舞台上の観客 | ナノ
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「歓声が聞こえる…」


暁のアジトの中、床や壁である岩に反響し微かに聞こえてきたそれに言葉を漏らして、目を細める。


「相変わらず、耳が良いな」


すると後ろからそう言葉をかけられて、振り返る。

アジトの中の、果たして部屋と言って良いのだろうかというこの場所で、サスケが目に包帯を巻いて腰を下ろしている。


「きっと忍連合の大将か誰かがした鼓舞激励に対するものだね。…第四次忍界大戦が始まる」


そう、第四次忍界大戦がついに開戦…するのにも関わらずどうして私がサスケと共に暁のアジト内で待機しているのかといえば、それはサスケの見張りであり、護衛をする為だ。

護衛をする理由は、薬師カブトが戦力提供の見返りにサスケを望んできたから。
万が一、だけれど戦争中にこっそりと奪われる、なんてことを防ぐ為に、今のサスケには護衛がつけられている。

本来の見張りは白ゼツさんの役目なのだけれど、今だけ少し他の用事があるらしく、代わりにと頼まれたのだ。
マダラさん、いや…オビトさんに。

「お前に視せなきゃならないものが出来た。それは主に、俺自身のことについてだが」
「マダラさんについて…?」
「ああ。ま、詳しいことはお前の眼が教えてくれる…その為だけに時空眼を使わせてしまうのは、申し訳ないが」


ーーあの後オビトさんに写輪眼で何らかの作用をかけられ、私の左眼は過去を、真実を私に視せた。

そうして驚きながらも戻ってきた私を待っていたのは、何故だか私を避けるオビトさんの姿。

視てきた真実に動転しながらも、避ける理由を聞こうとした。

けれどその前にオビトさんは姿をくらませて。

なので先ほど、サスケの護衛を変わる時に白ゼツさんに相談してみた。

「ゼ、ゼゼゼゼツさん、私が過去を視ていた間に何かあったのでしょうか。私、なんだかオビトさんに避けられているような気がして」
「ああ、やっとトビが名前に自分の真実を視せたんだ?」
「は、はい」
「それなら避けるよ。当たり前だろ?」
「ハッ!わ、私が自力で気づかなかったら呆れを通り越して…?」
「はは、違うよ。相変わらず名前は鈍いなあ。トビが名前を避けてるのは、後ろめたさとか申し訳なさとか、まあそんなところからだと思うよ」
「後ろめたさ、ですか…?」
「うん。だって名前は言ってただろ?真実を知らないことは、どんなに辛い真実を知ることよりも、辛いことだって」
「はい」
「そしてトビも、そんな名前の気持ちは知ってた。だけど自分は隠してた。だから名前と会えないんだよ」



オビトさんはこれまでも、今も、そしてきっとこれからも、とても優しい人だ。
けれどもし、月の眼計画が叶う未来が無くなった時…その世界でオビトさんはどうするんだろう。


知ったオビトさんの過去の光景が脳裏をよぎって、思わず息をつく。


それより、前にイタチさんも言っていたけれど、やっぱり写輪眼は時空眼に対して何か力を持っているというか、作用がかけられるんだなぁ。
あの術を使ってもオビトさん、いや、マダラさんが私達一族のことを覚えていたのはてっきり、時空眼でマダラさんに作用をかけていたのかと思っていたけれど…もしかしたら、逆なのかもしれない。


「フン、戦争か」


するとサスケが口を開いて、私はいつの間にか下がっていた視線を上げる。


「そんなものどうでもいい。俺は全力でナルトを潰す、そして奴のすべてを否定してやる…!それだけだ」


負の感情をそのままに放たれたような言葉に、思わず目をギュッとつぶる。
未だ変わらない、終わらない、憎しみと悲しみに。

きっと、少し前の自分だったらもう、未来を諦めていただろう。


「名前、お前は、戦争に出るのか」


でも。


「うん」
「…どうしてだ」


でも、私はもう、諦めない。


「約束を、守るためだよ」
「約束…?」
「そして、自分の夢を叶えるため」


にっこり笑いそう言うと、サスケは何か考えるように口を閉じた。
すると外に通じる道の方から足音が聞こえて、白ゼツさんが戻ってくる。


「お待たせ名前、もう良いよ」
「はい。それじゃあ私も戦場に行ってきます」
「うん、気をつけて」


ゼツさんの言葉ににこっと笑い頷いて、私はサスケの方へと歩いていく。
顔を上げたサスケの、包帯に隠されているその奥を見つめた。


「サスケ、その眼、気をつけてね」
「…フン、他人の心配ばかりしてるようじゃヘマするぜ」


もう何度目か分からないその言葉に少し眉を下げて笑う。
そうして私は暁の装束を翻し、外へ向けて足を踏み出した。












ーー響遁の術による音の波動で自身の足の下に膜を作った私は、空の上から戦場を眺める。

眼下に広がる世界は既に煙が舞い上がり、爆音が轟いている。
私の耳が狂喜、悲しみ、安堵、嘆き…色々な声を拾う。

これから更に戦いが広がるであろう地上を眺めながら、風に靡く髪を耳にかけた。


戦場に出てきた今、きっと私のチャクラも連合軍に感知されているだろう。


海の方で交戦している比較的大規模な戦場、加勢しに行くのかそこに向けて動き始めた連合軍のいくらかの忍達を見つけて、空を蹴り走り出す。


ーー戦争なんて辛い道は、もしかしたら変えられたのかもしれない。

「名前、さっきお父さんが言ったように、正しい選択肢なんてものは無いわ。あるのは無数の道…大事なのは、その道に入ってから、自分の望む未来へと進んでいくことよ」
「時空眼を持ってるお前だからこそ、分かるだろ、名前。――道はいくつもあって、運命なんてモノはねえ。――もがくことを、諦めるなよ」



でも…お父さんとお母さんが教えてくれた。
そして思い出した、幸せな未来を諦めない心を。


だから私は、
「螺旋丸!!」「千鳥!!」
変わらない、未来をこえて。


あの日夢見た幸せな未来、
「将来の夢は…誰しもみんなが幸せな世界が、見たい。そして微力でも、手助けが出来るならいくらでもする――。…そんなところです」
抱えた思いを胸に。


「絶対に、最後は元に戻るから…!絶対に、仲直りさせるよ!」
あの日交わした、約束を守る。



130919