舞台上の観客 | ナノ
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「#甘甘」のBL小説を読む
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――中忍試験の後、また旅に出てマダラさんに出会い、私は時空眼を開眼した。
そしてその時、いくつもの過去と未来を視た。
…今、私の前に立つ二人の男女のことも、その時の過去の中で、視たことがある。

その二人は幸せそうな笑顔で赤ん坊を抱き、その子を名前、と優しい声で呼んでいた。


「名前、あなたが時空眼を開眼していることに対して、色々、思うことはあるわ。主に、負の感情で…」


けれどね、と続ける、その女の人の声が震えた。
その人の白い頬を、涙が流れる。


「それよりも凄く、凄く…っ、嬉しいの。また、あなたに会えたことが」


唇を噛んだその女性の肩を抱き寄せる男性は、とても優しい眼差しで私を見ながら


「ったくよぉ、時空眼も受け継いで、髪の色も母親似。俺に似たところが無くすげぇ美人になってくれたことを喜ぶべきか…」


けれど口調はぶっきらぼうに、そして笑う。


――この二人は私の左眼の中で、幸せそうに赤ん坊を抱き、その子を名前、と呼んでいた。

そして私は…幼い頃の私はこの二人のことを――


「お父、さん。…お母さん」


今の今まで、驚きすぎて言葉が出なかった。
けれどそうして口を開けば途端に、涙が出た。

瞬きをすれば何故だか自然と時空眼が解けて、元の琥珀色が現れる。

視界がボヤけて捉えられなくなった二人を、すると今度は、あたたかさで感じた。
――抱きしめられて、いた。

私とそう背丈の変わらない、…お母、さん。
けれど、どうしてだろう…すごく…あったかい…。

涙が、とまらない。


「琥珀色……目は、俺か」


…お父、さんが…私と、お母さんを一緒に、抱きしめてくれる。

あたたかかった。
すごく、すごく。
…涙が、とまらなくて。


「ぅう…っ、ぁ、ぉ、父さ…おかぁ、さ……!」


私は、泣いた。
まるで、小さな…子供みたいに。














「それでよ、覚えてるか?」と歯を見せて笑いながら聞くお父さんに、首を傾げる。

すると胡座をかいているお父さんは、その前に座る私の頭をグシャグシャに撫でた。


「名前、お前がまだ生まれてからそう経ってねえ時だな。俺の土遁で、お前だけの遊具を家の庭に造ったんだ」
「あ、うん、覚えてるよ」


にっこり笑うと、お父さんがまた私を抱きしめてくれる。


どうして今のタイミングで私を抱きしめてくれたのかは、ちょっと良く分からないけれど。
…もしかしてお父さんって、こう、感情表現が激しい、というか…おおらか…?な、人なのかな。
本当はお母さんのことも、ハニーとか呼んでたりして…って、ああ、それは無いか。
時空眼で視てたんだった。


「よく砂浜で作る、お城みたいな物とかのことだよね」
「そうそう!そしたらお前、まだ舌っ足らずなのに目ぇキラキラさせながら、ステキーって言うからよ。思わず嬉しくなって、家と同じくらいなのを造っちまったんだよな」


するとお父さんは、今度はお母さんの肩に手を回す。


「で、造って名前と遊んでるとこまでは良かったんだけど、こいつが帰ってきてふと我に帰ってよ」


お母さんが私を見る。
そして、優しく頭の上に手を置いた。


「お父さんはね、私が、怒ると思ったらしいの」
「だってよ、さすがに、家と同じ大きさだぜ。邪魔だろ。――なのにこいつも、名前、お前と一緒で素敵って笑うからよ。…あーもう本当、お前ら大好きすぎるぜ」


ぎゅうっと、お母さんと一緒に抱きしめられて頬が緩む。

するとお父さんは少しだけ顔を離して


「それにしても名前、お前よく覚えてるな。あん時はまだ、お前、確か五つにもなってなかったはずだぜ」
「ああ、それは、覚えているんじゃなくて、時空眼で視たからだよ。時空眼を開眼したのはまだ数年前だから、それから視た過去や未来のことは、まだ大体覚えてるんだ」


すると私の言葉にお母さんが微かに反応を示した。
ゆっくりと私を、少しの不安さを含んだ真剣な眼差しで見定める。


「名前、あなた…その時空眼はどうして、開眼したの」

「でも私は、忘れて欲しいんです。時空眼の、ことを」


左眼で視た、二人の死に際、死に様。

その光景が脳裏をよぎる。


「…開眼、させてもらったんだ」


するとお父さんは舌を打って


「俺達が死んだ後で時空眼のことを知ってて、そして名前に開眼させられる奴なんて、一人しかいねぇよ」


お母さんが不安げにお父さんを見上げる。


「俺達の意思は、伝えといた筈だぜ。それを…」


お父さんはまた舌を打つ。


「大体、俺は最初から、どこかアイツのことは気に入らなかった」
「…まあ、自発的に時空眼を開眼すること…それは、眼の持ち主が危険な状況にさらされた時となってしまうから…それはそれで、心配だったのだけれど…」


顎に手をあてて俯いたお母さんが、私を真っ直ぐに見る。


「今更、名前が時空眼を開眼してしまったことをどうこう言うつもりは無いわ。今の私達は、あの巻物に込めたただのチャクラ…どうにかすることは、出来ない」


けれど、ねえ、名前。
そう続けるお母さんの目を、私も真っ直ぐに、見返した。


「あなたは、時空眼を持って――辛くはない?」





120824.