――そして、目を覚ました彼女に、彼女に割り当てられた部屋で、事情を話した。
顔面蒼白になっていく彼女を見ていると、数年前の自分の気持ちが、蘇ってくるようだった。
それでも彼女が世界をこえたことは事実で、たとえ彼女を傷つけまいと私がいくら嘘を取り繕うとしても、簡単に取り繕える嘘じゃない。
それに彼女自身も、分かっているだろうから。
平成とは違う風景、そして常識に、気づいていただろうから。
「私がこれから貴方の身の回りのことを世話させてもらうんだ、よろしく」
「色々と危ないことも多いから、学園外はもちろん、学園内でも近くに居させてもらうから」
「それから夜は、私は居ないんだ。でも、ここは先生達の長屋だから、大丈夫だよ」
返事は、返ってこない。
私はさっきから、膨らんだ布団に対して話しているから、当たり前と言えば、当たり前なんだけど。
――とりあえず話すべきことを全部話し終えた私は、彼女の頭だろう部分を、布団の上からポン、と撫でた。
「……」
でも、何を言うべきかも分からないし、何を言ってもどうにもならないだろう、って。
彼女と同じ経験を持つ私だからこそ、そう分かったから――私は何も言わないで、立ち上がった。
「あ、ま、待って…!」
すると、今まで何を言っても返ってこなかった声が、いきなり部屋に響いて。
少し目を丸くしながら振り返ると、彼女は布団から少し顔を出しながら、自分でも慌てていて。
「あ、ご、ごめんなさい、私…自分でも一人になりたかった、ハズなのに…」
「……?」
「あなたの、手が…さっき、撫でてくれた手が…優しくて、それで…」
「安心、した…?」
「す、すいません、自分でもよく、分からないんですけど…なんだか…」
私は、部屋から出ようとしていた足をまた彼女の方へと向けて歩き出すと、膝を折って、彼女の頭に手を置いた。
「私は、名字名前」
「あ…私、は…佐々木、郁です」
「そっか…――これからよろしく、郁」
こうして私の、仮、学園生活が始まった。
111203