――人を殺すことは、よくないことだよ。
悲しいよね、辛いよね。
誰も報われないんだよ?
なんで誰も報われないことをするの?
「天女様」が言う、説く言葉に、血濡れた任務も増えてくる上級生達は、自分の血濡れた手を隠す。
血濡れた忍服、血濡れたクナイを隠して「天女様」に近づいて、笑うんだ。
――朝日が昇ってから、少し経った時間帯。
任務を終えたあとの自分の血濡れた忍服が、柔らかい空気に包まれるさまは、アンバランスだけど、もう見慣れた。
――学園の塀を越えて、敷地内に入る。
「名前…?」
まだ誰も起きていない時間帯だろうと木々に隠れずに地面に下りると、縁側を三郎達が歩いていた。
――「天女様」が学園に勤めて一週間が経ったけど、その間、三郎達とは一度も言葉を交わしてない。
廊下ですれ違ったりは、しているけど。
寝巻き姿の五人は私の格好を見て、眉を寄せる。
「僕達は、名前が強くても弱くても、名前に一人で殺しをさせたくないんだ」
「――その血、落としてきたほうが良いんじゃないか」
「うん、愛さんには会わないようにね!」
「愛さんは血が嫌なんだ」
「まあ愛さんが来たら、足音で直ぐ分かると思うぜ」
「だから愛さんだって分かったら、直ぐ方向転換してね」
――固まって、動けなくなって、言葉が出なくなった。
喉が乾いて、話そうとすれば、ヒュッと喉が鳴った。
「わ、たしは……私は、川でも行ってくるよ、もしも会ってしまったら、申し訳な…」
すると後ろで、土が鳴った。
「川なんか行く必要ないです、私達と一緒に風呂に行きましょう、名前先輩」
そこには孫兵を先頭に、三年生が立っていた。
「みんな…こんな時間にどうしたんだ?」
「便所を探してたらこんな時間になってました!」
「作兵衛達が迷子になるからこんな時間になったんすよ」
「お前らなあ…!…名前先輩、つーわけで俺らも風呂、まだなんです。一緒に行きましょう」
「怪我してないですか?ち、血がついてますよ?」
「数馬も怪我してるでしょ…もう、なんであんな所で転ぶの」
あれよあれよという間に、三年生が近づいてきて、――孫兵が私の手を握った。
「さ、名前先輩」
何とも言えない感情に包まれると、離れた所で声がした。
「もう、伊作は本当に不運なんだね!こんな朝から穴に落ちちゃって、うふっ!」
「ったく…、つかまれ伊作」
「留三郎、怒らないの!」
「元々の顔だ!」
「きゃあー!あははっ、留三郎が怒ったあー!」
「…!愛さんだ!」
「また先輩達は…!」
「向こうだ、行こう」
「おう、早くしないと他の奴らまで来るしな」
「早くはやくー!」
ぐっ、無意識に手を握り締めてしまったら、孫兵は何も言わずに、握り返してくれた。
110914.