「――響遁 重音の術――」
そうしてもう一度桃地再不斬の仕込み武器にクナイをあてると、他の人には聞こえない、見えない音の波動が伝わった。
ぶわっ…!と風に飛ばされたかのように後退する桃地再不斬は、ガッと足をついてにやりと笑って私を見る。
「ナルト、サスケ、早く…作戦とやら、お願いね」
振り返って少し微笑む。
そしてみんなに被害が行かないように、数歩だけ再不斬の方へと近づいた。
「小娘…今、何した…?」
「…………」
「響遁…なんて聞いたことがねえなァ…」
そしてまた、風を切る音。
確実にそれを耳で捕らえて、その場から飛び退く。
「避けた!」
サクラの声がする。
けれど直ぐに後ろで風を切る音がして、困惑しながらも急いで振り返る。
何で後ろから音が…―?!
私の前にはまだ再不斬が居るのに…!
すると私の後ろに居る、「もう一人」の桃地再不斬がにやりと口角を上げた。
「――っ…!」
ざっ…!と乱れたノイズ音と同時に左肩が熱くなる。
何とかかわしたけれど、少しかすった…!
反射的に左肩を抑える。
眉を寄せる。
しまった…!
水分身がもう一体…!
小さく舌を打つ。
ダンッ!と地面を蹴って高く高く飛び上がった。
「――響遁 重音の波――」
鈍く動く左手をもどかしく思いながらも印を組む。
下にいる桃地再不斬の水分身二体に手をかざした。
――バシャッ!
波動が伝わった水分身が振動によって水分子に戻る。
見届けて地に足をついた。
――――!
けれど地に足をついた瞬間、地面に染み込んだ水から再び桃地再不斬が出てきた。
ガッ…!首を掴まれる。
「っ…!」
「クク…中々やるじゃあねーか、小娘。お前は見込みがありそうだぜ…」
首を掴まれたまま持ち上げられて、足が地面から離れていく。
「名前!」とカカシ先生の声が聞こえた。
「だがなァ、お前は俺には勝てねえ。根本的に足りねえモンが二つある…。一つは、経験。そしてもう一つは――」
力だ!
そう聞こえたと同時に、投げ飛ばされたと理解する。
耳の横を風の音が強く通り過ぎていく。
ナルトやサクラやサスケや、私を呼ぶ声が離れていく。
「――響遁 軽音の壁――」
術を紡いだ次の瞬間、投げ飛ばされたことによる風圧がふっ…と軽くなる。
おかげで木にぶつかったものの衝撃は少ない。
「った…」
けれどやっぱり、斬られた左肩に鋭い痛みが走った。
あの風圧のままぶつかっていたら、下手すれば死んでいたかもしれないけれど。
「〜っ…」
じんじん、じんじん、
斬られた箇所から渦のように痛みが広がる。
抑えている右手も血に濡れ、ぽたぽたと左の指先からは血が滴る。
まるで麻痺したみたいだ…。
けれど痛みは感じるし…。
「っ、早く、戻らなきゃ…」
何してるんだ、私は…。
結局投げ飛ばされて…。
「みんなの所に、…っ」
みんなはまだ、戦ってる。
早く、戻って、私は――
「止血した方がいいですよ」
すると左側から声がして、息をのんで振り返る。
そこには面をした、私より少し背が高い程の人が居て。
驚く私の隣に膝を折った。
「、あの…」
「僕のことは気にしないで下さい。あなたに危害を加えるつもりはありません」
――…柔らかい声…。
なんて、呑気に思っていると、彼が布を取り出して私の肩に巻いてくれた。
止血してくれた。
「あ、あの、…ありがとう、ございました」
「いえ…」
じんじん、じんじん、
痛みはまだあるけれど、止血してもらったから動ける。
一人だったなら、止血はきっと出来なかった。
出来たとしても、もう少し時間が経ってから。
この人の、おかげだ。
立ち上がると、何故か彼が私の前に立った。
首を傾げる。
「…あの…?」
「――…君は、そんなに痛い思いをしたのに、また戻りに行くんですか…?」
「え……」
「何故、また戻るのですか…?」
面をしているから、彼の表情は分からないけれど…―。
「仲間がまだ居るんです。だから私は戻ります」
「…痛い思いをするかもしれないのに、ですか…?」
「みんなが痛い思いをするのが、私は一番嫌なんです」
にこっと笑う。
「私は、みんなを守る為に戦いたい」
まだまだ自分は弱いから、それは出来ないかもしれないけれど、今自分が出来る精一杯をやりたいし、出来ないなら修行すれば良い…。
この想いは、いつまでたっても変わらない。
「…そうですか…」
「じゃあ私、もう…」
「いや…」
「…?」
「僕も、もう行きましょう」
110419.