舞台上の観客 | ナノ
×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
「戻ったか」
「はい。マダラさんが私を、巻物を回収してくれていたんですね。ありがとうございました」


巻物に吸い込まれた時と同じような強い光に包まれて、私は現実世界に戻ってきた。
そうして巻物から飛び出して、目にうつる見なれたアジトの一室に、ようやく気づいた。


「マダラさんが回収してくれてなかったら私はきっと、砂隠れに捕まっていました」


眉を下げ笑いながら言う。
巻物に吸い込まれる前私は、我愛羅やテマリさん、カンクロウさんと対峙していたから。


「まあサスケを回収する前に、お前と合流しようとチャクラを探っていたからな…巻物に吸い込まれていたのは予想外だったが」
「私も、さすがに驚きました」
「っふ、だろうな…まあ、例えどこの里に捕らえられていたとしても、必ず奪い返しに行ってたさ」


マダラさんの大きな手で、優しく頭を撫でられる。

なんだか久しぶりに感じられるそれに、こぼすように笑った。


「…それより」


するとマダラさんはそのまま私の瞳を覗き込むようにすると、そう口にする。


「巻物の中でいったい、何があった?お前の目は今時空眼でないのに、最近起きていた症状が出ていない」


マダラさんの言葉に、私もそういえばと目を丸くし、目元に手をやる。
そうして、確かに起こっていない症状、そして、これから先はもう起こらないであろう症状に、目を細めてにこっと笑った。


「考えられることがあるならば、それはきっと、父と母のおかげです」
「…成る程、そうか」


腕を組んだマダラさんは、少し笑う。


「怒っていただろう、お前が時空眼を開眼しているのを見て。…特に父親の方はな」
「あはは、確かに、父は少し不満そうでした。母はそれよりも心配だったみたいで」
「ああ…予想できる」


私は、片方しか出ていないマダラさんの目と目を合わせるとにっこり、笑った。


「けれど私の感謝の気持ちは変わりません。むしろもっと上がりました」


微かに目を見張ったマダラさんはゆっくりとそれを細めると、名前、と私の名を口にした。


「お前に視せなきゃならないものが出来た。それは主に、俺自身のことについてだが」
「マダラさんについて…?」
「ああ。ま、詳しいことはお前の眼が教えてくれる…その為だけに時空眼を使わせてしまうのは、申し訳ないが」


疑問符を飛ばす私に、マダラさんは雰囲気を変えるように、さて、と切り出した。


「お前が次目覚めた時にはきっと、既に第四次忍界大戦が始まる頃だろう。だからその前にいくつか確認しておきたいことがある」


マダラさんの言葉の意味が分からないところが多く、少し戸惑いながらも返事する。


「まずこちら側の戦力についてだが…薬師カブトが加わることになった」
「!それじゃあ、穢土転生ですか」
「時空眼で視ていたか」
「はい、本当にたまにですが…けれど視たのは、薬師カブトが穢土転生により死人を操り大戦に参加しているところだけだったので、立ち位置がどこかまでは確証を得られなくて…」


ーー穢土転生。
生贄をつかい死者を蘇生させ、術者の思い通りに操る禁術。
蘇生させる人物は主にまず強い忍、そして次に敵の心情を揺さぶれる者…敵と深い繋がりがあった忍だ。

きつく眉が寄る。


「お前の思うところは分かる…すまないな」
「そんな、マダラさんが謝ることじゃありません。…確かに、気持ちを言えば、死者をも利用する穢土転生の術は気に入りません。けれどまた、暁の戦力低下も無視できない。…このことで戦況が有利に傾き、八尾と九尾捕獲に繋がるのならーー」


私は真っ直ぐにマダラさんを見上げた。


「私も持てる力全てを出し切り、戦争に臨みます」


マダラさんが目を少し細め、私を見定める。


「両親に会って、何かふっきれたようだな…しかし名前、お前にはどの道、戦争の終わりであの術を使ってもらう。それまでにお前の体を削りたくはない」
「…マダラさん、ありがとうございます。けれど…マダラさんの力を信じてないわけじゃありません。ただ、大戦はきっと、一日じゃ終わらない。それなら、夜の少しの合間にでも休ませてもらえたら私は大丈夫です」


にっこり、笑う。

けれど、まだ納得出来ない、というようなマダラさん。

私の体を気遣ってくれるその優しさがあたたかくて、目元が緩んだ。


「大丈夫ですマダラさん。それに八尾と九尾の封印、そしてあの術以外には時空眼は使わないようにします」
「…分かった。まだ確定じゃないが、八尾と九尾は俺が捕らえる。お前には周りの奴らの露払い、足止めを頼みたい」
「はい。…元々響遁は、相手を殺すというより、行動不能にさせることに目的を置いた忍術…足止めならば、かなりの人数を相手にしても出来る筈です」
「無理して敵を殺す必要はない。どうせ殺した分だけ、後からお前の体に負担がかかる。…それに…お前自身、向こうを殺したくはないだろう」


マダラさんの言葉に思わず息をのみ、無意識のうちに唾をのむ。


「案ずるな。なにも暁に対する裏切りだなんて捉えてない」
「…そう、ですか」
「それに…」


言うと、言葉を途切れさせたマダラさん。
首を傾げると、いや、となんでもなかったかのように煙に巻く。


「それはそうと、戦いたくない奴はいるか。お前の使う響遁があまり効かなそうな奴など、色々と考慮に入れて、な。それらを踏まえて、配置を練る」


戦いたくない奴…マダラさんの言葉をそのまま繰り返し呟くと、頭の中に染み込んだ。
すると一番に浮かんだ人物に、眉を下げる。
私はその名を告げようと、口を開いた。












「ーー我愛羅…!」


ーーところ変わって雷の国、雲隠れの里の雷影邸。
来たる第四次忍界大戦についての会議の為、五大国の長、五影が、それぞれ部下を一人付け集結していた。

会議の内容は自分達、忍連合について。
そしてもちろん、敵である暁のことについても話は広がった。
大将であるうちはマダラ、そしてゼツ、鷹…それぞれの能力や、対抗するための戦力分担等を順々に会議していき…そうして議題は、名字名前のことについてへと突入した。

「名前とは、俺が戦う」

すると開口一番、そう告げた我愛羅に、テマリが声を上げたのだ。
我愛羅…!とその名を呼び、信じられない、というように。


「我愛羅お前、本気で言ってるのか!?」


悲痛そうなテマリの問いに、我愛羅は微かに頷いたまま、けれど視線は他の影から外さない。


「勿論、俺は風影だ。優先するのは影として、そして戦闘大連隊の連隊長としての責務。だからもし機会があるならで構わない」


冷静に言う我愛羅に、テマリはたまらないといった風に再び口を開く。


「機会があるとかないとか、そんなことじゃないだろう!我愛羅、お前が…!」
「お前があの子と戦うのか?風影」


テマリの言葉を継いだのは火影、綱手。
我愛羅の目線が綱手へと移る。


「時空眼はさておき、名前の基本忍術は響遁。そしてその天敵は俺だ」
「響遁…いったい名字名前はどのような術を使うのですか?」


水影の問いに、我愛羅は再び他の影を見据える。


「名前の使う術は基本、相手の動きを封じる為のものだ。ーー五影会談の時は音の波動により空気に圧をかけ、部屋の者の動きを止めた」
「力ずくで解いたのはわしと風影の二人だ」
「つまりその術を解ける可能性があるのは影、又は影に匹敵する実力者のみというわけじゃな。…護衛役も皆手練れを連れていた筈なんじゃがの。こりゃ結構な術だわい」



話の流れを聞き頭に入れていく水影に、綱手が口を開く。


「加えて名前は、こちらも同じく音の波動を利用した原理だと思うが、宙に膜を出現させ、その上に立つことが出来る」
「ほう。デイダラや風影のような奴は他にもいるが、わしと同じように身一つで空に行ける奴に会うのは久しぶりじゃぜ」
「なるほど、土影様含め確かに風影様なら、彼女がいくら空に行っても戦えますね」


水影の言葉に綱手が、それだけじゃない、と続ける。


「あの子はそうして音の波動を操り、相手に浴びせる。それによって分身は消え、例えば水影、アンタの沸遁、特に溶遁は、アンタの体から離れた瞬間、逆にあの子に操られる可能性もある」
「あら…」


水影が少し不満そうにそう漏らす。


「我愛羅の砂は、我愛羅のチャクラを練り込んである。いくらその場で名前が音の波動で操ろうとも不可能だ」


そう言ったテマリに、次いで我愛羅が口を開く。


「アイツは聴覚にも作用する。無論、ここにいる者は皆聴覚を奪われたり混乱させられたところで、何も変わらない者ばかりだろうが。俺にも、砂の絶対防御がある」
「わしは別に、風影が名字名前の相手をしようが構わんぜよ。聞いてる限り、普通の忍じゃ手に負えんだろうからな。それに風影はそやつについてわしらよりも色々知っているようだし、対応も期待出来る」


そう述べた土影は、眉をギッと寄せ真剣な表情になる。


「やはり最も注意すべき人物は間違いなくマダラじゃ。そちらが片付かん内は風影、お前を小娘のところに行かせるわけにはいかんぞ。立派な戦力じゃ。…それまでは他の手練れ共に踏ん張っていてもらうしかないの」
「ああ、分かっている」
「しかし、名字名前が時空眼を使った時はどうする」


雷影の投げかけた問いに、場の話がまた振り出しに戻ったようになった。
雷影は構わず続ける。


「あんな瞳術、見たことも聞いたこともないが、アレは響遁などとはまるで違う。あの瞳にとらえられ動きを封じられた時、指の一本たりとも動かせなかった。俺に解けなかったんだ、この場の誰も解けはしない」
「時空眼…先ほど火影様に見せていただいた巻物通りならば、左眼で過去、右眼で未来、そして両眼で現在の時空を支配する瞳」
「風影、それにまあ水影はともかくにしても、わしら三人はそれなりに生きてる。これほどの瞳術を誰も知らないのはちとおかしい気がするの」
「あら土影様、ありがとうございます」


土影の言葉に水影が嬉しそうににこりと目を細めて微笑む。


「それは巻物の存在に気がついた時から私も考えてはいたが、答えは出ない。それよりも私は、前に風影が言っていた話…尾獣を抜かれたのにもかかわらず人柱力が生きていたということについての疑問の方が、早く解けるとふむ」
「俺の考えは変わらない。俺を含め、暁に捕らえられた人柱力が尾獣を抜かれ、けれど生きているのには名前が関係している」
「私も風影と同意見だ。あの子が暁に入る前と後とで、捕らえられた人柱力が生きていたかどうかがハッキリ分かれている。というかまずこんな芸当が出来るなんて、時空眼以外に考えられん」


二人の言葉を受け土影がニヤッと笑う。


「風影はまだ若いからともかく姫までとはの。二人とも身内に甘いぜよ」


変わらず眉を寄せたまま話の流れを見ていた雷影に、水影が口を開く。


「雷影様も名字名前と、対峙という形ではありましたが会ったのですよね。どうお考えになりますか?」
「わしは風影の時のようにチャクラを調べたりはしなかったからな。証拠が無い不確定なことを断定する気はない」
「敵だからといってバッサリ切り捨てないだけ、お前には珍しい方じゃぜ」
「…たとえ敵として言葉を交わしてもこう言わせ、関わりのあった者には想われる…不思議な魅力があるようね。会ってみたいわ」


すると綱手が、しかし、と我愛羅を見た。


「話は戻るが、風影、お前があの子と戦うのか?」
「…どういう意味だ」
「お前はナルトやサクラ、カカシや他の奴らと何も変わらない。たとえ暁だとしても、あの子のことを大切に思っている。…いや、それ以上か」


疑問符を浮かべる者が大半の中、我愛羅は変わらず冷静に綱手を見やる。
綱手は色付いたその唇を綺麗につり上げた。


「お前、名前のことが好きなんだろう」


我愛羅が微かに目を細める。


「そんな言葉じゃ到底、足りないほどにな…」
「そんなことを聞いてるんじゃない」


そして後ろに控えていたテマリに頭を叩かれた。
水影が「若いって良いわね」とこぼす。


「ーー昔、まだ俺が人柱力だった頃、疎まれ何の繋がりも無かった俺の傍にただ一人、名前がいてくれた」

「ひ、どい…な、ぁ…忘れちゃった、の゛…?」

「そして木の葉崩しで一尾が暴走した時…その時も名前はいてくれた」

「が、らは…ひどり、じゃ…ない、よ…?」

「傷付くのを分かっていながら、傍に来てくれた」

「わ、たしで、いいなら…わだ、しが、…げほっ!…っ、いっしょに、居るか、ら…」

「俺を、守る為に」

「それでも…!自分が傷付いても…!闇ん中で苦しんでるお前を助けようとした!俺ってばよく分かんねえけど、名前は、最初っからお前の傍に居てくれた、大事な人じゃねのかってばよ…?!」

「何故暁にいるのかは分からない。だがアイツは、名前は確かに何か抱えているように思えた」

「私の、ことを」
「大切だなんて、言わない方が良い」
「今この国の同じ建物の中には、他の影がいるんです」


「だから俺は、名前と戦う。今度は俺が、名前を守る為に」



130905