舞台上の観客 | ナノ
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「#甘甘」のBL小説を読む
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不完全ではあるが九体の尾獣をその身に取り込んだオビトは十尾の人柱力と化していた。
その圧倒的な強さに、連合側に恐れが生じる。


「やめろ、オビト……もうやめるんだ」
「……オ、ビ……ト……?」


オビトのかつての師である四代目火影・波風ミナトの言葉に、けれど十尾の人柱力は虚ろな反応を返すだけ。
肉体、そして精神までもが十尾に乗っ取られようとしていた。


機をうかがいながら連合軍がオビトからジリジリと後退していたその時ーー地中から名前が飛び出してきた。
驚く連合の前に着地した名前は目を見開くとオビトの名を呼ぶ。
けれど焦点の合っていないような視線を返されて顔を歪めると、時空眼でその者を捉えた。


(ーー時空眼!)


オビトがピタリと動きを止める。
同時に体の変形も止まった。
荒く呼吸する名前はそのまま右の瞼を下ろすと、左眼ーー過去に関わる時空眼の作用をかけ人柱力化を戻そうとする。

人とは言い難くなっていたオビトの体が徐々にだが戻っていく。


けれど十尾の力は強かった。
抑えこまれまいと、巻き戻される作用に対抗して再びオビトを侵食していく。
息をのんで作用をかけ続ける名前の時空眼と十尾の力が拮抗状態になった。


(時空眼の作用に対抗するなんて、力が強すぎる……!重音の術との併用なら、動きを止められるか……!?)


名前はオビトから、十尾から目を離さないまま様子をうかがう。
そして素早く印を結んだーーいや、結ぼうとした。
気をつけてはいたものの、印を結ぶことによって出来た一瞬の隙を十尾は見逃さず、極わずかに緩んだ時空眼の作用を抜けると名前に攻撃を仕掛ける。

名前は息をのむとその場を蹴る。
十尾の攻撃は避けたものの、起こった爆風により大分後退した。


その間に再びオビトを侵食していく十尾。
受け身を取るとすぐさま顔を上げそのことを確認した名前はギリッと歯を食いしばると再び近づこうと立ち上がる。

けれどその肩を後ろから、誰かが掴んだ。


「ーーか!?」


振り返らされて名前は驚く。
十尾に夢中で直ぐ後ろまで迫っていた人物に気がつかなかった。
そしてそれがいったい誰なのかが分かると更に目を見開く。


「初代様……」
「いや、少し違うか……目も穢土転生のそれではないしのう……」
「あ、私は名字ーー」


自身の顎に手をやり思案するーー初代火影に思わず現状も忘れて挨拶しようとした名前がハッと言葉を途切れさせる。
今度は確かに気がついた。
自分と、そして初代火影に向かってくる気配に。


「柱間!!お前にこいつら時空の者に触れる資格は無い……!」


それはマダラだった。
マダラは名前の後方から柱間に攻撃を仕掛けると二人を離す。
そして制止の言葉を口にする柱間に構わず、そのまま戦闘へと移行する。



呆気にとられる名前は、誰かに腕を引っ張られて驚きに声を上げた。
気配も、それに音もまったくしなかった。


「に、二代目様……」


次々と自分の前に現れる錚々たる顔ぶれに名前は目を瞬かせる。


二代目火影・千手扉間はそんな名前の顎に指をやるとクイと上げ、顔を見やった。


「……確かに似ている、がーーではないな。お前の方がアイツよりも知性がある顔付きをしている」
「は、はあ……それは、何よりで……」


怒涛の展開に頭が上手くついていかず、名前は呆然と受け応える。


「扉間!お前はいっつもそうぞ!」


すると柱間の声が飛んできた。
二人が場所を見やると、いくらか離れた場所で術をぶつけ合っている柱間とマダラがこちらに向かって声を上げている。


「俺とマダラが話や戦をしている間にちゃっかりと……!知らぬ間に色々と事を為すのは、昔からのお前の悪い癖だ!」
「扉間……!お前も柱間と同じだ!そいつらに触れる資格が無い癖に影でコソコソと……!相も変わらず姑息な奴だ……!」


マダラはともかく兄である柱間からも、場に似合わない悪口のようなものが飛ばされて、戦場に可笑しな沈黙が流れる。
しかし言われた本人はそれらを無視して名前に向き直った。


「お前、時空の者だな」
「は、はい。名字名前と申します」
「ーー名前か!?」


するとまた別の人物が扉間と名前、二人のところへ飛んできた。
着地した人物を見て、名前は思わず頭を下げる。


「三代目様……!お久しぶりです!」
「名前、そうかお主は、時空眼を持つ一族の者だったのじゃな」


「……火影様、私…、私、探さなきゃいけないみたいなんです」
「また、探してきます。…何だか今度は、きっと、見つけられる気がするんです」



名前はかたく頷く。
けれどそうして疑問が浮かんだ。


「時空眼のことを覚えて……いや、思い出したんですか?」
「うむ、不思議な感覚じゃがな……。生前は確かに忘れていた。じゃがわしらは先ほど大蛇丸によって屍鬼封尽から解放され、すると記憶が戻っていた」


(一度死んだから……?いやだけど、他の穢土転生された人達の記憶に変わりはなかった)


「その理由が、わしらが火影だからなのか、それとも皆死神に魂を喰われていたからなのかは分からん」


扉間は考え込んだ名前に続ける。


「だが思い出せたのは都合が良い。かといって、あの大蛇丸とかいう忍に感謝はしないが」


ヒルゼンは扉間のその様子にかすかに苦笑を見せる。
けれどそうして少し眉を寄せると、名前の格好を見た。


「名前、どうしてお主が暁に……」
「……すみません、三代目様」


名前は衣から腕を出し、そこに巻かれた額宛てに目を落とした。


「私は三代目様が迎えてくださった木の葉の里を、裏切りました」


木の葉に引かれた真一文字。


「名前……何をするつもりじゃ?」
「…………」
「こいつら時空の者がすることは昔から決まっている」


ヒルゼンの問いに答えたのは扉間だった。


「猿、わしは少し飛ぶ。この者を戦場から遠く離す」
「二代目のおっちゃん!名前をここから離れさせること、協力してくれんのか!」


するとナルトが飛んできた。
次いで父である四代目火影・波風ミナトもやって来る。


名前は反対に、扉間の言葉に慌てて少しの距離を取った。

扉間がそんな名前を厳しい目で睨む。


「わしから逃げられると思っているのか」
「いいえ、ですがそれは無駄足になります、二代目様。二代目様がいくら私を遠くに運ぼうと、私は必ずここに戻ってくる。間に合いそうにないのなら、時空眼だって使います!」


名前の真っ直ぐな視線を受けとめ、返していた扉間は視線を逸らすとチ、と舌を打った。


「それでは本末転倒だな……頑固なところはアイツに似ている」
「ーーナルト、この子はナルトの友達なのかい?」


するとミナトがナルトにそう問いかける。

ナルトは強く頷く。


「ああ!大事な仲間だってばよ!今は暁に入ってっけど、父ちゃん、名前ってば敵じゃねえから、攻撃とかはーー」
「大丈夫、分かってるよ。時空眼を持つ忍が誰かの敵になることなんてそう無いからね。けど、大事な仲間なら尚更、彼女をここから離さなきゃ。じゃないと彼女はきっとーー、ん、おかしいな。言葉が出てこない」


ナルトと名前がハッとする。


(これってば、イタチと同じ……)
(言葉が出ない……?術について詳しいことが言えないようになってるのか……?じ、自分が持つ眼ながら、分からないことが多い)


「声が出せねえんなら、口パクとか、手で書くとかは?」
「そういう問題ではない。術について伝えようとした瞬間、頭の中が真白になる」
「あ〜もう!何がどうなってるんだってばよ?」


グシャグシャと髪をかいたナルトは、ふと扉間を見た。


「ていうか父ちゃんや三代目のじいちゃんは時代も時代だからともかくとして、二代目のおっちゃんも、名前のことを知ってるんだな」
「わしはこいつのことを知っているのではない。ただこの一族の内の一人とは馴染みでな。兄者、そしてマダラもそうだ」












ーー時は、木の葉創設よりも少し前まで遡る。




戦乱の世。
少し歩けば死体に出くわし、また少し歩けば戦場に着く……そんな時代だった。


まだ幼い柱間とマダラ、そんな二人が戦地から離れた河原で未来についての話をしている時、二人は木陰に隠れた気配を察知した。


「ーー誰ぞ」
「馬鹿!こういう時は声をかけないで、こっちから逆に奇襲をかけるんだよ!」


立ち上がり、気配のする方を向き構えをつくる柱間とマダラ。
場に緊張が走る。



「ごめんね、二人の邪魔をしちゃって」



木陰から現れたのは、一人の少女だった。


「邪魔をしたいわけじゃなかったんだよ。私はただこっそり二人を見ようと……だから一応気配を隠してたつもりだったんだけど、二人ともやっぱりすごいんだね!」


柱間とマダラは思わず目を丸くする。
だが警戒は解かない。
油断をしては命をとられる、そんな世の中だったから。


「どうして俺達を見てた。こっそりって、監視か?偵察か?」
「か、監視……!?い、いやそれは誤解だよ!監視だなんて、そんな危ない道には落ちてないよ!まだ!」
「まだって何だよ!?だいたい信じられるか!」
「ハッ!そ、そうだよね、二人はとても素敵だもんね。今までにもこういうことがあったのかな、その、監視とか」
「監視の目的が、素敵だから、なんて奴いないだろ……」


呆れかえるマダラ。
すると柱間が吹き出した。

次いで豪快に笑う。


「こんなに腹から笑ったのは久しぶりぞ。お前、おもしろい奴だな」
「おい柱間……!警戒を解くな!」
「だってマダラ、さっきからなんだか可笑しいぞ。それにそう言うお前だってついさっきは警戒が解かれてた」


言い当てられてグッと言葉に詰まるマダラに、柱間は笑う。
そうしてそのままの笑顔で少女を見た。


「俺は柱間だ。お前、名前は?」


少女はにっこりと笑った。


「名字ーー、だよ」





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