトが瞬身で現れる。
そうしてカグヤの左腕を肩から切り落とした。
黒ゼツさんが宿ったままのその左腕はナルトによって動きを止められる。


ナルトとサスケ、そしてカグヤの間で始まる早い攻防。
さっきのカグヤの様子、そして言葉が少しひっかかりはしたけれど頭を切り替え、私はカカシ先生とオビトさんの所へ向かう。

オビトさんはまだ迷ったような、どこか怒ったような顔で私を見てきた。
だけど私は嬉しくて笑う。
そしてオビトさんの右目に手をかざした。


「ーー!何をする気だ?」
「今から、私が右眼で視た未来ーーカグヤに勝てた時と同じことをしていきます」
「修正するわけか……だが、未来はもうお前が視たものとは変わってるんだぞ」
「いや、やってみる価値はある」


答えたのはカカシ先生だった。
私はオビトさんから手を離すと、そんな先生を見上げる。


「今からカカシ先生の右眼を万華鏡写輪眼にします。視た未来ではオビトさんがカカシ先生に眼を託し、そこからカグヤに勝てる道は出来ていました」
「そんなことが……。だがオビトの眼は残ったままだ。名前、いったいそれをどうやってやるんだ?」
「言葉で説明するのは難しくて……上手く言えないんですけど、オビトさんの眼の時間をカカシ先生に入れるというか……」


カカシ先生の右目に手をかざす。
すると宿った万華鏡写輪眼に、先生は確かめるように何度かまばたきをすると苦笑するように笑った。


「ナルトが俺の目を治してくれた時も似たように、よく分からないことを言っていたな」
「カカシ先生と違って、上手に説明出来ないんです」


私も笑う。

するとその時地面が大きく揺れた。
体がよろける。
状態が心配なオビトさんを支えようと手を伸ばしたら、逆に引き寄せられて支えられる。

見上げた先には、巨大な兎の姿があった。


「オビトさん!あれ……!」
「ああ……尾獣が分離しかかっている……!」


須佐能乎を出したカカシ先生が、巨大な兎となったカグヤの攻撃に狙われたサクラを助ける。


オビトさんは一度人柱力となった身。
そして私も、捕獲や封印やらで多く関わってきたことから、今のカグヤの状態が分かる。


地中から噴き出した大量のチャクラで体の安定を取り戻したカグヤは人の形へと戻る。
そして空には巨大な求道玉が浮かんでいた。



集合し、カカシ先生の作戦を聞く。
するとオビトさんが口を開いた。


「名前をカグヤの背後まで運ぶ役目は、俺にやらせてくれ」
「ーー!オビトさん、大丈夫ですよ」
「ふらついてたお前には言われたくないな。それに何故だか名前はカグヤに特別な感情を持たれている。ナルトやサスケもそうだがカグヤはお前のことも意識しているはずだ。一瞬で背後に回ることがお前にとって難しい今、俺が連れて行った方が確実に狙える」


頷くカカシ先生に、オビトさんが私を引き寄せる。
私達は時空の歪みへと入っていった。




オビトさんの時空間を伝ってカグヤの背後へと現れる。
カグヤは一瞬こちらへ意識と視線を向けたが、その隙に正面からカカシ先生の須佐能乎に右腕を切り落とされた。
右からはナルト、左からはサスケ、そして上からはサクラがカグヤに迫る。

私を抱えるオビトさんの息が荒い。
絶対にここで、決める……!

私はカグヤの背後、首の付け根に向かってクナイを投げた。
響遁の術と、時空眼の作用をかけたクナイの先端が当たれば、巻き戻しの作用が響遁の波によってカグヤへと伝わる。
その衝撃で尾獣、そしてマダラさんを解放する……!


「今だ!!」
「しゃーんなろー!!」
「よっしゃー!!」
「当たれ!!」


ナルト、サクラ、サスケ、そして私の攻撃がカグヤに当たる。

カグヤの向こう、カカシ先生が満足そうに、嬉しそうに笑っているのを見つけて、私も笑った。


(ーー六道地爆天星!!)














「ーーごめんね、マダラ。ごめんね、柱間……」


ーーマダラは目を覚ました。
ぼんやりとした視界に、琥珀色の長い髪の女がうつる。
その女は泣いていた。
横たわるマダラの胸に、白緑の瞳から雫が落ちる。


「ーー」


マダラは掠れた声で女の名前を呼んだ。
女は驚いてマダラを見る。
けれど女が息をのんだ理由は、マダラがようやく目を覚ましたから、だけではなかった。


「私のことを、覚えているの?」


上手く働かないマダラの脳味噌に女の言葉が染み渡っていく。
ーーどうして自分は倒れていたのか。
自分は目を覚ます前何をしていたのか。

記憶はどんどん遡りーー。


「そうして知った……時空眼……本当なら名が知れていて当然のお前ら一族のことを、誰も知らないわけが」
「……そっか」
「知らないんじゃない……忘れていたんだな」



私のことを、覚えているの?


そして今し方の言葉がマダラの脳を覚醒させる。
痛みも気にせず飛び起きた。


「お前、あの術を使ったのか!俺に……!」


自分は柱間と戦っていた。
そして敗れ、確かに死んだ。
それなのに自分は今生きている。
目が覚めてそばにーーがいて、マダラはすべてを理解した。

女は、マダラが自分を覚えていることに戸惑いながらも答える。


「マダラに、生きててほしかった」


震える声、姿にマダラの胸が締めつけられる。


「……俺がお前のことを覚えている理由は、写輪眼でお前の瞳に、作用をかけたからだ」
「作用……そういえば前に出来るって言ってたっけ……だから覚えてるんだね」
「お前はいつか絶対に使うと思っていた。だが勝手に記憶を消されるなんて、俺は御免だ。だから作用をかけて、俺の記憶からは消させないようにしていた。だがまさか、俺に術を使うなんて……!」
「……マダラと柱間が戦う未来は、ずっと視てたの」


女はポツリと話し始める。


「その未来はずっと消えてくれなかった。運命だと思った。それでも私は、止めたかった。だけど……」


最後は震えて言葉にならない。


「お前のことはもう俺以外、誰も覚えていない……!柱間も、扉間もだ!それでいいわけがないだろう……!」


女は首を横に振る。


「私のことは、どうでもいいんだよ。ただ私は、マダラに生きててほしかった。柱間にマダラを殺させたくなかった。二人で並んで、生きていてほしかった。それなのに……ごめんね、マダラ……!」


マダラは思わず女を強く抱きしめていた。


「お前は本当に……!」






「ーーマダラさん」


ーーマダラの意識に奥底に、声が響く。


「マダラさん」


名前を呼ばれる。
マダラは目を覚ました。


「ーーマダラさん」


視界に、琥珀色の長い髪の女がうつっている。
悲しみに濡れた、髪と同じような色の瞳。


マダラはまた夢を見ているのかと思った。
柱間に敗れた、その後の夢を。


けれど、横たわる自分を見つめる少女は、自分のよく知る女ととても似ているけれどやはりどこか違う。
そしてマダラを挟んで少女ーー名前の反対側に柱間が現れる。
これもまた、過去とは違うことだった。


「ーーに、合わせる顔がないな」


マダラは自嘲気味に笑って言う。


「俺は、お前ら一族が望むこととまるで逆のことをしてきた」
「…………」
「皮肉なものだな。アイツは幸せを望んで俺を生かしたのに、逆にその俺に、お前らが望んだ幸せは潰された。……いや、合わせる顔がないと考えることなど、無意味だな。俺はアイツや柱間、お前と同じところには行けん」
「そんなことはないぞ、マダラ」


名前も続けて頷く。


「マダラさんは私に言ってくれました。私達が死に、だけど望みを達成する未来よりも、たとえ私達が望まない未来でも、生きている道を選ぶと。それはマダラさんの優しさです」
「ーー!」
「私達の希望よりも私達の生を、マダラさんは選んだ。だけどそれを酷いなんて言う人はいません。私もとても嬉しかった……私が生きることを、望んでくれて」
「名前……」
「だからマダラさんは柱間さん達と同じところにきっと行けます。私の一族がそこにいると言ってくれるのなら、その人達にもまた会えます」


マダラは笑った。
けれど吐かれた息は、震えていた。


ーーマダラは最初から分かっていた。
自分が描く理想と、時空眼を持つ者達が望む幸せが一致しないことを。
ただそれでもその者達はマダラと共にいてくれた。


「お前らは、本当に……」


マダラは分かっていた。
その者達が本心を隠していたことを。
名前とのように、道を違えたことは過去にもあった。
それでもマダラが裏切られたことはない。


「馬鹿な、忍だ……」


それはその者達がマダラのことも、心の底から想っていたからだった。


マダラは体を起こそうとする。
だが上手く動けず着いてこない。
柱間がそれを支える。


マダラは名前の頭へと手を伸ばした。
額を合わせて、かつての友と似ている少女を見つめて笑う。


「だがようやく、俺とお前らの願いが、交わったな」


ゆっくりと言葉をつむぐマダラに時間が来たのだろう。
目を閉じる彼に柱間が口を開いた。


「マダラ、俺達はもう互いに死ぬ。今ならただ戦友として、酒を酌み交わせる」
「……戦友か……まあそれなら、俺達も……」


こぼすようにマダラが笑う。
ーー最期は静かに、息を引き取った。




名前の頬を一筋涙が伝い落ちる。
マダラを寝かせた柱間は名前に向き直る。


「マダラは自分の願いがお前の願いと交わったと言っていたが、やはり俺は反対ぞ」
「初代様」
「死んで生き返り、それから思い出した俺達の気持ちを考えるのだ。こんな思い、もう誰にもさせては
いかんぞ」
「出来ればもう、穢土転生は起きないでほしいですけど……」


苦笑する名前の肩を、扉間が掴む。


「それより、この後わしらはーーに会えるのか」
「それよりとは何ぞ扉間!俺達は今大事な話をだな……!」
「兄者は偉大な忍だが、わしらが消える残りの時間でこいつらの意思を変えられることは出来まい。稀に見る頑固者共だからな。だからわしらが出来ることは、せいぜいチャクラを渡すくらいだ。先ほど使ったばかりで、そう無いがな」
「術をしろと後押ししてどうする!」
「死ぬよりはマシだ」


扉間の手からチャクラが送り込まれる。
憮然とした柱間もけれどもう片方の肩に手を置いて、同じようにチャクラを送った。

名前は驚きつつも礼を言う。


「あ、ありがとうございます」
「それでわしの話の続きだが、どうだ。マダラには会えると言っていたが、わしは向こうでアイツに会っていない」
「大丈夫です。それは二代目様の記憶から私達一族が消えたから会えなかっただけで、本当に一族が消えたわけじゃありません。思いだしてくださったのならまた会えます。同じ場所にはずっと、いますから」


名前の言葉に扉間は頷く。

ーーするとやってきたヒルゼンも、名前の手を取りチャクラを送り込んだ。


「名前、わしはお主が木の葉の忍であることを誇りに思う」
「ーー!三代目様……!」
「僕もだよ」


ミナトも現れ、もう片方の手から自身に残されたチャクラを送る。


「息子の友達になってくれて、ありがとう」
「……いいえ。それはこちらの台詞です」


名前は笑った、涙を流しながら。




「ーー夢だってちゃんとある」


ナルトとミナトが話す中、名前は静かに、地面に横たわっているオビトの元へ歩いていく。
そうしてカグヤを封印した後直ぐ意識を失ったオビトのその手に触れて、嬉しそうに頬を緩める。


「父ちゃんみたいな火影になるんだ!俺ってば、父ちゃんを超す火影になる!ぜってーなるからな!!あっちで母ちゃんにも伝えてくれ……俺の事は、全然心配なんかすんなって……しっかりやってんだって……!」


明るい光の中、火影達が消えていく。
最後にミナトが笑い、言った言葉が響いた。


「分かった。全部ちゃんと、伝えておくよ」




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