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「なんで僕と数馬の部屋になったの?」
「私と作兵衛の部屋でもよかったんだけど、数馬がジュンコに噛まれる可能性があるから」
「あ、はは…心配してくれてありがとう」
「おいこら左門、三之助、どこ行きやがる」
「藤内と数馬の部屋だろ、こっちじゃないか!」
「しっかりしろよな作兵衛」
「よし分かった、もうお前ら何も言うな」


三年生と風呂に入り終わると何故だかまた孫兵に手を引かれて、どこに行くのかと問えば、一緒に寝ましょうと言われた。

そしていま私は、藤内と数馬の部屋にいる。


「先輩、手当てしますから座ってください」
「ああ、こんなの擦り傷だから大丈…」
「――先輩?」
「…あ、あのさ藤内、数馬が恐いんだけ…」
「さあみんな、明日は休みだからもう一眠りだ!布団を敷こうそうしよう!」


藤内め、逃げたな…。


諦めて、腕の切り傷を数馬に出して、礼を言った。
丁寧に治療してくれる数馬に目を細めて頬をゆるめる。

騒がしい左門達を見ると、布団がぐちゃぐちゃと積み上げられていた。


「…さ、作兵衛、…左門と三之助って、何に関しても方向音痴、なんだね…」
「言わないでくれ、藤内」
「さー!名前先輩の治療が終わったら寝るぞ!」
「私と名前先輩はこの布団で寝る」
「私も名前先輩の隣がいいぞ、孫兵!」
「あ、俺もそうしたい」
「お前ら布団を…!」


――ふはっ、と私は思わず吹き出してしまった。


「え……名前先輩?」
「っ、あはは!ご、ごめん、みんなが面白くて……布団は円にになるように敷いて寝よう、そしたら皆、近いから」


ぽんぽんと数馬の頭を撫でて立ち上がり、布団を敷く。

円になった布団のひとつにうつ伏せに寝転がると、孫兵がぴたりと隣に寝転がって、嬉しそうに笑った。


「やっと笑った…」
「へ?」
「名前先輩、ここ最近ずっと眉寄ってたんですよ」
「こーんなふうに!」


私の向かいに寝転がって、ギュウッと眉間にシワを寄せた左門の顔を、目を丸くしてまじまじと見る。


「名前先輩はそんな酷い顔してない」
「なんだと孫兵!」
「うわ、孫兵も左門も落ちついて」


――それにしても、そんなに表情に出てたのかな…。


枕に顔を乗っけると、眠気が襲ってきた。
微睡む意識の中で、ついさっきの事が思い出された。



「――その血、落としてきたほうが良いんじゃないか」
「うん、愛さんには会わないようにね!」
「愛さんは血が嫌なんだ」
「まあ愛さんが来たら、足音で直ぐ分かると思うぜ」
「だから愛さんだって分かったら、直ぐ方向転換してね」





「…数馬、治療した時に何かした?」
「ああ、うん…あまり寝れてないみたいだから、消毒薬に睡眠薬を砕いたのを少し…」
「そっか…」


孫兵は、寝息を立てる名前を見つめながら、呆れたようにため息をついた。


「本当、先輩達があんなに馬鹿だと思ってなかった、あんな女のどこが良いんだ」
「孫兵…」
「あの女、勝手にジュンコに触ろうとしたんだ。ジュンコも嫌がって咬もうとしたし、毒で死ねって思ったけど、あんな女にジュンコの毒をやるのが勿体無いと思ったから止めといた」

「私も迷子になったら皆に迷惑をかけると言われた!私は迷子になんかなった事無いのに」
「あ、それ俺も言われた」

「俺は食満先輩って恐いよねって笑いながら言われた。…まあ食満先輩は楽しそうだったから別にいいけど…」

「僕は藤内の怪我を治してたらあの女が割り込んできて治療させられたよ。藤内の方が酷い怪我だったのに…」
「本当に擦り傷だったよね、文字通り…」


各々が笑顔になった。


「名前先輩はジュンコ達の名前を全部覚えてくれた、お墓も一緒に作ってくれた」
「迷子になることは、毎回新しい物を見れることだと言っていた!」
「新しい道に新しい景色、だったっけ?」
「食満先輩が恐くてギクシャクしてた俺を、助けてくれた」
「僕の事を覚えてくれた、そんな綺麗な髪なんだから忘れないよって、笑ってくれた」
「周りに合わせた方がいいのか悩んでた俺に、そのままでいいんだって言ってくれて、立花先輩達もそう思ってくれてた事が分かった」


六人は無言で目を合わせあって、笑顔を深めた。


「五年生の先輩達は離れないかと思ったけどなあ…」
「ふふ、奪っちゃおっか」
「数馬、奪うんじゃないよ、人聞き悪いなあ」






110915.