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「#年下攻め」のBL小説を読む
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――焦げ茶色の天井が、視界にうつった。
模様やら、染みやらをぼうっと、ただ視界にうつして、気がつく。


なんだか視界が狭い、と。


そうして気が付いた。
右目の視界が、無い。
 そこで、思い出す。


そうだ、私は戦にいた、と。


視界は天井をうつしたままなのに、脳なのか、私のどこかに、一番初めに斬られた、右目を斬られた時の光景が浮かんだ。


…確かに、かなり痛かった。
…だんだん、痛みは麻痺して感じなくなったけど。
…今も、何も感じない。
 もう、使えないのかな。


つらつらと、そう思う。
けど、顔の右上に位置する辺りが何かに少し締められているような感覚に、気付いた。


 ああそうか、包帯をしているから見えないんだ。
 けど、まだ使えるのかな。


「――名前、良かった、目が覚めたか」


 そしたら、控え目に扉が開く音がしてから、声。


「土井先生……」


左の、目だけを動かして、土井先生を視界に入れる。
そして声を出そうとして、酷く掠れている自身の声に、少し驚いた。


「ん、ん…」


 喉がちくりと痛んで、咳をすると、悪循環になった。


「大丈夫か?水を飲んだ方がいい。それに、薬もだな」
「ありがとうございます…」


 土井先生に支えてもらいながら、上半身を起こそうと腕を布団につこうとして、右手の位置に戸惑う。


…視界を片方失うの、結構、大変なんだ。
見えない、だけが問題じゃなくて、バランスがよく分からなくなってる…。


「…大丈夫だよ、名前。失明には至ってないそうだから、包帯が取れる頃には、ちゃんと両目で見れるさ」


――土井先生の言葉、私は、自分の思考で咀嚼するだけで、特に何も、言葉にしては出さなかった。










――壁に背を預けて、水を飲んで、薬を飲んで。
――ぼうっと、視界には、布団がうつっている。

布団と、ところどころに包帯が巻かれた自分の腕と。

――視界にうつるものに何か考えているわけじゃない。
 ただ、目を開いてるだけ。


「………、…?」


 そしたら視界の左端で、土井先生が私をじっと見ていることに気が付いて。
 少し首を傾げながら、土井先生の目に、視線を合わす。


「土井…先生……?」


 土井先生は息をのむと、深く、頭を下げた。


「本当に、すまない……!」
「――――……どうして、先生が謝るんですか…」
「私達が、もっと早く…」


――言葉を選んでるのか、探してるのか。

分からないけど、眉を寄せ下げて辛そうな顔をしたまま言葉を言いあぐねてる土井先生に、ゆっくり首を横に振る。


「今まで良好な関係だった二つの城の間で戦が起きた……どっちが仕掛けたなんて、分かりませんけど、そうそう早く、情報を漏らすことはしない……だから、謝らないで下さい…」


――数十秒程、部屋の空気に沈黙が満ちて。


「 例の、女のことだが…」


遠慮がちに言った土井先生の言葉に、眉が寄る。


「女は今、学園内の、牢に入れてある」
「……」
「私も状況を聞いたが…他の上級生が予定通りに場所に着かなかったのは、例の女が嘘をつき、学園に引き止めたらしい」
「…幻術に、かかってましたもんね…」
「っ名前、鉢屋達だけじゃない、上級生が皆、お前に謝りたいと、会いたいと言っている」


ドクン、ドクン…!
心臓が強く動いている。
 苦しい。


「無理です…」
「 名前…」
「会えません……!」


息が荒くなる。
顔が歪む。
心臓が、苦しい。


「自分でも今、分からないんです、みんなに会って、気持ちがどうなのか…!怒りなのか、安堵なのか、悲しみなのか、喜びなのか、辛さなのか…!でも…!きっと、平常じゃいられないんです…!」


今、考えただけでも、心臓の辺りがぐちゃぐちゃになって、そして涙が出そうになる。


「 会いたく、ないです…」


掠れてる、薄っぺらくて、隙間が空いている声。

言うと、土井先生は息をのんだ時のような表情のまま、慎重に頷いた。




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