舞台上の観客 | ナノ
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「時空眼を解かないのか」


イタチさんの問いに、私は眉を下げて笑う。


「あの、最近、普通の目の状態で誰かの目を見ると勝手に時空眼になって、その誰かの未来を視てしまうんです」
「そうか…だが、そのままならお前の身体に負担がかかる。俺なら大丈夫だから、時空眼を解け」
「…?」
「――恐らくだが写輪眼は時空眼に、何らかの作用をすることが出来る。お前のその発作のようなものも、抑えることが出来るだろう」


私は口を開けて感動のようなものをしながら、けれど恐らく、という言葉に、笑顔で首を横に振る。


「大丈夫です、今イタチさんと話せる間位ならば多分、時空眼の状態のままでもそこまで身体に負担は来ません」
「だが、お前はいつからその状態でいるんだ?デイダラの爆発のときは…」
「あ、いや、その、ええと」


イタチさんは息をつくと、真っ直ぐに私を見た。


「間違いなく身体に負担がかかっている、今すぐに時空眼を解くんだ」
「イ…イヤ、です」


固く笑いながらイタチさんを見上げ、言うと、イタチさんは虚を突かれたように目を丸くする。


「もし、作用が効かなくて…同じように、右目が勝手に時空眼になれば…イタチさんの未来を、視るんです」


イタチさんの顔が、目が、見られなくてうつむく。


「イタチさんはこれから…サスケと、戦う」
「…ああ、そうだ」
「私は、もう…イタチさんの未来は絶対に、視たくないんです…!」


――すると数秒して、イタチさんの手が頭に置かれた。

けれど私は見上げることはしないで、唇を噛みしめる。


「お前は本当に、優しいな」
「イタチ、さん」
「けれど名前、大丈夫だ…俺の目を見ろ」


イタチさんの言葉に、時空眼は解かないまま、おそるおそる、イタチさんを見上げる。
――赤い瞳と目が合った瞬間、頭を、殴られるような衝撃が襲った。
けれど痛みは無くて、思考だけがボウッとする。


「時空眼を、解くんだ」
「イタチさ、」
「俺を信じろ、名前」


――赤い瞳を見つめて、そうして私は眠るように、まぶたを下ろした。
圧されて目から涙が流れて、頬を伝う。

――時空眼を解いて、再びイタチさんの目をとらえた時…けれど私の目には何も、起こらなかった。


「ゲホッ、ゲホッ!」


変わりに時空眼の負担で、身体に衝撃が来て咳き込む。
一気に上がった心拍数からむせ上がるように咳が出て、前屈みになり口元をおさえる。

指の先から血の気が引いていく感覚のなか、背中を叩いてくれるイタチさんの優しい手だけがあたたかい。


「デイダラの爆発に巻き込まれたかもしれないと聞いて、心配していた…マダラも場所に居たならば大丈夫だとは、思っていたが」
「ゲホッ…ゲホッ」
「名前、俺はお前に、話をしに来た」


これがイタチさんとの最後の会話になるのなら聞きたくない…そう思いながらも私は、唇を噛みしめて頷く。


「前の、尾獣狩りの時…鬼鮫を待っているときの会話の内容を、覚えているか」
「はい、確か…」


「不思議ですよね…時空眼を持つ者誰もがこの術を使わなきゃいけない決まりなんて無いのに…みんな、同じように使ってきた」


「私の術についての話を、していましたよね」
「ああ…あのときお前は、その術を使うことを、幸せな未来だと言った。だが時が進み、術を使う状況にまで全てが進んだとき…自分自身の気持ちを考え、そして術を使うかどうかは、それから決めろ、名前」


自分自身の、気持ちを…?
それに、今の言い方からするとイタチさんは、この先、私自身があの術を使うことを望まなくなるかもしれないって、そう、言っている…?
ど、どうしてだろう、私は、あの術を使うことをむしろ、望んでいるのに…。


「そして…お前の周りの人間のことも、考えるんだ」
「わ、私は周りの人達の幸せを望んで、術を…」
「たとえお前がそう思っていたとしても、うずまきナルト…アイツらは、お前があの術を使うことを、望みはしないだろう…術の使用後に、自分達と、そしてお前の身に起こることを知ればな」


イタチさんの真っ直ぐな瞳を、困惑の色を浮かべて見上げ返す。


「お前も薄々、分かってきている筈だ。お前の周りの人間がお前のことも考え、お前のことも見ていて、そしてお前を、どう思っているかを…」


私はハッと息をのむ。


「それに、ここに居る誰一人として、お前をもう、暁へ行かせたくはないんだよ」
「何度だって言うさ、名字名前。ここに居るこいつらは、お前を信じているんだ!結界など使わせずに、お前が自分から木の葉へ戻ってくるのを信じて、そして必死になってるんだよ!」
「けど、理由が分かってたって分かってなくたって、俺は、サスケも名前も、木の葉に連れて帰りてえ!」
「大事なやつがそんな中に居たら、引きずり出したいって、連れ帰りたいって思うことは、当たり前のことじゃねえのかよ!」
「行って、どうするっていうのよ!――また、ひとりで泣くの…?」


そして脳裏に、何度も浮かぶ、私を悩ませる言葉の数々が、ナルト達の必死な表情と一緒によぎった。





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