学園長先生、山田先生、土井先生と話をしてから、その協定式とやらへ行く任務を行うメンバーにも、話がされた。
もちろん、天女様から離れることを目的、なんてことは伝えないけれど。
今日は月曜日で、協定式は金曜日。
協定式が行われる場所までは学園から、歩いておよそ、一日はかかる。
とりあえず先発隊が明日、学園を出発。
そして残りが明後日、水曜日に学園を出発して、木曜日の昼には、全員が既に場所に着いている、という手はずだ。
「ええ?水曜日の昼にはもう、みんな居ないの?」
すると、食堂の中、天女様の声が響き渡った。
――と言っても、今この食堂には、任務の説明を受けて時間が遅くなった私たちしか、居ないんだけど。
「ああ、どうした?ふふ、寂しいのか、愛」
私は一足先に席へついて、天女様を囲む上級生の会話を、あまり聞かないようにしながら食事をしている。
「そりゃあ、寂しいけど…でも、違うの!――わたし、えへ、明日、誕生日なの!」
でも――女の言葉に、思わず箸が止まった。
「おやまあ、それじゃあ先発の私たちは、愛さんの誕生日を祝えないじゃないですか」
「そうなのよ、もう〜…せっかくの誕生日だから、みんなと一緒にいたいのに…」
「私たちも愛さんの誕生日、祝いたいです」
「えへ!ありがとう、兵助!…ねえ、ダメかなあ?先発なんかいないで、みんな水曜日に学園を出れば――」
「駄目ですよ、そんなの」
みんなが私を振り返る。
中心に居る天女様の顔が少しひきつったのが見えて、裏が見えたような気がして、わたしは眉を寄せた。
「これは任務なんです、いくら平和な協定式だからといって、見廻りを担当し、場所を確保する先発隊は必要だ」
言うだけ言って、私は、また食事を再開する。
「――名前は、大切な人の誕生日…祝いたいって、思わないのか…?」
「…三郎…」
「名前は…大切な人、いないの…?そんな気持ち、持ったことないの…?」
「…雷蔵、」
わたしはギュウッと眉を寄せて、みんなを見た。
――三郎、雷蔵、兵助、ハチ、勘ちゃん……五年も一緒に学んできた、わたしの大切な、大事な人たち…。
「――…いるよ、大切な人」
ぎりっ、歯を食いしばって、天女様をにらむ。
「でも、お互いを堕落させていく関係なんて…それを願う相手なんて、私は嫌いだ!」
――すると天女様はみんなの後ろで、あの夜に見せたような、奇妙につり上がった笑みをつくった。
「それなら先発は、名前くんだけで行けばどうかな?」
「…………は、……」
「平和な協定式なんだよね?なら大丈夫だよ、一人でも」
――平成から来た、女。
幻術が使えるなんて思ってない、でも、つり上がった口から紡ぎだされる言葉は、まるで呪いのようにみんなを取り巻いていって…――
みんなの様子に、説得は無理だと……先発隊はわたし一人だと……それを変えることは出来ないんだと、悟った。
「…じゃあ、明日はわたし一人が出発を。水曜日にみんなが出発をして…木曜の昼に、場所で落ち合いましょう」
111012