「だから、名前のことは絶対ェ、諦めねえってばよ」
数年前に思いを馳せていたマダラの意識を、ナルトの固い決意が呼び戻す。
サスケが見定めるようにマダラを見ている中、口を開いたのはカカシだった。
「サクラ、俺の体を頼む」
ハッとカカシを見るサクラ。
カカシはその赤い瞳を、さらに万華鏡へと変えた。
「(マダラはここで俺が処理する…!)神威…!」
けれどマダラはのんびりと、なんていう風に手のひらをカカシに向け制する。
「やめておけカカシ。そんな術は俺にはきかない」
目を見開き驚くカカシを次に、マダラはナルトに目をやった。
「降参だナルト、お前が名前を諦めないのは勝手にすればいい。名前に対する説得もな」
「……」
「だが、名前が心動かされたところで、あいつは俺を裏切らない」
「…名前は、俺達を裏切りはしねえ」
「分かってきたなナルト、名前は誰も、裏切りはしない…本当に、馬鹿な忍だ」
目を細めそう言ったマダラは、ンだと!?と声を荒げたナルトを筆頭に睨んでくる面々を無視し、サスケを振り返った。
そしてその肩に手を置く。
「いくぞサスケ」
「…マダラ…後で話がある」
ナルトらと対峙していたマダラ達は、時空間忍術によりその場から姿を消した。
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「色んな奴が、名前を連れ戻そうとしてる。色んな奴が、名前との繋がりを手繰り寄せようとしてる」
――お父さんとお母さんが巻物に残したチャクラがあと少しなのか、世界が歪んで、多分、現実世界と少しリンクした。
そして途切れ途切れだけれど、声が、聞こえて。
「悲しさがあるから、幸せはある。 幸せがあるから、悲しさはあると、 思うんだ」
ナルトの声で聞こえた、昔の…数年前の私が言った言葉。
それに私は息をのんだ。
「だから、名前のことは絶対ェ、諦めねえってばよ」
その言葉を最後に、まるで回線がブチッと切れるように声が聞こえなくなって。
代わりに今いる場所…巻物の中なのか、分からないけど、安定が再び戻ってきた。
「ふふ、やっぱり」
するとお母さんが、本当に嬉しそうにそう漏らして。
疑問符を飛ばすとお母さんはにっこりと笑う。
「名前には大切な仲間が、繋がりが、あったのね」
そんなお母さんの言葉に、私はまだ、繋がりや、大切っていう想い…それらが整理が出来てなくて、唾をのんだ。
「あなたはとても素敵な子だから、きっと繋がりが出来るって思ってた。けれどやっぱり、お礼を言いたい。あなたの仲間に。そして名前、あなたに、その繋がりをとても大切に、してほしい」
繋がり…みんなは私のことも、繋がりだと言ってくれる…どうして?
「どうして俺らが名前を見てるか、って、そんなの、名前が名前だからに決まってんじゃん」
「私もカンクロウに同意見だよ、名前。まったく、鈍感なんだから」
私が、私だから…。
「俺達には、お前を大切だと思わない理由が、無い」
私に起こるこの気持ちは、何…?
嬉しい…違う、それだけじゃない。
「大切、や、大事、…という感情、想いはアイツらに対して、感じないか」
「…大…切…?」
「そうだ。…誰かを素敵だと思うことと、大切だと思うことは、違う」
私はみんなのことが…。
「つうかよ名前」
すると、どうしてだか焦っているようなお父さんに肩を掴まれ目を丸くする。
「さっきの声の奴、まさか…恋人、とかか」
そしてこの言葉には…目を丸くするどころじゃなかった。
「ち、違う、違うよ!そんな、私がナルトの恋人だなんて、おこがましいにも程がある…!」
「ダアッ、お前ら親子はこんなとこまで似たのかよ!時空眼持つ奴ってのはみんなこんな風になんのか?」
「そ、それは…でも名前、あなたの今の言葉にはお母さんも文句言いたい。あなたは素敵よ、とっても」
「ああ。ったく、変な虫がつかねェか心配だぜ」
どんどん話を展開させていく二人に、思わず首をブンブンと横にふった。
「本当に、違うんだよ。ナルトには別の人がいるから」
「あら、それじゃあ名前の本当に好きな人は?ナルト君じゃないなら、誰かしら」
楽しそうに笑顔を向けるお母さんに、さっきと同じく真剣で、どこか焦っているような表情で見てくるお父さん。
わ、私に好きな人がいることは決定してるのかな。
…好きな、人。
私に、好きな、人?
自分のことなんてなんだか気持ち悪いというか、変な感じで…私は観客だからそんなこと考えたこともなくて…やっぱり感じる、どこか居心地の悪さから、顔が歪んでいくのが分かる。
けれどお父さんが何度か言ってた言葉が頭をよぎって、ハッとした。
「お母さん」
「なあに?教えてくれるの?」
「あの、お母さんと私が似てるってお父さんが言ってたけど…お母さんはどうして、お父さんを好きになったの?」
今度はお母さんが目を丸くする番だった。
だけどすぐにお父さんと笑み合うと、私を見る。
「お父さんは、初めて私に想いを伝えてくれた人だったの。大切だと、一緒にいたいと、そうね」
「初めて、想いを…」
「最初は私でいいのか悩んだわ…だけどやっぱり、その想いが嬉しくて。そして私も、一緒にいたいと思った」
にっこりと笑うお母さんの肩をお父さんが引き寄せた。
幸せそうな二人の姿に、私もにっこりと笑う。
「!」
するとその時、また世界が変化した。
さっきみたいに現実世界とリンクはしていない、だけど確実にこの世界は薄れてて。
私は笑顔のまま、少し眉を下げた。
するとお父さんが笑って。
「名前、俺達はもう会えない」
「…うん」
「もしこの先…想像したくはねェが、お前のチャクラが限界まで減るような状況になったとしても、もう巻物は開かねえ」
うん、とまた頷いた私を、お父さんが真っ直ぐに見てくる。
「けど俺達は、ずっとお前と一緒だ」
お母さんが、私の胸に手をあてた。
「私達はずっと、ここにいる」
私はにっこりと笑ってまた、うん、と頷いた。
「お父さんとお母さんは私に時空眼を…歴史の重さを、引き継がせたくなかったんだよね」
薄れていく世界の中、言葉を紡ぐ。
「その二人の考えにどうこう言うわけじゃないよ。私を想ってくれていたことは、すごく、幸せなんだ」
でもね、と続ける。
「さっき聞こえた言葉で、思い出したの」
「ナルトって奴のか?」
「うん…私は二人の記憶が無くて…でもだからこそ、歴史や記憶は素敵なものだと思った。喜びはもちろん、悲しみや辛さだって、大切なことに思えたの」
二人が目を見開いた。
「最近、辛いことが続きすぎてて見失ってた…誰かがいなくなって悲しさを感じるのは、幸せだったから」
「お前の中で幸せだったからこそ、それが無くなった今、悲しいんだろうが…!」
「悲しさや辛さが嫌だからって無視したら、それは幸せだったことも無視しちゃうことと同じだと思うの」
「名前…」
「それは、したくない。だからこれからはちゃんと、受けとめたい、受けとめる。そして、頑張ってくるね…!」
「叶えたい、未来があるのね」
お母さんの言葉に、強く頷く。
「大丈夫、もう、諦めない。それにこんなに悲しみが続いたんだもん…次に来る幸せはきっと、とても大きなものだよね!」
薄れていく世界の中、薄れていくお父さんとお母さんに、抱きしめられる。
「名前、名前…!お前は俺達の誇りだ!愛してる…!」
「私も…お父さんに言われた通り、あなたと同じで愛情には少し鈍かった」
だけど、とお母さんが言う。
「名前、あなたのことは、生まれる前から、愛していたよ…!」
うん、と頷く私の頬を涙が流れる。
「もちろん、生まれてからも愛していた…!そしてこれからもずっと…!」
――世界も消えて、お父さんもお母さんも光の泡となって消えて…けれど最後に、聞こえた。
愛してる…!
その、言葉が。
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