「決定的な、違い…」とおうむ返しに呟いたナルトに、マダラは頷く。
「イタチも名前も、誰かのことを想い、そうして自分を犠牲に何かをする…だがイタチは知っていた。自分が犠牲になることで、悲しむ誰かがいることを。そしてそれでも、覚悟を実行した男だ」
「…そうか、それが、イタチと名前の違い」
目を細めたカカシに、ナルトが眉を寄せ首を傾げる。
「カカシ先生、違い、って」
「ナルト、お前にもいくつか、心当たりはあるだろう…名前はきっと、自分が犠牲になることで、悲しむ誰かがいることに、気がついていない」
「――!」
ナルトはハッと息をのんだ。
脳裏には、風影奪還の任務の際の名前が、口を開く。
「それにこんなふうに――みんなと私の間には、目には見えない壁がある。みんなと私は、違う。関係ないというか、気にしなくていい存在なんだよ。だから私のことは、」
ナルトの手が握りしめられ、けれどそれでも、震える。
「なんで」と絞り出すようにして言ったナルトに、カカシとヤマトは目を細め、マダラはいたって冷静に見下ろす。
「なんで、アイツは…!」
「――何故お前は、自分のことを見ない、名前…!!」
――瓢箪から出で、宙に浮いていた砂が、まるで我愛羅の怒りを表すように破裂した。
けれど私はそれよりも、初めて聞く、我愛羅の震えた声…初めて見る、我愛羅の怒りに染まった瞳に、目を見開く。
テマリさんとカンクロウさんも、驚きから目を丸くしている。
「お前は今、連鎖する憎しみを断ち切らなければいけないと言ったな。そしてその為に、雷影の狙いを、サスケから己に変えようとした。だがそれではまったく無意味だ、憎しみの連鎖は、止まらない」
私は我愛羅の言葉に疑問符を飛ばす。
「どうして、だって、もしサスケが殺されてしまえば、悲しむ人はたくさんいる!だから私が…!」
「だから、だと…?お前は、自分が殺されることで、悲しむ人間がいないとでも思っているのか…!」
「――!」
息を、のんだ。
「お前が憎しみを請け負い、復讐を受け入れ、殺される。それで、憎しみが終わると…お前を殺した奴に、復讐しない奴がいるとでも、本気で思っているのか…!」
目を見開き、荒く息をしたまま、私は、何も言えない。
「お前が誰かに殺されると想像しただけで、俺の身体の中には、憎しみが満ち溢れるんだ、名前…!」
「――何故名前が、自分のことを考えない、か…悪いなナルト、その問いには流石の俺も、正しい答えは教えてやれない」
――鉄の国周辺、民宿。
「ただ言えることは…アイツらの一族は皆、そうだった」
ナルトがハッと顔を上げる。
「自分のことを考えず、周りの奴のことばかり考えて、そうして自分を犠牲にする…周りの奴らは皆、アイツらのことを想い、悲しんでいたのに…アイツらはそれに気づかない」
歯痒そうな表情をするナルトを、マダラは赤い瞳を光らせながら見下ろす。
「名前、お前は俺の、――やっと出来た、大切なつながりだから…!」
そして少しうつむくと「ま、最近はどうやら、気づかされてきているようだがな…」と一人仮面の中で呟いた。
そんなマダラに、カカシが少しの疑問符を浮かべる。
「マダラ、お前は名前の一族について随分と詳しいが、それはいったい…」
「カカシ、珍しいのは俺じゃないだろう。むしろ、あれだけの瞳術使い達のことについて、何も覚えていない、他の奴らを不思議がるべきだ」
カカシは眉を寄せた。
「今の言葉からすると…まるでお前以外の人間が、一族のことを忘れちゃったみたいだね」
「ああ、その通りだよ」
「…とても信じられない。こんなにも完全に、まるで最初から知らなかったみたいに、誰かのことを忘れるなんて」
ヤマトの言葉に、マダラは間髪入れずに口を開く。
「現火影、雷影、土影、その他大勢の奴らが、忘却に関わる生き証人だ」
「――!」
「人の記憶、そして文献…アイツら一族は文字通り、歴史から姿を消したのさ」
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