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任務から帰ってきた五年生。
勘右衛門に背負われ、穏やかな顔で眠っている名前を見て一番驚いたのは、伊作で。


「もしかして名前君、寝てるの?」
「はい、どうやら名前、寝不足だったらしくて…」


名前を起こさせまいと息だけで会話する中、伊作が頷く。


「知ってるよ、名前君、昨日僕に睡眠薬をもらいに来たんだ、眠れないから、って」
「睡眠薬を…」
「けどそれでも眠れなかったらしいのに…今はぐっすり寝ている…君達の傍は、名前君にとってとても、安心出来るのかもしれないね」


その言葉に泣きそうな顔をした五人に伊作は笑うと、手に持っている薬をヒラヒラと振って


「薬、また新たに調合したんだけど…いらなかったみたいだね」


踵を返して去っていった。
――そして、喜八郎の掘った穴に落ちた。










「――どうする、雷蔵」
「さっきの伊作先輩の言葉が本当なら…いや、本当じゃなくても、名前のそばに、居たいよ」


――名前の部屋に着き、布団を敷いて名前を寝かせた五人は、部屋のなかで厳しい表情で会話する。

濁る雷蔵の言葉を受け継ぐように、兵助が眉を下げて


「けど、名前が私達を…拒否、すると思う」


その言葉に三郎がグシャグシャと頭をかく。


「私、さっき抑えきれなくて名前に抱きついてしまって、そして…名前に押し返されてしまった…」


――沈黙が空気を支配する中、すると部屋の襖が開かれて、五人が振り向くとそこには孫兵の姿があった。


「先輩、ここに居ると聞きまして…委員会のことで、先生から先輩に、言伝てを」
「お、おう…名前が寝てるから、外、出るか」
「いいえ、やっぱりやめます…先生からの言伝ての内容は、先輩がいなくても後輩達とだけで、出来ますから」


八左衛門だけでなく他の四人も驚いて目を丸くするなか、孫兵は真っ直ぐに八左衛門を見据えて


「先輩は、名前先輩のそばにいて下さい」
「孫兵…」
「――僕も、名前先輩が最近眠れていなかったことは、知っています。それに僕だって名前先輩の力になりたい」


孫兵が八左衛門の向こうの名前に視線をやる。


「微力かもしれないけど、僕らだって名前先輩の力になれます。――げんに先輩達が幻術にかけられ、名前先輩が独りになってしまった時には特にそう思えた」


そうして少し眉を下げた八左衛門に視線を戻す。


「けれどやっぱり、最後は僕達じゃないんです…先輩たちなんです」


五人が顔を上げる。


「――下級生だからかもしれないけど…僕らが名前先輩に、どこに行っていたのか、や、何があったのか、と聞いても、心配させないようにはぐらかされます」


すると遠くから、孫兵先輩、と生物委員会の後輩なのか孫兵を呼ぶ声が聞こえた。
孫兵はその方を向いて軽く頷くと、また五人に視線を戻し


「けれど先輩達は違います…五年間一緒にいて、一番そばにいて…名前先輩を一番、笑顔にするんです」


五人は、穏やかな寝息を立てている名前を見た。


とても触れたくなった。
けれど一度触れればとめられなくなりそうで、泣きたくなりそうで。
名前を起こしてしまうかもしれない、と。
そしてまた、名前からの拒絶が脳裏をかすめて。


「僕ははやく、名前先輩の一番の笑顔が見たいです」





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