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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「おい、喜八郎お前何をやって…っておい?な、泣いているのか?」


――太陽も落ちた時間、忍術学園内のとある場所。
おそらく自分が掘ったであろう穴の中で、膝を抱えて座っている喜八郎に、滝夜叉丸は声をかけて、そして驚いた。

喜八郎は滝夜叉丸の言葉に何も返さずに、ただまた一粒、涙を目からこぼす。


「ど、どうしたんだいったい、それにいくらお前でも、いつもならもうとっくに部屋に戻って来ているだろう」
「――…落ちてくれないの」


滝夜叉丸は腕を組むと、首を傾げて


「今日は誰も収穫がなかったのか?珍しいな」
「違うよ、保健委員がいつもみたいに何人も落ちてる、滝ちゃんバカじゃないの」
「なんだと?というか、ならさっきの言葉は…!」


そこで滝夜叉丸はハッと息をのんだ。
何故だか、とても思い当たる人物が、脳裏に浮かぶ。


「――今まではね、それこそ通る道に掘ったら、絶対に落ちてくれたの」
「喜八郎…」
「それはね、落ちこぼれだって偽っていたからっていうのもあると思うの。でもね、絶対にそれだけじゃないの」


喜八郎は顔を歪めると、抱えた膝に口元をうずめて歯を食いしばった。
膝頭を、頬を流れ落ちた涙が濡らす。


「名前先輩は、いつも…褒めてくれた」


滝夜叉丸も同じように歯を食いしばって、握りこぶしをつくる。


「名前先輩が今、落ちてくれないのは、落ちこぼれじゃないって知られたからもあると思うの、でもね…絶対に、それだけじゃないの」


――すると鼻をすする音が聞こえて、喜八郎は膝に口元をうずめたまま、目だけで滝夜叉丸を見上げた。


「バカ、天才とかっていつも言ってるのに…滝ちゃんも解決、出来てないんだね」
「う、うるさい…!お前こそ今ばかりは穴を掘っていないで…!」
「だって名前先輩が落ちれば、絶対に会える、それで謝れるでしょ?」
「…だが」


うん、と喜八郎は言う。


「名前先輩はもう、落ちてくれないの」





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