ふふ、ふふふふふ…!
ああもう!
おかしすぎて嬉しすぎて、笑いがとまらないわ!
やった!
――やったのよ!
平成の時代で事故にあって車とぶつかって、死んだ。
けどそれは、私がここに来るための仕方ないことだったんだわ、絶対に。
それにしても、望んだ場所に来れるなんて、やっぱり私は愛されてるのよ、天に!
だって、…ねえ?
私は、天女様、だもの。
――でも確かに天女さまは魅力的だけど……何故か、天女さまが死ぬ…なんて話もあったのよね。
注意書きで書かれてて、有り得ない!と思ったから読まなかったけど。
愛しすぎた忍たまに心中でもさせられたのかしら?
だから私は、そうならないように皆に言ってる。
人を殺すことは良くないことだ、ってね。
まあそんなの、私が死ななければいいってことなんだけどね、ふふ!
――すると事務室の扉が開く音がした。
振り返ると――
「…すいません、小松田さんは居ませんか?」
ちょっと…なによこの子、かっこいいじゃない!
見たことないわ?!
忍服からすると…五年生…やった!上級生!
「…あの、」
「あっ、ごめんね!えっと…小松田さんなら吉野先生に呼ばれてるからいないかな」
「分かりました、ありがとうございます」
書類をかかえたまま行ってしまおうとするその子を呼びとめる。
「待って!書類よね?私が代わりにやるわ!」
「え…」
「あ、私は新しく事務員になった今野愛。よろしくね!」
「どうも……それより、ほかにもたくさん仕事があるでしょうし、今野さんに世話になるほどでは、」
「もう、やだなあ!愛って呼んでよ!あと、名前を教えてくれないかな?」
「…名字です」
「ね、ね、下の名前は?」
「…名前、です」
「名前くんかあ!」
うん……良い!
上級生は好き。
本当は下級生とも仲良しな天女さまになろうと思ったんだけど、わたし、あまりにガキは嫌いなのよね。
――名前君の手に、優しく自分の手を重ねる。
くのたま達とは違う、白くて綺麗な、傷のない手…。
――上目遣いで見つめて、微笑んだ。
「私に出来ることなら、何でもしたいの。…名前君の、力になりたい」
名前君の瞳を見上げ、見つめる。
名前君も私を真っ直ぐに見てくる。
ふふ、堕ち―――
「すみません、じゃあお願いします」
――え、え、……え?
なんで?
なんで堕ちないの?
「あ、待って!お茶でも、」
「いいえ、用事があるんで失礼します」
がらり、未練も何もなく、あっさりと閉じられた扉。
「――な、によ…!」
この私が誘ったのよ!
なのにそれより優先する用事って何よ?!
そんなの無いでしょ?!
椅子に荒々しく座る。
がり…!爪をかむ。
そうして少し我に返って、爪を苦い気持ちで見た。
後で整えておかなきゃ……それよりも、ムカつく。
名前君はなんだか、ヤバい気がする。
私の笑顔を見て、私に堕ちない奴はいなかった。
なのに…なのに……!
「愛さーん、居ますか?いましたね、良かった」
「こら三郎、いきなり開けないの。愛さん、こんにちは」
「愛さん、今日の定食にも豆腐を出してくれますか」
「先に言っとくけど俺は肉食うからな、兵助」
「俺もハチに同じく」
すると五年生が来た。
私を囲む五人に微笑みながら、思いつく。
「ねえみんな…――名字名前君って、知ってる?」
「…名前がどうかしたんですか?」
「知ってます、けど…」
「…………」
「名前は、まあ、はい、知ってますよ」
「……気になるんですか?」
――ふふ、私ってホント、愛されてる!
「実はね…っ、ひっ…く」
「愛さん…?!」
「どうしたんですか?!」
「…名前に何か…!」
「ううん…た、大したことじゃないの…」
「正直に言ってください、愛さん、名前に何かされたんですか」
「愛さん、怖がらないで?」
「…っ、お、お茶に誘ったら、そんな暇ないって、つ、突き飛ばされて…」
――天女さまの機嫌をそこねたものは、地獄へと堕ちるのよ。
110925