――次の日の昼、食堂に行けば長蛇の列が出来ていて。
最後尾に並んでいる三年生が、疑問符を浮かべている私に気がついた。
「名前先輩、大丈夫ですか、怪我の具合は」
「大丈夫、平気だよ数馬、ありがとう。それよりいったいどうしたの?この列」
「それが、あの女の代わりに新しく事務に入った女性がいるじゃないですか」
「ああ、郁のこと?」
「はい、その、郁さん?から食事をあまり受け取らないから、どうやらこうなっているらしいんです」
孫兵の言葉に、少し身体をズラして列の前の方を見る。
今、食堂のおばちゃんからご飯を受け取っているのは四年生で、その後ろには一年生の団体が。
そしてその後ろには六年生が数人居た。
――すると六年生が私に気がついたようで、少し息をのんで強ばった顔になる。
「……」
私はそれには気がつかないフリをして、目を逸らした。
――昨日、学園に戻って上級生から謝られた。
女のこと、幻術にかかったこと、任務のこと。
私は黙って首を横に振って、それでその場は終わりになった、けど。
――きっと上級生が郁からご飯を受け取らないのは、幻術にかかっていたという前例があるからだと、思う。
三郎、雷蔵、兵助、ハチ、勘ちゃんの五人とは違って、郁も平成から来た女だということは他の上級生は知らない。
だけどそれでも、警戒に似たようなものをしてしまうんだと、思う。
「あっ名前先輩!」
「こんにちは、しんべえ」
けど、下級生は違うと思う。
多分少し、照れてるような。
「名前先輩、怪我の具合、大丈夫ですか?」
歩いていって膝を折ると、心配そうに聞いてきた乱太郎の言葉に思わず笑う。
「保健委員の性かな、数馬にも同じことを聞かれたよ。――大丈夫!」
「ホントですか!ワア、良かったです!」
「…ありがとう」
本当に安心したように笑った乱太郎に、私は目を細める。
そしてきり丸の頭にポン、と手を置くと
「それより、混んできているからきり丸たちは郁…あのお姉さんからご飯を貰おうか」
「確かにスゲェ混んできてますよね、そのせいでしんべえもさっきから、腹減った腹減ったって煩くて」
「だって、お腹空いたんだもん」
「うん、だからホラ、郁からご飯をもらっておいで」
大丈夫、彼女はこわくないよ、優しいから。
と言えば、一年生軍団は「はーい!」とよい子の返事をして郁の前に行った。
――少し戸惑った郁は、でも直ぐに慌ててご飯をよそう。
その表情が少し嬉しそうで、私は笑って、安心から少し息をついた。
そして列に戻ろうと振り返って――思わず息をのんで、足をとめてしまった。
「名前先輩…?」
孫兵が不思議そうに私を見て、そして列の後ろに並ぶ、三郎達五人に視線を移す。
私の反応に、五人は見るからに傷ついていた。
「あ、わ、私、用事を思い出したから…それじゃあ」
不思議そうな三年生にそう言って、私は、五人の横を通りすぎて、歩いていく。
私は、何をしているんだ…。
穏やかな昼下がりに、下を向いて、鼓動に急かされるように歩く。
…いや、違う、いいんだこれで…どうせ怪我が治れば、私は学園を抜けるんだから…。
「…これで、いいんだ」
111203