「ど、うして……音は、しなかったのに…」
――響遁を使うからなのか、どうなのか。
それは分からないけれど、私は、自分の聴覚をかなり頼りにしている。
キバの嗅覚までとはいかないけれど、私の聴覚は平均と比べて、優れている方だから。
なのに、シカマルの音はまったくしなかった。
いつからか、なんてのも、分からないくらいに。
するとシカマルが、地面を目だけで見た。
私もつられて視線を落とすと、そこには夜の闇と、月の明るさから出来た、影。
「影の上なら俺はまあ、結構好きに動けるからな」
――そして、気がついた。
自身を足元から強く引き付けている、身体中を縛るような、感覚に。
「――影真似の術、成功」
口角を上げて、でもなんだか少し悲しそうにも見えるような笑顔になったシカマルが、立ち上がる。
私も同じように、立ち上がった。
そして、今度こそ私の聴覚はとらえた。
林の中を駆け巡り、だんだんとこの場所へ近づいてくる、無数の足音に。
――――数秒後、私とシカマルの周りには、懐かしい人達の姿で溢れていた。
ナルト、サクラ、カカシ先生、いの、チョウジ、シノ、ヒナタ、キバ、それにガイ班。
「お前が名字名前か、直接見るのは初めてだな」
そして――五代目火影の、綱手さま。
この右眼で、何度か視たことがある。
「…驚きましたね、まさか、網を張っていたなんて」
「まあ、いたって簡単なものだがな。 奈良家の鹿に、不審者が来たならば教えろと、頼んだだけだ」
「昔と変わらず、鹿達はお前のことが好きみてぇだけど、それが、鹿達が俺に伝えねぇ理由にはならねぇからな」
…泣いていたから、かな…。
シカマルの音に気が付かなかったことは、さっきの言葉があるからとして…けれど鹿が伝えた、っていうこと。
これは、鳴いて伝えたのか、直接伝えに行ったのかは分からないけれど……そのことに気がつくことは、出来た筈だった。
「…そうして不審者はまんまと、網にかかってしまったわけですね……けれど、」
「――お前は勘違いしているぞ、名字名前」
「…勘違い……?」
五代目の言葉に、首を傾げる。
「私達は暁を捕らえる為に、網を張ったわけではない」
「…、……?」
「お前は、S級の犯罪者などではないからな」
「…?なにを…」
――そこで私は、思わず言葉を、途切れさせた。
林の奥から、数日前に交戦した木の葉の忍二人と、そして――アスマ先生と、紅先生が、現れたから。
111106