首を斬った刀を鞘に戻して、そうしてまた背中にかけることは嫌だ。
けどこの世界、そういつもいつも新しい刀を買うのも、容易いことでもない。
「私は…忍者ですから」
でも、そう、私はまだ、今は、忍者だから。
まだ学園にいて、そして学費の為に任務を受ける、忍者だから。
忍者だから、震える心は、抑えなきゃ。
「――先に帰っていてって、言ったのに…」
「名前だけ置いて先に帰るのは、出来なくてよ」
――すると林の中、月明かりの先に五つの人影が見えて目をこらすとそれは三郎達で。
少し困ったように頬をかくハチに心臓が締めつけられるようになって、苦しい。
私は色んなものから逃れるように目を逸らして、そして少し先に流れる川を視界に入れた。
「血を、流してもいいかな」
――冷たい川の水で刀を洗い終えた私は、血のついた手を洗う。
さっきから血の匂いが鼻について、嫌だった。
「お前ンとこの城主は、あの戦で生き残った俺を高く評価してくれてな」
「だから俺と同じくお前にも褒美をやると…城主はそう、言っていたぜ」
――戦で生き残って、高く、評価…自分が殺されないよう、誰かを殺して生き残った者を高く評価して、褒美を与える。
「ありがたき、幸せです」
そんなもの、いらない。
高い評価なんて、いらない。
褒美なんて、いらない…!
「――名前」
――すると兵助に名前を呼ばれて、ハッと息をのんで顔を上げる。
兵助は少し心配そうに眉をひそめると
「どうかしたのか…?」
「あ、いや…大丈夫だよ、それより、どうしたの?」
「私はただ、もうそろそろ帰った方が良いかと言おうと」
「あ、ああ、ごめん…まだ血が取れなくて…」
そうして洗っている手に顔を戻す。
血の匂いに、歯を食いしばった。
「名前…?」
すると今度は三郎に呼ばれて、疑問符を浮かべながら顔を向けると、三郎は目を微かに見開いたまま私の手を見ていて。
そしてそのどこか緊張した風な表情は三郎だけじゃなく他の四人も同じで、私は困惑して、慌てる。
「ど、どうか、したか?」
「名前、まだ、血は…取れていないのか?」
「え?ああ、ごめん、まだ取れなくて…三郎?」
すると三郎に洗っていた手を引っ張られた。
驚きながらも、自分の腕と、そして三郎の腕を伝う赤い液体に慌てて
「三郎、血がつくよ」
「名前、血じゃ、ない」
「…え?」
「もう血は、取れている」
腕に視線を戻せば、腕を伝うのは、冷たい水。
さっきは確かに、血だと思った、血に見えたのに…。
私は血が取れていたのにも関わらず、血が取れないと言っていたのか。
それは確かに、五人の反応も分かるような…。
「ごめん、ぼうっとしていたからかな…学園に戻ろう」
薄く笑ってから、振り返って先頭をきって歩き出す。
けれどその時確かに、また血の匂いがして、少し眉を寄せた。
そして、服に返り血がついたのかと腕を上げかけて、
「!」
びくりと、体を揺らす。
確かに取れたはずの血がまた手のひらを、濡らしていて。
――けれど瞬きをした間になのか一瞬で血は消えて。
確かめるように、そしてどこか不安な気持ちを追いやるように、私は両手を合わせて握りしめた。
111214