今も、もう泣いてるけど。
――五人を見て、もっと泣きたくなった。
どうしてかは、自分でも、分からない。
「名前…恐らくはもう、鉢屋達の幻術は解けた…!」
「――!」
「名前、私達は、あの女は、何か幻術のような類いのものを使えるのではないかと、にらんでいる」
「…そっか…そうですか…」
会いたい、会いたい…!
みんなに、会いたい……!
天女様なんかに、あんな女なんかにおかしくされる前の五人に会いたい……!
「やっと…会えたんだ…」
――涙がまた、頬を流れる。
「っ名前…!」
「けど、」
足を踏み出そうとした五人が止まる。
「私って、わがまま、なのかな……」
ひとつ、ふたつ。
頬を流れるあたたかいもの。
「もっとはやく…会いたかった……!」
――数え切れないほど、人を殺した。
もう、どの痛みなのか分からないほど、傷を受けた。
「っ…!ぅ、…!」
「なんだ、じゃないだろう」
「名前がこんなことするとは、思ってなかったよ!」
「愛さんを、突き飛ばしたんだろう」
「名前、お前…!愛さんが嘘ついてるって言ってんのかよ…?!」
「名前こそ、嘘つかないでよ!愛さんがこんなに震えてるのに、嘘なはず…!」
「もっとはやく…!私を信じてほしかった…!!」
昨日の夜から、今朝にかけての、惨状が頭の中を一瞬でかけ巡る。
「痛い…」
傷を受けて。
「ごめんなさい…」
人を殺して。
「もう、嫌だ…!」
何人も、殺して。
「――ぁ、っか、っ、ハッ」
桃色のかんざしを握りしめた手の情景がまた浮かんで――息が、苦しくなった。
「ハッ、ぁ、う、」
上手く、息が吸えない。
息が喉から下に、入っていかない。
「名前――…!」
過呼吸を起こし、苦しそうに地面に倒れこむ名前に駆け寄ろうとして、でも、その前に男が一人、ふらりと木の向こうから現れた。
「…?!」
そして男は、名前の顎を上げると――自分の口を名前のそれに重ねた。
「お前、何して…!」
「――っは、何って…感謝されこそすれ、怒鳴られる覚えはねぇぜ」
ニヤッと口角を上げた男は、そのまま名前から手を離す。
地面に落ちた名前に、五人が慌てて駆け寄ると、名前の呼吸はいくらかマシなものになっていた。
雷蔵がハッと男を見上げる。
「二酸化炭素を…!」
「――お前、鎌足か」
それに応えたのは男じゃあなく土井先生で。
男は相も変わらずニヤリと笑って土井先生を見返す。
「久しぶりだなぁ、先生。学園の生徒がここに来ちまってたなんて、不幸としか言い様がねぇぜ」
そして名前を見ると、
「ま、でもこいつは強いほうか知らねぇが、よく生き残ったもんだぜ。…右目がちっとばかし重傷っぽいが――俺も指一本、持ってかれてる」
ひらひらと振る右手の薬指は、無く……根本に血に染まった包帯が巻かれていた。
「先生、そのガキ、目が覚めたらまず口に布でも突っ込んどけよ。――舌噛みきらねぇように、な」
「……」
「 よほどの殺し好きじゃあなきゃ、苦しむのは強いやつ、戦に出ても死なずに、生き残るやつだからな」
――そうして男は、地面に倒れている人達の間を歩いて、去っていった――。
111018