舞台上の観客 | ナノ
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「お前はお前だコノヤロー!逃げんな!お前こそこっちへ来い!!」


ナルトが叫ぶ。
時空眼で視た未来と同じように。


「オビト!!」


ナルトが呼ぶ。
オビトさんのことを。
そして連合軍、たくさんの忍と共にオビトさんを引っ張る。
救い上げるーー闇の中から。



けれどオビトさんは闇を、地獄を望んでいた。
他人から見て、世界から見てそれがたとえ地獄であっても、オビトさんは無限月読をかける未来を望んだ。


オビトさんが地獄を望むのなら、いわば正反対の世界、天国とも言えるかもしれないナルト達が望む世界へ引き寄せることは、オビトさんの幸せとは言えないだろう。

だけどーー。


「だったら今さら……火影の自分なんか想像すんな!!」


オビトさんが昔の気持ちを少しでも思い出してくれるのなら。
火影を目指していた自分、仲間を大切に思っていた自分を思い出してくれたのなら。
皆の幸せが交わる未来は必ずある。



私は時空眼でオビトさんの体の時間を止めるとその背に手をあてる。
眼で視た未来とは違って、オビトさんが私に気がついた。
そうして少しだけ振り返ったオビトさんと目が合う。



尾獣を抜けば、オビトさんは無限月読が出来なくなる。
それは暁の目的でもあり、そして私は暁に入っている。



それでも私はオビトさんの背を押して、尾獣を抜く手伝いをする。

オビトさんの向こう側、驚いていたナルトがニッと笑った。


「抜けたァー!!」




オビトさんから尾獣が抜ける。
反動でゆっくりと地面に倒れたオビトさんはもう十尾の人柱力ではない。


ナルトの隣を通り過ぎ、オビトさんにとどめを刺そうと走ってくるサスケの姿を捉えたけれど私はそれを止めずーー神威によって現れたカカシ先生を止めるためオビトさんに覆い被さった。


「待って、先生!」
「カカシ先生!ソイツってばもう……!」


私に驚き動きを止めたカカシ先生の、クナイを手にしたその腕を四代目火影が掴む。
私はそれを見るとやっと振り返り、サスケが足を止めたことを確認した。

肩の力が抜けて大きく息を吐く。
そうして仰向けに倒れたまま動かず目だけで私を見てくるオビトさんの名を呼んだ。


「オビトさん」


後方の連合軍がどこかへ走り去っていく音を聞きながら続ける。


「十尾の人柱力でなくして、無限月読を阻止してーーごめんなさい」
「謝るのか」
「行動を起こしてから謝罪しても、今更ですよね。だけど、後悔はしてません」


オビトさんは少しだけ鼻で笑うと空に視線を移す。
その一連の動作でさえもどこか大変さが窺えて、オビトさんの体の状態が頭の片隅に引っかかる。


「だろうな」
「だろうな、って……」
「お前がこうするだろうということは分かっていた。だからお前が戦場から離れている内に済ませてしまおうと考えたが……結局は不完全な人柱力になったことからかえって時間を食ってしまったな。ーー驚いた顔をしてるが、まさか本当に俺に気づかれていないとでも思っていたのか?」
「そ、それはもちろん……だけど、それならどうして私を生かして……私がしたことは暁への裏切り。裏切り者には死を与えるのが暁のルールなのに」


オビトさんはこの問いには答えなかった。


「名前、お前は、嘘を吐くのが下手なんだよ」


目を閉じてそう笑ったオビトさんに、私も少しだけ、この戦場のなか笑い返した。


「その言葉、ゼツさんにもーー」
「名前」


すると地中から黒ゼツさんが現れた。
某モンスターをポケットにゲットするゲームならばそのまま戦闘へと移行しそうな流れだがまあそうではない。


カカシ先生と四代目火影が警戒して構えを取ったが黒ゼツさんは構わず続ける。


「マダラ様ノ元ヘ行キサポートヲシテクレ」
「ーー!分かりました」


サポート、ということは遂に八尾と九尾を捕るのか。


すると脳裏にさっき見た、尾獣と協力し合っているナルトやキラービーの姿がうつって眉を下げる。
けれどゼツさんに再度名前を呼ばれて、私は意を決すると立ち上がった。
印を組んで術を発生させると空に立つ。

カカシ先生の名を呼んだ。


「カカシ先生、オビトさんのことを、お願いします」
「分かってる。だけど名前、お前はーー」
「私のことはどうでも……いえ、私は大丈夫です。だからカカシ先生、絶対にーーオビトさんに輪廻眼を、使わせないでください」


ーー名前が空を蹴りその場を去ってから黒ゼツも、カカシや四代目火影がいるためか一旦地中へと逃げ去った。
夜の少し冷たい風が吹くなか三人だけがその場に存在し、かつての班の話をした。

ーーするとオビトは顔をしかめながら印を組もうと手を合わせる。
カカシが目を見開いた。
 

「何をしようとしている?」
「……かつて俺が利用しようとした男がーー俺を裏切った手段だ」


それはいくらか昔、暁が木の葉隠れの里を襲った時のこと。
里を破壊し、そこに住む人々の命を奪った暁が、けれど最後には自身の命を差し出してまで行った術。
外道・輪廻転生の術。


「自分も同じことをするとは、思いもよらなかったがな」


オビトは目を伏せると自嘲気味に笑う。


「長門がかつて、何故俺を裏切ったのか……今なら分かる気もする。それにーー」


「アイツの眼は、技だけじゃなく、使うだけで体に負担がかかる…寿命がもう限られている俺と違って、アイツにはまだ、その眼の使いようによっていくらでも、その先が変わるんだ」


「本当に、それでいいのか。生きて償うことだって出来るんだぞ」


カカシの言葉にオビトは首を横に振った。


「いや、そんな生易しい……。それに俺はもう死にいく身だ。ならば俺がやった方が良い。色々とな」
「オビト……」
「カカシーー名前のことを頼んだ」
「……お前も名前も、お互い同じことを、俺に頼むね」
「アイツに時空眼を、使わせるなよ」
「二人で示し合わせでもしたのか?」


オビトは小さく笑う。


「今ばかりは、可愛い部下よりも、憎らしい、かつての友の言葉を優先しろよ。カカシ」


そうしてオビトは術をーー発動させようとした。


「今度ハ俺モ協力シテヤル!」


再び地中から現れた黒ゼツがオビトの体に飛び移ると、その左半身から体を侵食していく。
強制的に術は発動させられた。
この戦争で命を落とした忍達の為ではなく、うちはマダラ、そのたった一人の為に。












ーーマダラさんの音を頼りに、そうして一点へと向かい駆けている連合軍の後を追い、今の戦争の渦中へと到着した私は目を見開く。


外道・輪廻転生の術がマダラさんに……!
考えられるのはオビトさんしかいない。
けれど改心したオビトさんが再び暁側の味方をするとは思えない。


「マダラ様ノ元ヘ行キサポートヲシテクレ」


ゼツさんか……!
もしかしてさっきのあの言葉、マダラさんをサポートしてほしいのも本音だけれど、オビトさんから私を離そうとも考えてのことだったのか?


私は右手で頭をかきむしる。


嘘が見抜けないにも程がある……!
忍は裏の裏をかけと昔、カカシ先生に言われていたのに。


後悔を振り切るように首を横に振って、私は術を消すと空から落ちる。
そうして、今度はマダラさんと尾獣の引き合いをしているナルトの前へ降り立った。


反省している時間は無い。
それに、未来は確かに変わっていってる。
カカシ先生はオビトさんを殺さず、そしてオビトさんも連合軍に輪廻転生の術をかけてはいない。
マダラさんの為にかけることになってしまったけれどーーオビトさんには、先の尾獣の引き合いの際に時空眼の作用をかけている。
体の時間を止める、両眼の作用を。
だから輪廻転生の代償でオビトさんが死ぬことはない。


「名前……」


私が今、するべきことはこの場所にある。
九尾を抜いて、けれどナルトを死なせはしない!


「どうしてだってばよ!お前ってばさっき一緒に、オビトから尾獣を抜いたじゃねえか!」
「十尾とオビトさんは共存出来ない。同じ身の中に住んでいたとしても、残念だけれどそこには憎しみや悲しみしか生まれない。だから抜いたんだよ」
「それってば、俺と九喇嘛もそうだって言いてえのか?」


私はピクリと眉を寄せる。


「九喇嘛……?」
「オウ!俺の相棒、九尾の名前だってばよ!」
「尾獣の名前まで、聞いたの……?ナルト」
「九喇嘛だけじゃねえ。他の尾獣達の名前だってちゃんと、教えてもらった」
「ーー惑わされるなよ名前」


言葉を無くしていた私の背に、マダラさんから声がかかる。
同時にマダラさんが引きを強くして、ナルトからは既に九尾が抜けかかっていた。


「人と尾獣が手を取り合うことなど不可能だ。いや、たとえ可能だったとしてそれが何になる?」
「九喇嘛を、尾獣達を、戦の為の道具として使ってきたお前には、何も分かんねえよ……!」
「尾獣は遥か昔に、各国の戦力バランスを均等にするために振り分けられたーーそう、道具だ。歴史を理解していないお前が、知ったような口を聞くな」
「そんな下らねえ歴史は、俺が変えてやる!」
「尾獣は支配するべきだ。強大な力で以て、な」


さらに勢いよくナルトから九尾が引っ張られる。
息をのんでナルトとマダラさん、二人の攻防を見つめていた私は慌てて、ナルトに時空眼をかけた。




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