三郎、雷蔵、勘右衛門の三人が一年は組と縁側で日向ぼっこしながらお菓子を食べている、そんなのんびりした時間。
雷蔵の膝の上で団子を上手そうに食べていたきり丸が雷蔵を見上げた。
「そういえば今日は三人なんすね」
「え?」
「五年生の先輩方は何時も、えーと…六人で居るイメージがあります」
「ああ…兵助もハチも委員会の仕事があってね。名前は…」
「またふらりと消えたよ」
「鉢屋先輩、」
「探しても中々見付からないんだ、名前は」
「ほんと、心配かけるよねー名前は」
勘右衛門の言葉に、はあ…と憂いを含んだため息をつく三人。
すると勘右衛門の膝の上に座っている乱太郎が「ああ、」と声を上げる。
「そういえばなんであの時もあんな所に居たんだろうね?きりちゃん」
「ん?ああ…あの時なあ。散歩って絶対違うよなー」
「…あの時…?」
「なんだよ、その話」
「僕達が学園長先生のお使いで裏ヶ山のふもとにある町に行った事があったんです!」
三郎の膝の上に座っているしんべえが口を開く。
乱太郎が話し出した内容に、三郎、雷蔵、勘右衛門は耳を澄ませた。
「行きは良かったんですが、帰りの山道で山賊にあって…―――」
「へへっ、可愛いねえ坊や達」
「大人しくしてたら痛くしないからねえ」
「大人しくしてたらな、ははは!」
ゲラゲラと下品な悪い声を上げる男数人。
そいつらに囲まれながら矢羽根を交わす乱太郎、きり丸、しんべえの三人。
「(ど、どうする?!)」
「(どうするも何もやばいだろこれ!俺達にどうにか出来る相手じゃねえよ!)」
「(か、刀に血付いてるよ…!乱太郎、きり丸!)」
「(っ…逃げるしかねえ!)」
軽く頷いて駆け出す三人。
不意を突いて上手く逃げたのも少しの間、大人との違いで直ぐに追い付かれて首根っこを掴まれる。
「ハッ!大人しくしたら痛くしねえって忠告してやってんのによ!」
「馬鹿な奴等だ!」
ちりちりと突き刺さる嫌な視線に眉を寄せる三人。
林の中に入っていこうとする男達。
もう駄目だ…―!
そうぎゅっと目を閉じた時。
「―…何してるんですか?」
声が響いた。
男達の不快な笑い声が止み、しんべえのしゃくりあげる声が戸惑いげにする。
突如何処からともなく現れたその男に、山賊達は舌を打つ。
「てめえには関係無えだろ」
「まあそうなんですけど…見付けてしまったので」
「チッ、うるせえな!」
「…あなた達は何が目当てなんですか?」
「…はァ?」
「その子達の持っている服?お金?―…それとも、体…?」
するり――。
妖艶さを含んだ男の流し目に、山賊達はごくりと唾をのむ。
べろりと、舌なめずりをして男を見回す。
「なんだい…お前が、相手…してくれんのか?」
「さあ、どうだろう。…まあ私の方がその子達よりもあなた達を楽しませる事は出来るだろうけど」
「…っ、いいねえ…」
細められた瞳に見据えられて、ぞくりと背中を駆け巡る欲望。
気付けば山賊達は何時の間にか乱太郎達三人を離していて、興味も無くなっていた。
五感全てが感じようと必死になっているのは、目前の男ただ一人。
「此処じゃ明るい…此方来いよ」
何も言わずに歩いていく男は山賊達と一緒に林の暗がりに消えてしまった。
「き、きりちゃんどうしよう!あの人きっと私達を庇ってあんな事…!」
「っけど、俺達が行った所で何が………そういえばあの人何処かで見たことないか?」
「きり丸もそう思う?僕もなんだよね」
「え?二人共なんで、っじゃなくて!今はそんなことより」
「――なんだ、まだ逃げてなかったのか」
「「「へ…?」」」
振り向けば先程の男が呑気そうに三人を見ていた。
「なっ、なっ、なああ?!」
「山賊達は?!何処に行ったんですか!」
「ああ、」
「わあああ!無事で良かったですー!」
「ぐぇっ」
どしんと勢いよく男に抱き着くしんべえ。
乱太郎、きり丸も男を囲む。
「ありがとうございました!本当に助かりました!」
「いやーもう駄目かと思いましたよ、ほんと!」
「無事で何よりだ。さっきの山賊達は最近出てきた奴等みたいでね、ここら辺は比較的安全なんだけど危ないから送ってくよ。君達、家は何処?」
「あ、私達忍術学園の生徒なんです!」
「…え」
「忍術学園って分かりますか?」
「…分かる。なんだ君達忍術学園の生徒か、…一年生?」
「え、よくご存知で」
「ああーっ!」
「うわっ、どうしたのきりちゃん」
「見たことある筈だよ!五年生の名字名前先輩っすよね?」
「なんだ、私を知ってるのか」
「ええーっ!忍術学園の先輩なんですか?!」
「そうだよ。私は委員会にも入ってないのに…よく知ってたね」
「雷蔵先輩がよく話してるんです」
「雷蔵…じゃあ君は図書委員か、っとまだまだ学園までは遠いからそろそろ行こうか。ほら、君も立って」
「ふえ…はい」
「泣くなよしんべえー」
「あ、そういえばなんで名前先輩はこんな所に居たんですか?私達は学園長のお使いですけど…」
「ん、ああ…」
「そしたら名前先輩、散歩って言ったんです」
「「「………」」」
「あんな所まで散歩するんですか?名前先輩って」
「しないだろ」
「しないね」
「うん、しない」
きり丸の問いに真顔、笑顔、笑顔で答える三人。
その表情のまま三人はゆっくりと膝の上に座っていた三人を降ろした。
「悪いなしんべえ。私少し用事が出来てしまった」
「ごめんねきり丸。僕も」
「乱太郎、また一緒にお菓子食べようね」
そうして三人は同じ場所に向かっていった。
「名前、正直に答えろ」
「…さっきから答えてるだろ、散」
「名前は裏々山の道まで散歩で行くの?」
「有り得ないよね?名前」
なんだこいつら、なんの連携プレーだ、なんの尋問だ。
はああ…どうしようかな。
私の部屋にスパンと襖を開けて入って来た三郎、雷蔵、勘ちゃんの三人。
何時もと違う雰囲気に逃げ出そうかと思ったけど、がしりと笑顔で腕を捕られて私の前に三人が並んで座る、なんて非常にやばい状態になった。
主に三郎が話した内容は、乱太郎、きり丸、しんべえを山賊から助けた時の事。
散歩は結構いい嘘だと思ったんだけどな…。
……まあ本当は任務の下見だけどそんなこと言える筈が無い。
「まあいいじゃん。私がどういう理由で何処に居ようと」
「!……良くない、だろ」
「え」
「私達は、仲間、だろ。名前が何処に居るかとか、心配するだろ、馬鹿…!」
「な、え、ちょ、雷蔵?あ、三郎?」
「三郎だ、…っ」
「あーあ名前、三郎泣かせたー」
「か、勘ちゃん!ら、雷蔵どうしよう!」
「んー、泣かせたのは名前だから、名前が責任取ってね」
「えええええ」
なんてこった!
三郎をどうにか出来るのは雷蔵、っていうか勘ちゃんも兵助もハチもだ。
なのになんで私が…私がどうにか出来るなんてそんなまさか。
ていうかなんで三郎は泣いてるんだ?!
わ、私のせいなのか…?
「あー三郎」
「っな、んだ、よ」
「…な、泣くなよ」
ぎゅう
「…!」
私は泣かれるのが苦手なんだ…三郎のこんな赤い目で見られたら、うわぁああごめんごめんってなる。
という訳で見えなくなる様に抱き締めた。
まあ私の勝手な行動だから三郎が泣き止む筈は無いけど
「大好きだっ名前!」
「うわっ」
って、えええええ?!
泣き止んだどころか急に元気になったぞこいつ…!
まさか泣き真似か?
いや…違うか。
三郎の泣き真似は見たことあるけど、今は本気で泣いてた。
なんでかは分からないけど、まあ泣き止んでくれて良かった。
ぎゅうぎゅうと抱き着いてくる三郎の頭をぽんぽんとあやすと腕の力が強くなる。
すると雷蔵がぴょんと近付いてきた。
「三郎、」
「んー」
ぺろり
「ふふ、しょっぱい」
「雷蔵…!」
………何時も思うけど、なんで私此処に居るんだろう。
涙の跡がまだ残る三郎の頬をぺろりと舐めた雷蔵。
そしてその行為にぶわりと頬を赤く染めて、嬉しそうに愛しそうに雷蔵を呼ぶ三郎。
すると勘ちゃんが頬を膨らませて此処に来る。
「三人共ずるいー!私も入りたい」
「ふふ、おいで勘ちゃん」
「拗ねんなってー」
「………」
いや本当、私お邪魔虫だろ。
(君は簡単に心を溶かす)
101123.