「おい、アイツだろ?例の戦から帰って来れたやつ!」
はっきりと耳に届いたその言葉に、私は、ビクリと肩を揺らした。
――い組、ろ組とで行われた合同任務に、何故だか私も混ざっていた。
というか本当は、い組、ろ組、そしては組も合わせての合同任務らしいんだけど、選抜されたメンバーで行う合同任務に、ほかのは組の生徒は入れないらしい。
同じようにい組、ろ組からもこの合同任務に参加していない生徒は居るそうで。
――そして今は任務も終わって帰っているとき、学園も近くなってきた頃に、そんな言葉が私の耳に届いたんだ。
「あの目、包帯巻いてるけど治るのか?」
「つうか目立つのは右目の怪我だけど、手とか首も包帯だらけだな」
「あの分じゃ、服で見えてねえとこも怪我だらけだな」
遠巻きに歩く生徒達からの言葉と視線が、不快。
「そりゃ当たり前だろ、かなり酷い戦だったらしいし!」
――誰かの言葉に、一瞬、戦場の光景が脳裏をよぎって、ひきつるように息を吸う。
頭が熱くなって、呼吸が乱れてくる。
「生きて帰ってきただけ、凄いもんだよ」
「つうか、恐ろしいくらいだよ、俺には」
「いや、俺もだよ。到底想像できねえや」
「何人殺したんだろうな」
「何人殺しても、こうして普通に生活出来るもんなんだな、精神的にも」
やめ、ろよ。
「そうして考えると、やっぱり俺も、恐ろしいわ」
「綺麗な顔してるのに、もったいねえ」
「おい、馬鹿、聞こえたらどうすんだよ」
やめて、くれ。
「殺されても知らねえぜ」
あまりに嫌で、ギュウッと目をつぶって耳をふさぐ。
けど、それさえもを越えて悲鳴が聞こえて、驚いて場所を見た。
「取り消せ」
「お、い何だよ鉢屋…!」
「取り消せ、言葉を」
「やめろよ、お前ら…!」
そこには、数人に馬乗りになっている、三郎たち五人の姿があって。
「言葉を取り消せ…!そして名前に、謝れよ…!」
押し殺したような声で告げたのは兵助で、その姿に私は思わず目を丸くする。
けど直ぐに、眉を寄せたまま場所へと向かって
「三郎、雷蔵、兵助、ハチ、勘ちゃん」
「名前…!」
「私は平気だから、やめ…」
「嘘つくなよ!!」
ハチの剣幕に思わず肩を揺らすと、ハチはぐしゃっと顔を歪める。
「そんなに、今にも泣きそうじゃねえか…!!」
「――――……!」
ハチの言葉に、自覚していなかったのに今度こそ泣きそうになる。
気がつけば周りはもう、静まり返っていた。
――私は顔を歪めたままうつむくと
「――けど…」
戦場の光景が浮かんできそうで、目を強く瞑った。
「けど全部、本当の、ことなんだよ…!!」
そして私は半ば走り出した。
「名前…!」
声には、応えずに。
111204