「、」
土井先生の部屋へ行くと、そこには山田先生と学園長先生も座っていて、わたしは一瞬、目を丸くして足をとめた。
だけど二人の雰囲気を感じとって、わたしは何も言わないで下座に膝を折った。
「――名前」
「はい、学園長先生」
「お前は学園内、或いは学園からくだされる、高度な任務には、あまりつかせたことがなかったな」
「はい、先生の計らいで…」
「じゃが、六年生と五年生には、もうお前が弱い忍者じゃないということが、気づかれてしまった」
「 !…あ、はは…知ってたんですね」
――わたしが落ちこぼれ、というか、何も出来ないような忍者を演じていたことは、学園の先生達は知っている。
は組に入れてもらったのだって、わたしの頼みを、先生達が聞いてくれたからだ。
「…けれど、六年生にも五年生にも、知られたのは数人です」
…落ちこぼれを演じれば、授業が終わった後、学園からじゃない任務をしているなんて、誰も思わないだろう、考えることすらしないだろうって、私はそう思った。
裏で任務をしていることを、気づかれたくなかった。
そのこと自体も隠したかったし、なにより、どうしてそんなことをしているんだ、と。
裏の裏まで、探られてしまうから。
「いや、いいんだよ、そのメンバーで。 とりあえず、先に決定事項から言おう」
土井先生の言葉に、頷く。
「今日は月曜日…金曜に、裏の山を三つほど越えたところで、二つの城の協定式が行われる」
「ま、その二つの城はもう長いことずっと協定を結んでいるからな。毎年行われる、再確認の恒例行事ってとこだ」
山田先生が土井先生の言葉を引き継いだ。
その二人の言葉を引き継いで学園長先生が、
「六年生から数人、五年生からはお前をふくめて数人、そして四年生からも三人だけ、その協定式へと行かせる任務を与える!」
「――――……き、聞きたいことが、いくつかあります」
頷いた三人に頭を下げてから、わたしは口を開く。
「協定式へと行くことは、分かりました。ですがどうして、そのようなメンバーで…」
「その問いへの答えは二つだ。 まず一つめの理由は、学園内の上級生数人を、天女様と呼ばれるあの女性から、離したいんだ」
「――――……」
思わず、目を丸くして、言葉を失う。
「わしは人をみる目があると自負しておる、あの女は最初からどこか嫌な予感がしたが…まさかこんなことになるまでとは、見抜けなかった」
「名前、私達は、あの女は、何か幻術のような類いのものを使えるのではないかと、にらんでいる」
「天女様」は、平成という時代から来たらしい
「あの女にそんなものが出来るなんて、思いません」
キッパリと、間髪入れずに言えば、土井先生と山田先生は目を丸くした。
わたしは目を伏せる。
「…ですが…そうじゃないとこの状況は信じられないし、あり得ませんね…」
上級生何人もが、いきなりあの女に、狂気的と言えるほどに一目惚れしてしまうなんて、そんなの、あり得ない。
人間の顔がさまざまなように、好みだってそうなんだ。
「そこでじゃ、一週間程度、生徒をあの女から離そうということになったんじゃ」
「行かせるのは全員、学年の手練ればかり。 忍者の世界で、力というものは大きい。もしこの行動が上手くいき、アイツらが幻術から解かれたならば、ほかの上級生にも必ず、影響を与える」
「…確かに、理解出来ます」
でも――と、山田先生を見上げた。
「わたしが、行く意味は…」
任務に行かせる者の中からこうして私だけに、天女のことを中心とした目的を話すっていうことは…――先生たちも、わたしが幻術とやらにかかっていないことは、分かっているハズなのに。
その旨を説明すると、学園長先生が眉を下げて笑った。
「幻術が解けることを望んで…そして、仲をとりもどしてきなさい、名前」
「―――!」
「――その血、落としてきたほうが良いんじゃないか」
「うん、愛さんには会わないようにね!」
「愛さんは血が嫌なんだ」
「まあ愛さんが来たら、足音で直ぐ分かると思うぜ」
「だから愛さんだって分かったら、直ぐ方向転換してね」
「っ、はい…ありがとう、ございます……」
私は頭をさげて、目を強く瞑った。
111012