――土井先生が保健室を出ていってから、布団に横になって、目を閉じたまま、土井先生の言葉を思い出す。
「上級生が、例の女に幻術をかけられていたことは…この後にでも、下級生も集めて、全員に話す」
――土井先生が保健室を出ていってから、多分、三十分は経った…。
もう、生徒達を集めて、話をしているかな…。
ギシギシ、と…身体の内部、骨が軋むような感覚のまま、両手を布団の上について、上半身を起こす。
そして、同じような感覚の足も動かして、壁に手をつきながら、立ち上がった。
立ってみると、どこもかしこもがなんだか重くて、足の裏から床に、根でも生えてるんじゃないか、なんて感覚。
そしてその根を足の裏に生やしたまま移動して、歩き出す。
――死にたく、ない…!!
こんな、勝手に連れてこられた世界で……!
死んでなんか、やるもんか…!!絶対に死んでなんか、やらない…!!
…元々、忍術学園に入ったのは、忍者になりたいとかそういうんじゃなくて、ただ、「ここ」で生きていく術を、身につける為だった。
そのお金を払う為に一年生の頃から任務をして…委員会には、入らない、部屋も、一人部屋にしてもらうっていう措置を取ってもらって。
「ま、でもこいつは強いほうか知らねぇが、よく生き残ったもんだぜ」
――…でも、いつからか…なんとなく、気づいてた、分かってた。
忍者として戦の中に身を置く未来じゃあなくて、ただ、生きて、 生き延びていく為の術なら、身についたんじゃないか、って。
「名前、飯を食いにいかないか」
「うわあ、名前!この怪我大丈夫?どうしたの?」
「名前、大好きだ」
「眠いんだったら一緒に寝ようぜ、名前」
「だったらみんなで一緒に寝ようよ!ね、名前――」
――目を閉じると浮かぶ、三郎、雷蔵、兵助、ハチ、勘ちゃんの、笑顔。
その映像を消すように、私は、静かに目を開いて、世界を視界に入れた。
――…もう、学園を出よう。
――自室に行って最低限の荷物をまとめてから、学園の裏門へと向かって、歩く。
思った通り、生徒には一人も会わないけど、流石に、表の門のところの人間までを留守にしているとは思えない。
「 ァ…!」
「……?」
すると裏門の近くまで来たところで、右の方から、潰れたような声、…とも言えるかどうか分からないような音が聞こえて、首を少しズラして、場所を見た。
「――学園長先生!」
「 いったいどうしたんじゃ、騒々しい」
生徒達に、「天女様」についての処遇や、幻術についての説明をしていると、その大きな部屋に、一人の教職員が飛び込んできた。
息を荒くし身体を揺らして、膝に両手をついていたその男は、顔を上げると真剣な表情で、
「例の女が、牢からいなくなってて…!」
「!」
「 学園長先生!」
「ええい今度はなんじゃ!」
するとまた、今度は別の教員が部屋に飛び込んできた。
その教員の顔は、悲痛そうに歪められていて…。
「名前が…、っ名前が、居なくなりました…!!」
その言葉に、五年生が目を見開いて立ち上がる。
「いつの間にか保健室から消えていて…、っなんだか嫌な予感がして、名前の部屋に行ってみれば、――荷物がいくつか、消えてたんです…!」
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