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――木曜日、昼、学園。
名前以外の残りのメンバーが学園を出発しようとした時に、土井先生が慌てて向かってきた。


「お前ら、まだ出てなかったのか?」


生徒達は少し慌てた。
任務につく者は少なくとも昨日には、全員学園を出ているハズだったから。


「いや、しかし結果オーライだ。任務は中止だ」


けれどその言葉に、生徒達は首を傾げた、――天女様と離れなくてすむ、と喜ぶ者も居た。
その様子に土井先生は少し眉を寄せながらも、けれど真っ直ぐに、生徒達を見た。


「毎年通りに協定を結ぶハズだった両城の仲が決裂したとの情報が入ってきた。――戦が起きるぞ…!」


 これには流石に、生徒達も驚いた。
――ただ、五年生の五人だけは様子がさらに、変わった。

心臓が強く動いて、一瞬、呼吸がとまる。
そしてそれから鼓動は強く、速くなって、急かされるような感覚に、呼吸が荒くなる。


「先発隊の者もまだ行っていないのか?なら――」


と、そこで土井先生が五年生を見て、言葉を失った。
 五年生は、靄で見えない人物、何から来る焦りなのかも分からないで、荒い呼吸を繰り返す。

 土井先生が顔色を変えた。



「おい!――名前はどうしたんだ…?!」




「右が雷蔵で左が三郎!」
「そうか…ハチは笑っていた方がいいと私は思うよ」
「か、勘ちゃん!ら、雷蔵どうしよう!」
「頑張ってる兵助にご褒美。ほら、食べなよ」



――五人のなかで、何か、靄が晴れたような気がした。
――天女様、と呼び慕っていた女が、鏡のように割れて。
 笑顔の名前が、姿を現す。



「私は、――ずっと皆を、だましてた」



確かに、あの時。
涙を流す名前を慰めたいと、抱き締めたいと――そしてもう直ぐにでも、抱き締められるハズだったのに。



「三郎たちは別に、その現場を、状況を、見ていたわけじゃないよね?なのにどうして、天女様の言うことだけを、涙だけを、信じるんだよ」

「名前は…大切な人、いないの…?そんな気持ち、持ったことないの…?」



なのに、なのに。
辛いままのはずの名前から、手を離した。



「――…いるよ、大切な人」



「っ――――名前!!!」


三郎達は、走り出した。
自然と、涙が流れていた。



「――戦が起きるぞ…!」



笑顔の名前が、血に染まっていく情景が浮かぶ、鳥肌が立つ、涙が流れる。


「待て!お前ら…!行っちゃ駄目だ!」


こわい、名前を失ってしまうことが。
はやく、はやく場所に。
戦はいつから、始まるんだ。


「名前――…!」


お願いだから、間に合って。






111013