「アンダが!!アンタざえ!いなければ!!!」
そんな言葉をずっと繰り返す女の頬を、手で掴んで引っ張って。
学園から少し離れた山の中の開けた場所で、雑に手を離すと、女は地面に転がった。
「な゛んなのよアンタは!!なんなのよ!!!っ…私が!大事にされてた筈なのに!天女様で、みんなに慕われてて、愛されてたのに…!!」
女が手に噛みついていたせいでよれてしまった包帯を静かに直しながら、私は、腸が煮えくり返るようだった。
「お前は、愛されてなんかいなかったよ」
「…!なん、ですって…!」
「あの目…――お前を見るあの目が…本当に色を持っていたって、思うのか?」
「わけの分からないこと言わないで!!」
「…じゃあ、分かるように言ってあげようか。お前が愛されない理由を」
女は、殺意を孕んだ目で私を睨みつける。
秋の中頃に入ってきているこの季節、着物一つのままで牢に入れられていた女の唇は色を失い、震えていた。
――人を殺すことは、よくないことだよ。
「 お前は、言っていた」
悲しいよね、辛いよね。
「――分かったように、言っていた」
誰も報われないんだよ?
「 私たちがもう、分かっていることを」
なんで誰も報われないことをするの?
「何も分かってないのに、言いやがったんだ…!!!」
――思わず声を荒げた私に、女が肩をびくつかせる。
「お前は、少しでもみんなの気持ちを考えて、このことを言ったのか…!?」
「っ、……っ」
「 人を殺す感情なんて、言葉じゃあ表せられない…!よくないこと?報われない? それでもみんなは、人を殺すんだ…!」
――みんなは、忍者だから。
「…お前は、みんなの覚悟を根本から、何も知らないままにのんきに、ひっくり返したんだ」
この女が空から学園に落ちてきた時に見せた、あの気味の悪い、背中を嫌なものが走るような、笑み。
それを思い出した今、私にはこの目の前で地面に崩れ、震えている女が、何か奇妙なものにしか思えなかった。
「…それでもお前は、来たんだろ……平和な、平成っていう世界と比べて、…苦しい、この世界に」
――――女が、泣き出した。
「いや!いや…!こんな世界なら、嫌よ!帰りたい…!帰らせて…!」
「 …天に愛されているから天女様って言うんなら、帰れるんじゃないのかな…」
でも、多分、違うよ。
って、酷く冷めた感情を、心の中で思う。
「また帰りたいなら、とりあえずは、生きて、生きて…生き延びること…」
「こんな世界で、一人で、生きていけないわよ…!」
「――私は、そうして生きてきたよ」
「…っ、…っ」
「…いつか帰れると、思ってね…」
女が顔を上げて、私を信じられないものを見るように、凝視してくる。
「アンタ…っ、アンタは、じゃあもしかして…」
「……」
「いつ、いつ、から…」
すると女の表情が、また違う驚き方に変わって。
俺は首を傾げかけて、そうして気づいた。
「あ…」
自分を包む、淡い光に――。
111028