「郁、」
「私、この世界に来て、気絶したでしょう?でも何となく思い返してみれば、そのときの会話がボンヤリとだけど、思い出せるの」
「何やらお前は学園を出るだのなんだのと言っておったが――学園長であるわしの許可無く学園を出ることは、許されん」「学園を出ていく出ていかないは、まずお前の怪我が治ってからでも遅くはないじゃろう」
「その怪我も…いったい何があったの?名前さん」
――郁を数秒見返した私は、身体の力を抜くようにフウ、と息をつくと、木々の隙間から見える夕日に目を細めた。
「私は、この学園が好きだし、先生も好きだし、先輩も後輩も、好きだよ。でもね、本当に大切で大事な人が五人、いるんだ」
「うん…」
「――忍者としてじゃない、生きていく術としてならもう十分身につけた私が、まだ忍術学園を出ていっていなかったのは…その五人と離れるのが、ツラい、からで…」
――三郎、雷蔵、兵助、ハチ、勘ちゃんが笑っている姿が脳裏にうつる。
けれどそれが、歪んだ。
「でも、ある出来事があってね、本当ならば上級生何人かで行くハズだった場所に、私が一人で行く結果になった」
「じゃあそれで、その怪我を…?」
「うん…酷い戦、だった」
ふと気を抜けば、戦場の様子が浮かんできそうで。
私はわざと、地面に落ちた石ころに視点を合わせる。
「上級生に非は無かったんだよ、もちろん、その五人にもね…けど、それでも悲しくて、すんなりと、前みたいには戻れないんだ」
「うん…」
「というより、戻りたくない、の方が正しい。戻ればきっとまた私は、学園から、出たくなくなるからね…」
「名前さん…」
111204