涙が流れた目を擦って、ハァ…と息を吐く。
そして自分の中で踏ん切りをつけてから、五人を振り返って
「うわあ!ご、五人とも顔、すごいぞ、泣いて」
ただただ涙を流したり、嗚咽を漏らして泣きじゃくっている五人に、慌てて駆け寄って頬に触れる。
けれどその瞬間、自分の手のひらに血がまた見えて、びくりと揺れた。
そのまま手を離そうとすれば、けれど雷蔵につかまれる。
「らい、ぞ」
「名前、血、見える?」
「!」
「血…まだ、見える?」
気づかれていたことに驚きつつも、私は、雷蔵につかまれた自分の手を見る。
そこには、白い、雷蔵の手しか見えなくて。
当たり前なんだけれど、血に濡れて見えた私の手のひらはすっかり、雷蔵の手で、見えなくなっていて。
「見え、ない」
泣きそうになりながら言うと、三郎に横から抱きしめられる。
ふわりと、柔らかい匂いが風に乗って届く。
「血の匂いは、するか?」
鼻を啜りながら、三郎が聞いてくる。
雷蔵が私を抱きしめる。
兵助が、ハチが、勘ちゃんが私を抱きしめる。
柔らかい匂いで、包まれた私は、その大事な、大切なものを失いたくなくて、私からもみんなを抱きしめる。
「しないよ…しない…!」
六人で、泣きながら、抱きしめ合っている。
「名前、名前、ありがとう…!残ってくれて、離れないでいてくれて…!」
「きっと、ね、もとの世界にも、ツラいことはあると、思うんだ、それに、楽しいことも…どこに居たって、それは変わらない」
ぎゅう、と目を閉じると、涙がいくつも頬を流れた。
べろり、舐め取られる。
「けど、それなら私は、五人と一緒にいたい…!」
「僕達もだよ、名前…!」
「ツラいことがあったとしても、一緒に幸せな記憶を、つくっていきたい…!」
「名前…!」
涙で濡れた視界で、みんなを見た。
「一緒に、生きていって…いい?」
「言葉にしなくても、分かってるだろ…!当たり前だ!」
「――それで、今日の昼に学園長先生はもちろん、他の先生や事務員の人にも…って、あのさ、みんな」
何?と揃って返されるが五人とも、私の顔を舐めたり唇をあててくることは、これまた揃ってやめてくれない。
「その、流石に、喋りにくいんだけど」
「名前が学園に残ってくれると分かったんなら、もうそれだけで十分だ」
「あ、でも…名前は将来は、どうするの?」
「うん、そのことはまだ未定。それこそみんなと話して、決めていきたい…今はただ、みんなと一緒に居たいっていう気持ちが強いから、」
言葉の途中で顔やら首やらに五人が唇をあててきて、さすがに頬に熱を感じた。
すると兵助が不安さが窺える真面目な顔で、顔を寄せる。
「名前、前に伝えた、私達の気持ちについては」
「え、あ、うん、その…」
――この世界は私にとってツラいと、そう、思っていた。
「それがその、考えたんだ、けれど」
「考えたんだ、けれど?」
――でも、三郎が、雷蔵が、兵助が、ハチが、勘ちゃんが居るのなら…世界は、優しくなる。
「よく、分からないんだ。だってみんなは、ずっと前から私の一番そばに居てくれて、もうとっくに、友人っていう枠はこえてるよ」
「そ、そうなのか?嬉しい」
――ずっと、決めれていたようで、そうじゃなかった。
けれどもう…大丈夫。
「でもそれが、恋愛感情なのかどうか、分からなくて…」
「いいんだよ、名前、ジューブン。そこを意識させていく為に、俺達これからグイグイいくんだから、ね」
「グ、グイグイって…けれど、ねえ、みんな、今もね、どんな枠でみんなへの気持ちがくくれるのかは、分からないんだけど」
――私は、この世界で、生きていく。
「私はみんなが、世界で一番、大切だよ」
――ツラくて、けれど優しい、この世界で。
111230.end