――鉄の国周辺。
静かに雪が降る中、民宿の屋根に穴が空いている。
その穴の下の部屋にはナルトがおり、睨むように上を見上げている。
屋根の上にはヤマト、そしてヤマトの木遁によって捕らえられた仮面の男、マダラの首元にクナイをあてるカカシの三人がいた。
「お前らはさっき、木の葉で、時空眼に関する巻物を見つけたと言っていたな…そこには、アイツら一族が過去、そしていくつかの未来を視ることが出来ると記されていた筈だ」
ナルト、とマダラが呼ぶ。
「お前は最初、そのことを知って、何を思った」
「…どういう、意味だってばよ」
「言い方を変えるか…お前は時空眼を、便利な瞳術だと思うか?ナルト」
少しの疑問符を飛ばすナルトを見据えたマダラは、そうして灰色の空に視線を移すと、その赤い目を細めた。
「時空眼の存在を知った者の中には、それを便利なものだとして考える奴らが決して少なくはなかった。起こりうる可能性を導き出せる瞳術だからな…自分の里、そして他里のこれからを予測させ対処すれば、自ずと利益が得られる」
「時空眼も、尾獣と同じように、各里が欲しがるものだったというわけか」
カカシの言葉にマダラは「ああ」と静かに肯定する。
「だが当の本人達の中には、その時空眼がもたらすものがだんだんと、重荷になってくる者もいた」
マダラが目を閉じ、仮面の奥の赤色が消えた。
そしてマダラの脳裏には、琥珀色の髪をした女の、華奢な後ろ姿がうつる。
「過去、未来の両方から挟まれて、自分が今いる現実ですら、動けなくなった」
マダラがゆっくりと、目を開ける。
そしてたまった息を吐いた。
「ナルト、今回の木の葉襲撃で長門と出逢い、分かったろう。戦争に関わらず、何か物事が起きる時、そこに理由が、意志が、信念が、無いなんてことは、あり得ない」
ナルトが歯を食いしばり、固く音が鳴る。
「時空眼を持つ者達は、左の眼によって敵の過去、理由を知った。そしてソイツらは、その敵の理由に心を入れてしまう奴らだった」
けれどマダラの言葉に、ナルトはハッと息をのむ。
いくらか前の、火影室での会話が思い出される。
「――あの子は飛段の、いわば墓の上で、泣いていた…暁のメンバーの死を、心から悲しんでいた」
「…名前は、そういう奴だ」
「名前は、長所とか…良いところを見つけんのが、すげえ、上手いんだってばよ」
「悪いところも、良いところに変換出来るっていうか…まあ流石に、犯罪者っていうことまでを良いふうに変換してることは…」
「ナルト、時空眼を持つ者達全員が、お前のようじゃあない。そして奴らの前に立った敵達が皆、長門のようじゃあない」
ナルト、とマダラは続けて彼を呼んだ。
「そんな時アイツらは、どうすれば良かったと思う」
――分かっては、いた。
たとえ八尾の人柱力が生きていたとしても、大切な人が狙われたという事実は確かな過去になって消えはしない。
それに今も変わらず暁は、人柱力を狙っている。
時空眼の作用ですら、力で覆そうとしている雷影を見て、手を握りしめた。
それでも、期待、した。
もちろん、雷影がサスケから狙いを外すなんてこと、それは無理だって分かってる。
けれど、サスケの、命を。
命を狙うことは覆してくれるかもしれないと、願った。
「クソ、何だこの瞳術は!わしは早く、うちはサスケの元に行かねばならんのに!」
どうしたら、良いんだろう。
私は、どうしたら、良い?
「将来の夢は…誰しもみんなが幸せな世界が、見たい。そして微力でも、手助けが出来るならいくらでもする――。…そんなところです」
私は、素敵な人達の幸せをつくることを、私に出来る限りなら、手伝いたい。
「ん〜…でもなあ…みんなが幸せなのが私の幸せだから、つまりそれって私の為になっているんだよ?」
その人達が幸せなら、私も嬉しい、幸せだ。
…けれど、
「サスケは絶対ェ、俺が連れ戻す!一生の約束だってばよ!」
けれど…!
「鷹の目的はただ一つ…木の葉を潰す…!」
みんなの願いが、幸せが、交わらない…!
誰かの幸せを手助けしようとすれば、違う誰かの幸せが消える…!
誰の幸せを優先すれば良いかなんて、私が決めていいことじゃない。
けれどそれなら私は、どうすれば良い?
誰かの不幸せの上にしか、違う誰かの幸せは、つくれないのかな…。
「術を解け、暁の女!わしはうちはサスケを…!」
「だから、大丈夫だ。俺の未来は、幸せだ、名前」
私はハッと息をのむ。
「俺は、俺が殺されることでサスケが、幸せな未来を歩んでくれることを、信じているから」
「――殺すんだ!!」
雄叫びを上げた雷影。
私は、そんな雷影に向かって走り出した。
「――名前の一族の奴らで…仲間を裏切って、敵側についた奴は、いるのかってばよ」
――ところ戻って、鉄の国周辺の民宿。
ナルトの問いにマダラは「半分正解で、半分ハズレと言うべきか」と言った。
ナルトが疑問符を浮かべる。
「アイツら一族にとって、自分の周りにいる奴らを悲しませることは、同時に自分の悲しみだった。だが、周りの奴らを幸せにする為に、敵をその犠牲にすることは、アイツらには出来なかった」
「……」
「だが、世界というものは幸せだけで構成されることは決してない」
声が、空気を圧し潰す。
「そこでアイツら一族が取った行動は…自分が、その不幸になることだった」
「――!」
「幸せが誰かの不幸の上にしか成り立たないのなら…アイツらは、自分がその土台になることを、望んだのさ」
120508