音を立てずに振り返る。
私と同じ黒色の忍服を着ている五人。
声を押し殺して問う。
「何で来たんだ…!」
「名前に一人でこんなこと、させられないからだ」
「っ、だから、言ったじゃないか…!私はは組の落ちこぼれじゃないんだ!」
「そうじゃないよ、名前。強いか弱いかなんて事じゃないの。僕達は、名前が強くても弱くても、名前に一人で殺しをさせたくないんだ」
「…っ…」
雷蔵の優しい眼差しに、思わずぐっと詰まる。
けれどそれと同時に、数年前の出来事が脳裏を走った。
「私のせいだ…!私のせいでみんなが…!」
「っ…やっぱり、駄目だ…。学園に戻って、みんな…」
「私達は絶対に戻らない」
「そりゃあ俺達は忍だから、任務をこなさなきゃいけねえのも人を殺さなきゃなんねえのも仕方ねえ。けど名前を一人にしたくねえんだ」
「いくら忍でも、元はただの情を捨てきれない人間だよ?…名前、辛いよね?」
勘ちゃんの言葉と、見透かすような、そして不安そうな瞳から思わず目を逸らす。
何故だか分からないけど、涙が出そうになった。
人を殺すのが辛い、怖い、嫌だ、――嫌だ!
そんな感覚、何時か消えると思っていた。
何人も、何十人もを殺していく内に、馴れるんだと、そう思っていた。
――けど、そんなの、ある筈が無いんだ。
その感情を失ってしまうことが、本当に怖いことだから。
「…なあ、名前。どうしてそんなに私達を拒む?私達だってもう任務はこなしてる。――人を、殺している」
「……っ。それ、は…――」
「じゃあ今夜も行ってくらァ!俺達の酒残しとけよ!」
「まあまあ、酒も奪ってくりゃあイイじゃねえの。――酔いざましに一人二人と、殺してきちまうか!」
ギャハハハ!と、馬鹿笑いをしながら山賊が五人、藁小屋から出てきた。
ハッとして下を見やる。
一番確実なのは、今殺してしまうことだ…!
この五人の山賊達が夜の内に此処へ戻ってくる可能性も高くはないし、…何より今の言葉…。
私は忍で、英雄でも何でもないけど、――今の言葉は聞き捨てならない。
…けど、五人が……
「アイツらを全員、始末すればいいんだろう?」
そう兵助の声が聞こえた瞬間、しまった…!そう思ったけれどもう遅く、五人が地に着いて山賊の首にクナイをかけていた。
――ザッ。
背後から引かれたクナイによって、山賊の首からは血が勢いよく噴き出す。
私が地に着いた時に丁度その光景で、目に焼き付いた。
こんな光景、見慣れている筈なのに。
こんな光景、自分が何回もしてきた筈なのに。
――五人が人を殺す光景は、見たくなかった。
忍だから仕方ないとか、そんな問題じゃなく、ただ、ただただ嫌だった、悲しかった。
私がやるから、
私がやるから、
みんなは、手を染めないで
血で赤く、染めないで
――そんなの忍だから、無理なのに。
「どうした…?!」
「しっ、忍だぁああ!」
異変に気づいた山賊達が小屋の中から出てきた。
私達に気づくと、直ぐに火縄銃や刀や槍や斧を構える。
――そこから先は何も考えずに、先ずは火縄銃を構えている奴らにクナイを投げつけた。
顔や首にピンポイントで刺さるクナイ。
倒れる山賊。
風を切る様々な音から身を翻しながら、小屋へと突き進み中へ入った。
「死ねやぁあ!」
刀を突き刺してくるのを、首を倒してかわして。
右手を振って相手の首を掻っ切った。
倒れる男の手から刀を取り、一気に振りかざす。
五人程の胸元を斬った。
するとその男達の首にクナイが刺さって、三郎達も小屋に入って来たことが分かった。
「お頭!逃げやしょう!」
頭、そう呼ばれた男。
小屋の奥に居る。
向かいの窓から逃げようとしている。
私は床を蹴ると天井まで飛び上がり、そして天井を蹴って一気に男の元まで行った。
その勢いのままに刀を胸に突き刺して、唖然としている部下二人の顔にクナイを投げる。
――どさあっ。
人間が倒れる重い音がして、そして静かになった。
五人も、片付けたみたいだ。
「っ…、はっ…」
息が少し乱れている。
「――名前っ!!」
するとハチに焦ったように名前を呼ばれて、気づけば私の体は突き飛ばされていた。
斜めになる視界の中で、
ハチが、撃たれて、
床に倒れている男がまだ、生きていて、
火縄銃を向けて、
ハチが、――撃たれた。
110406.