――保健室から少し離れた場所に位置する、部屋。
静かに襖を引いて入ってきた土井に、五年生の五人が詰め寄った。
「土井先生…!」
「名前は…!目は、覚めたんですよね…?!」
「――…ああ、目は、覚めたよ。身体もまだまだ傷だらけで、名前一人じゃ、上手く動けないけれど…直に良くなるだろう」
――その言葉に、何人かが床に、力が抜けたように座り込む。
「良かっ…た…」
土井は寄せていた眉間のしわを更に深くして、そうして床に座り込む何人かを見る。
そして、保健室へ行こうとする、前の数人を真っ直ぐに見た。
「すまないが……保健室へは、行かせられない」
「…!なんで、ですか!」
「私たちは、名前に謝らなきゃ…!」
次に自分が発する言葉が、どれほど、目の前に居る生徒達を傷つけるか……土井は分かっていた。
分かっていて、覚悟を決めて、口を開いた。
「名前は、お前らに会うことを……望んでない」
――生徒達は、言葉が出なかった。
分かっていたような気は、していたのかもしれない。
それでも、心臓を一瞬で強く掴まれるような感覚に襲われて、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥る。
何かを言おうとしたのか、開いた唇は、けれど震えるだけという結果に辿り着いた。
「お前達だって、被害者だ…幻術にかけられて…それは分かっているさ、名前も…」
「…っ、……っ」
「だが、きっとすんなりと全てを受け入れられるわけもないんだ…!…それはお前らにも、分かるだろう」
――土井先生…と。
三郎に名を呼ばれた土井は目をやり、そうして無表情とも言えるような顔のまま涙を流す三郎に、眉を寄せた。
「私たちは…名前に……嫌われてしまった……?」
「 鉢屋…」
「あんな女の幻術に…かかってしまったから……?」
「――その血、落としてきたほうが良いんじゃないか」
「うん、愛さんには会わないようにね!」
「愛さんは血が嫌なんだ」
「まあ愛さんが来たら、足音で直ぐ分かると思うぜ」
「だから愛さんだって分かったら、直ぐ方向転換してね」
「名前に…酷いことを…!言ってしまった、から…?!」
「なんだ、じゃないだろう」
「名前がこんなことするとは、思ってなかったよ!」
「愛さんを、突き飛ばしたんだろう」
「名前、お前…!愛さんが嘘ついてるって言ってんのかよ…?!」
「名前こそ、嘘つかないでよ!愛さんがこんなに震えてるのに、嘘なはず…!」
荒く、不自然な呼吸をして涙を流しながら言う三郎に、土井が名前を呼びながら肩に手をかける。
が、三郎は止まらない。
「もっとはやく…!私を信じてほしかった…!!」
「私たちが…!!名前を信じなかったから…!!!」
――ほとんど、叫ぶような。
聞き取れない、くらいの。
感情が、先走ったような。
そんな声で言葉を言った三郎が、床に座り込む。
「ごめん…名前…ごめん…」
「名前、名前…」
――部屋の中には、いつ止まるのか分からない、涙で崩れた言葉が、落ち続けた。
111022