――空気が…。
視界が…赤、い…。
この視界は…この景色は…いったいどうして、赤いん、だろう…。
一番、初め。
右目をクナイでやられたから、かな…。
だから空気が、赤いの、かなあ……?
それとも、今、視界に映る人間の何人もが、首を切られて、頭を撃たれて、腹を刺されて、血を流しているから――世界が赤いのかな、あ。
腹に刀を刺したまま、私を狙って手を振り上げる人。
それをかわして、そうして私は、その人の首に刀をあてて、横に掻っ斬った。
返り血が、かかる。
また世界が、赤くなる。
わたしはどうして、ここに居るんだろ、う。
どうして、戦って――人を何人も殺して、いるんだ……。
どうしてこんなに傷だらけになりながらも、私は人を斬って、殺しているんだ……?
「――は…?どこだ、ここ」
「おとうさん…?」
「おかあさん…!」
ぎりっ、歯を食いしばる。
――死にたく、ない…!!
こんな、勝手に連れてこられた世界で……!
死んでなんか、やるもんか…!!絶対に死んでなんか、やらない…!!
目から流れたあたたかいものが頬を流れる。
赤く染まった世界が少し、クリアになった。
――だからそれはきっと、血ではなく――涙だったんだと、思う。
――――…金曜日、早朝。
――相変わらず、世界は赤かった。
けど、夜ほどではなかった。
まだ太陽は山に隠れているらしく、直接的な日差しはないものの、空気が明るい。
白く、霧がかかっている。
やっぱりうっすらと、世界は赤く染まっているけれど。
重たい足――もう感覚なんてないけれど、そんな足を、身体を引きずって歩く。
地面のいたるところには、死んでしまったのか、気絶しているのか、人間がたくさん、倒れている。
「っ、」
すると、その人間の誰かの身体に引っかかって、地面へと倒れ込んだ。
一瞬で身体に、声も出せないほどの激痛が走る。
歯を食いしばりながら立ち上がろうとして、私はそれを、見た。
皮肉にも太陽が山から顔を出したのか、白く輝く光が、辺りを照らしていく。
「…ぁ、ああ、あああ!!」
そして、私の目が離さないもの――ひとりの忍者が握りしめたままの――桃色の、かんざしを。
「ああ、ぁああああ…!!」
朝陽がキラキラと、輝かせていた。
111013