「名前…!」
五人がわたしの名を呼んで立ち上がり、私の元へと寄ってこようとする。
わたしはそれが、――私のもとへ来てくれるのが、申し訳ないのと似た気持ちで、制するように口を開いた。
「私は」
五人が動きを止める。
自分のこえが少し震えていたから、私は一度、深く呼吸をして、落ちつかせた。
「私は、――ずっと皆を、だましてた」
どこか前の、床を見ながらわたしは話す。
「そして、秘密を守る為に皆に睡眠薬を盛った、そして皆も、それに気がついた、知った、秘密を、事実を」
すると全員が、私へと足を進めるのを見て、私はハッと顔を上げた。
無意識のうちに身を引いたわたしの腕を、皆がつかむ。
「それからすると――名前は私達に、名前から離れて欲しいのか?」
「さ、ぶろ…、わ、私は…」
「言っておくけど、名前。――僕達は名前から、離れてなんてあげないからね」
雷蔵の言葉に目を見開く。
「というか、名前から離れるなんて、できない」
「な、んで…」
「決まってるよ、――名前が大大大事だから!」
また、涙が流れ落ちる。
「名前…、言って…くれるか?全部、本当のこと…、俺達に」
私は鼻を啜って、下唇を噛みながら、頷い――
「――天女様だ!!」
――すると窓の外から、そんな言葉が聞こえた。
私達は視線を交わして、窓を開ける。
――窓の外、学園の門を抜けて直ぐの開けた場所。
そこに六年生の面々が集まっていて、潮江先輩が誰かを抱き支えている。
「――天女様だ…」
そうして隣から聞こえた呟きに、私は目を見開き、思わず、固まってしまった。
心臓が速く、嫌に鳴る。
ゆっくりと隣にいる五人を見れば、五人がまるで食い入るように女を見ていた。
その表情に息をのみながら、私はまた、女を見る。
月が雲に隠されたのか、辺りに冷たく存在していた白い光が黒へと変わる。
その、白い光が黒へと変わる最後の瞬間――
にいっ
と、狂気を孕んだ笑みを女が浮かべたのを、確かにわたしは、見た。
110914.