――名前、名前、…と。
戦場から学園に、負担をかけないように、けれど物凄い速さで戻るまで……五人はずっと、そうして名前を呼んだ。
目を覚まさない名前に、背中に乗せた名前から自身の背中の布に染みてくる血に、そして消えることのない血の匂いに、涙を流しながら。
「名前、名前…!!」
――学園に着いて、保健室に担ぎ込んで、治療が始まるからと保健室から出されて、名前から離されて。
それでも、鍵のしめられた扉に手をあてて、届くのか分からない名前を、呼び続ける。
――顔を青ざめさせる六年生や、目を見開いたままに涙を流す四年生。
――学園の上級生を中心に取り巻いていた幻術はもう、消えていた。
「天女様」と呼ばれていた女は既に学園内の牢に入れられている。
そしてもう、その女が牢に入れられていることに怒り、抗議を唱える者など、いなかった。
「あの……先輩、達…?」
そして、保健室がある廊下の曲がり角から、遠慮がちに下級生が顔を覗かせる。
そのことにいち早く気が付いた六年生が、場所へと向かって、青ざめた顔のままに下級生に不自然に笑う。
「どうした?お前ら」
――下級生は驚いた。
そして同時に、とても嬉しかった。
最近自分達のことを見てくれなかった大好きな先輩が久しぶりに、目線を合わせて、そして話してくれることに。
「あの、下級生が、何かあったのかって、気になってて、みんな此方に来そうで、」
「だから、とりあえず俺らが代表で来たんです」
そして下級生は、少し遠く…保健室の扉の前で何やらブツブツと何かを言っている五年生の五人を見て、心配そうに眉を寄せ下げた。
「どうしたんですか…?」
――六年生は、不自然に、ひきつったように笑う。
「大丈夫だ、そうだな、大丈夫、今はとりあえず戻って、他の下級生にも伝えておいてくれないか、――大丈夫だから、な?少ししたら、ちゃんと、話すから、待ってろ」
――まるで、暗示のように。
それは下級生になのか、それとも、大丈夫だと言っている自分自身になのか。
下級生は不安そうに上級生を見上げて――そうして、笑った。
「先輩が言うなら、大丈夫ですね!他の奴らにも言っておきます!」
下級生はそうして駆け出していったから気づきはしなかった。
「…先輩たちが委員会に、来なくなってしまって……それで昨日、捜してみれば、どの委員会の上級生も、あの女の所に…」
――上級生は、泣いていた。
111021