満月のあの夜、「天女様」はこの忍術学園に、空から降ってきたらしい。
そうして、甲高い悲鳴を上げながら落ちてくる「天女様」を抱きとめたのが、潮江先輩だったということだ。
あれから場所に、学園のほぼ全員だと思う、大勢が集まり、下級生はざわざわと話し、先生達は訝しげに女を見据えた。
上級生は――
「愛、定食一つ」
「はいはーい!あっ、仙蔵も!二人とも、今日も授業お疲れ様っ!」
「あ、ああ」
「気色悪いぞ文次郎、おなごのように頬を染めて」
「バ、バカタレ、誰が…!」
「愛、定食をくれ」
「うん!仙蔵は今日も美人さんだねえ」
「お前こそ美しい、愛」
「無視するな!」
「愛さん、定食ください」
「あ、喜八郎!もう、また泥つけて」
「愛さんが拭いてください」
「喜八郎!この私を差し置いて愛さんと…!」
「滝!授業お疲れ様、今日も滝は凄かったんだろうなあ」
「は、はい!勿論です!」
食堂の、適当に空いた席で食べていると、否が応でも聞こえてくる「天女様」の声。
「――愛さん、定食ください、雷蔵も同じので」
「あ、ちょっと三郎、また勝手に決めちゃって」
「三郎も雷蔵も仲良く!あ、兵助は豆腐定食だよね?」
「はい、愛さん、ハチと勘ちゃんも一緒ので」
「げ…!どうせまた俺らの豆腐取るんだろ?愛さーん、なんとかしてくださいよ、兵助のこと」
「愛さんが言ったら、きっと兵助も聞くよね」
「ふふ、仲いいねっ!」
――上級生は「天女様」を学園に居られるよう学園長や先生達に直談判して、望み通り、「天女さま」は事務、兼、食堂の手伝いとして学園に居ることに。
「天女様」「愛さん」「天女様」「天女様」
黙々とご飯を食べていた私はその様子を一瞥すると立ち上がり、盆を下げに行った。
通りすぎるときに見た、輪の中心に居る「天女様」の、綺麗な手。
――この世界で生きてきたとは思えない、綺麗な手。
そりゃあそうだよね。
「天女様」は、平成という時代から来たらしいから。
「――は…?どこだ、ここ」
「おとうさん…?」
「おかあさん…!」
「なに…するんだよ!やめろ!こっち来るな…!」
「っ、いやだあああ!!」
「――天女様、か…」
天に愛されてるから、天女様って、いうのか?
110914.