「お、い、勘ちゃん」
兵助が勘ちゃんの名を呼ぶ。
そんな兵助は、顔面蒼白で…月明かりの光の中、白をこえて青白い顔だ。
そのことに驚きながらも、私は、今の勘ちゃんの言葉に身体から思考まで支配されていて。
「好きなんだよ、名前が!同級生だからとか、友達だからとか、人間的にとか…あ、人間的にはもちろん、名前だから、大好きなんだけど!」
そして勘ちゃんの顔は、兵助とは逆に、だんだんと赤くなっていて。
勘ちゃんが唇を噛みしめると同時に、私の心臓が強く動いて、苦しくなる。
「今驚いてる名前は可愛いって思うし、さっき泣きそうな顔してた名前は抱きしめたくて、慰めたくて、笑って欲しいって思う」
「か、勘ちゃ、」
「口吸いだって…!したいなって、思ってるよ!ていうかそれ以上のことだってもちろん、思ってる…!」
「え、えええええ勘ちゃん」
半ばヤケクソのように続いていく勘ちゃんの言葉に、私はさっきまでの重い雰囲気はすっかり忘れてどもる。
勘ちゃんが、私のことを、その、恋人に対する気持ちで好きってこと?
え、ええええ、ウソ、いや、本当だよね、勘ちゃんの表情、必死だし…。
そこで私はハッと息をのむ。
「違う、だって五人はみんな、五人が好きで、」
――五人がお互いに五人のことを、恋愛感情で好きなことには気がついていた。
みんな凄く優しい目をしているし、優しく笑う。
私はそんな中に混ざっていていいのか悩んでいた時期もあったし、けれど、五人から「男同士が愛し合うのはどう思うか」とか聞かれて、打ち明けてくれたことが嬉しくて。
「ああもう!勘右衛門が言ってしまったなら、私も言うさ!――名前、私達が私達どうしを好きだと気がついたのなら、どうしてその矛先が名前にも行っていることに、気がつかないんだ!」
「…えっ、矛先が、私にもって今、三郎、何」
「名前可愛い!私だって名前がとても好きだ!」
ズイッと三郎と勘ちゃんに顔を寄せられてたじろぐ。
けれど二人の顔が視界をうめながらも、三郎が言った言葉が文字になって視界を泳ぐ。
矛先が、私に。
五人はお互いに五人が、好きで。
恋愛感情で、好きで。
その矛先が、私にも。
「み、みんな、私のことも…好きだったの、か?」
すると、当たり前だ、とまあ語尾は違ったりするけれどみんなから肯定で返されて――
「――名前さん!?」
いきなり、少しだけまだ距離があった学園の扉が開いて、驚いて振り返る。
「郁!こんな夜中に何し…」
「名前さんに、伝えたいことがあって…!でも、任務だって聞いてたから、ずっと待ってて、」
そこで郁の視線が私の後ろに居る五人へ行くと同時に、郁が口をつぐむ。
あ、あー、あの、と郁と五人を交互にうろうろとさ迷い見た結果、私は五人を少し遠慮がちに見上げて
「とりあえず、その、今夜は、あの…ありがとう」
おやすみ、と言って私は半ば逃げるように、郁の手を取ってその場から去った。
――名前が場から去って数秒後、冷たい空気に長く熱い息が吐かれた。
「言っちゃった」
「同じく」
「二人とも、言ったね、僕は緊張しちゃって」
「雷蔵に同じく、そして何も言えなかった」
「俺も同じく」
勘右衛門と三郎は膝に手をついて、そして残りの三人は立ったまま…共通している点は、五人ともどこか呆然としていて、視線が動いていないところだった。
「――ねえ、あの女、随分と焦っていたよ」
「確かに…名前に伝えたいこと、って言ってたね、こんな夜中にわざわざ、待ってた程の、こと」
――五人はようやく目にしっかりとした光をともすと視線を交わし合って、そうして学園内に入った。
「どこに居るだろう」
「あの女の部屋の辺りだ、名前がこんな夜中に、あの女を一人で帰すはずはない」
――矢羽音で会話し合う五人が、足音を殺し、息を殺し、事務員の長屋周辺に着く。
「――あのね、名前さん!」
するとその庭から、女の弾んだ声が聞こえてきて、五人は足をとめた。
「もとの世界に、帰れるかもしれないの!」
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