舞台上の観客 | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
――私はね、と口を開く。


「今、暁っていう…S級の犯罪者で構成された小組織に、身を置いているの」


両親が目を見開く。
お父さんが何か言おうと身を乗り出したのを、お母さんが、目は私に向けたままで制した。


「その組織は尾獣を集めてて…私が入ったのは、二年…位前かな…。私はみんなの…素敵な人達の未来が幸せになることを望んで、暁に入った」
「あなたを置いてくれた木の葉の里の、抜け忍になったとしても…?」


母の問いに、頷く。


「暁に集まった忍は、人はもちろん、城や、一つの里や国だって襲う…私は、素敵な人達が死ぬ未来よりも、暁のメンバーが死んでいく未来を、選んだ。里を抜けた時は、その考えが当たり前だった。覚悟は、していた」


けれど。
――暁に入って直ぐのこと、それぞれのコンビのところにお邪魔し、一緒に行動していた時のことが脳裏をよぎる。

けれど。
――二年程を経て、暁の人達は次々に死んでいった。
そして私はその光景を、ずっと前から、自身の右眼で視ていた。


「けれど…――だんだん、悲しくなっていった。暁の人達が、死んじゃうことが…」
「名前…」
「だんだん、みんなと、暁の人達、両方が死なない未来を探していった。すべての人の幸せが合わさった未来に、向かいたかった」


みんなの願いが、幸せが、交わらない…!


「けれどそんなもの、この右眼で視たどんな未来にだって、出てきてはくれなかった」


眉を下げて、ため息を吐き出すように笑う。


「正しい選択肢を、選びたかった。――正しい選択肢が、欲しかった」


この巻物の中にいて、お父さんとお母さんと一緒にいられるのは、二人がこの巻物に込めたチャクラの分だけ…だから、チャクラが切れれば私はまた、外に戻る。
――きっと、戦争が始まる。
…戦争なんて未来が起こる選択肢は、出て欲しくなかった、選びたくなかった。
けれど、過去は変えられないし、変えてはいけない。


「…もう、何もかも遅――」
「ったく、本当に母娘揃って似やがって!」


するとお父さんに、呆れたように頭に手を置かれた。

俯いていた私は、その行為にびっくりして肩を揺らす。
そして目を丸くして見上げると、少し不満そうなお父さんの姿がうつった。


「過去や未来が視れるからって、世界のすべてがお前のもんじゃねーんだよ。勘違いすんな、名前!」
「か、勘違いって…」
「お前の時空眼で視たいくつもの未来、いくつもの選択肢。それは、選んで終わりなわけじゃねえだろ」
「…でも、過去はもう、変えられな――」
「だから今と、そして未来を、変えるんだろ!」
「――!」


目を見開いて息をのむ。
真剣な眼差しのお父さんの隣で、お母さんが優しい笑みを浮かべたまま私を見ている。


「いいか名前、正しい選択肢なんかねぇんだよ、どこにも。あるのはただ、無限に広がるいくつもの道だけだ」
「……」
「時空眼を持ってるお前と、それ以外の奴ら。そこに大した変わりなんてねぇよ。誰の前にだって、未来はいくつも転がってる」


お前はただ、その未来をちゃんとした光景として視られる、――それがプラスしているだけに過ぎねえ、とお父さんは続ける。


「けど、お前はそうして未来が光景で視られるからこそ、一つの道にだけ置いてあった石ころが現れたら、それだけで、その道に決まったと思ってる」
「……」
「幸せな未来に行きたかった、だぁ?一番最初にそれを諦めてんのは名前、お前だぜ」
「私、が……?」
「他の奴らには、未来なんてものは視えねぇさ。けど、だからこそどんなにデケェ壁が現れようとも、その先を幸せな未来にしようとして、もがくんだ」
「――!」


鈍い衝撃が、脳内に起こる。
そしてそれはじんわりと、波紋を起こしていく。

お母さんが、私の肩に手を置いた。


「名前、さっきお父さんが言ったように、正しい選択肢なんてものは無いわ。あるのは無数の道…大事なのは、その道に入ってから、自分の望む未来へと進んでいくことよ」


鈍い衝撃からの波紋は、少しだけ目眩を起こさせて。
胸の辺りを、重くさせて。


「時空眼を持ってるお前だからこそ、分かるだろ、名前。――道はいくつもあって、運命なんてモノはねえ。――もがくことを、諦めるなよ」


けれどそれを乗り越えるように呼吸をすれば、目眩は無くなり、視界が晴れたような気がした。
そして胸の重みはだんだんと上に上がって、透明な、涙として外に出た。

私は震える唇を緩く噛みしめながら口角を上げて、――強く、しっかりと、頷いた。


「――!」


すると、そんな私に応えて笑ってくれた二人の姿、そして空間が一瞬薄れて、思わず息をのんで身を乗り出す。


「それじゃあ名前に、伝えとけってばよ!!」


そして聞こえた。
――ナルトの声が。





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