舞台上の観客 | ナノ
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――緊迫した空気。
一瞬間前よりも気温が下がっている気がする。
それに靄も漂い始めた。

しゅるしゅるしゅる…!

一つの木へと戻っていく首斬り包丁の柄をガシッと力強く掴んで、そうして重さなんて分からない程軽々と自分の肩に乗せる男。


――…桃地再不斬…。
何処かで聞いた気が…。
…さっきの敵の忍者二人は確か霧隠れ…。
ということは桃地再不斬も恐らく…――。


ハッと気がついた。


そうだ、思い出した!
霧隠れの暗部で無音殺人術の達人、桃地再不斬だ!


「お前ら、卍の陣だ!タズナさんを守れ。お前達は戦いには加わるな。――それが、ここでのチームワークだ…」


カカシ先生の言葉に、四人でタズナさんの前に立ってクナイを構える。



「――忍法 霧隠れの術――」



少し離れた所で桃地再不斬と対峙するカカシ先生の背中が、霧に紛れていく。


「8ヵ所――喉頭・脊柱・肺・肝臓、頸静脈に鎖骨下動脈、腎臓・心臓…。さて…どの急所がいい…?」


クク…と、何処からしているのか分からないような声が、濃霧に包まれた辺りに響く。

息さえも迂闊に出来ない雰囲気。
びりびりと肌を何かが刺す。

――ぐっ、歯を食い縛る。


はっきり言って、怖い…!
それはもう、本能的に。
ライオンを前にしたウサギ、もしくは蛇に睨まれたカエルも、きっとこんな感じなんだろう。

――でも!
怖がっていてどうする!
本能的に怖い、私は桃地再不斬を恐れている、本能的に。
けれどそれが何だ!
本能的でも何でも、これは私の体なんだ!
何だって出来る!



足踏みしているだけじゃあ、前には進めない
下を向いてたら、何かを言っても聞こえない

――怖がっていちゃあ、何も出来ない



一人で小さく頷いて、辺りを見回す。
そして気がついた。

サスケの汗が尋常じゃない。
顔も青ざめていて、クナイを握る手も震えている。

少し考えて、そうっと小さくサスケを呼んだ。


「っ…?!」


バッ!と勢いよくサスケがこっちを向いて目が合う。
私だと分かったサスケの肩の力が抜けたのが分かった。

にこっ、意味もなく微笑む。

少し驚いているサスケの頬を汗が伝った。



「――安心しろ」



するとカカシ先生の低いような、低くないような、――安心する声がした。


「お前達は、俺が死んでも守ってやる。俺の仲間は絶対、殺させやしないよ」


にこっ、カカシ先生が優しく微笑んだ――次の瞬間、


「それはどうかな…?」


今まで何処からしていたか分からない声が、サクラとサスケの直ぐ後ろ、タズナさんの直ぐに前でした。


「――終わりだ」


私はタズナさんの腕を力の限り引っ張って、固まっているタズナさんをよろけさせる。

すると立ちはだかるようにカカシ先生が現れて、桃地再不斬の腹にクナイを刺す。
けれどその腹から流れるのは血じゃあなく水。


――霧隠れ…水分身か!


カカシ先生の後ろに現れた桃地再不斬が先生を首斬り包丁でぶった斬る。


「カカシ先生!」


けれどそれも、水分身。
バシャッと透明な水になったカカシ先生は、桃地再不斬の後ろに居た。


それはたった、十秒に満たない中での出来事だった。






110418.