朝日が白く冷たく肌を照らす時間帯。
任務から戻ってきた私は、音を立てずに自室の前で足を止めた。
「…………」
そして約15秒程、そのままの状態で待って、そして自室の襖を静かに横に引く。
気配を確認はしたけど、一瞬だけ覚悟した。
けどやっぱり、五人は居なかった。
しゅるり、黒から青へと忍服を着替える。
その合間に香に火を灯す。
着替え終えて床に胡座をかいてみたけれど、何時もは直ぐに効く香の効果は無かった。
どくん、どくんと少し速く動く心臓。
それに胸の辺りを、何か黒い靄のようなもので覆われているような気分だった。
午前の授業が終わって、昼飯時。
食堂に向かって一人歩いていたら、前方から青い忍服が歩いてきた。
「――あ……」
それは三郎達だった。
五人は私に気づいて少し目を見開いて、そして、――何も言わずに通り過ぎていった。
思わず固まって足を止める。
去っていく足音が耳に入っていながら、けれど私は何もせずに、ただ眉を下げて微笑んだ。
…そうだよ、な…。
私は五人を裏切っていた…。
それに昨晩なんか、睡眠薬まで盛って…。
……もう、私とは関わりたくない、よな…。
ぐっと握り拳を作った。
「ああらぁ、名前くん」
「こんにちは、おばちゃん」
「今日は何にする?」
「じゃあ…A定食で」
食堂に入っておばちゃんからご飯を受け取る。
席を探そうと食堂内を見回すと、私をじっと見ている伊作先輩を見つけた。
手招きする伊作先輩。
私はその机へと向かって、伊作先輩の向かいの椅子へと腰を下ろした。
「…何か余計なことしちゃったかな、僕」
そして驚いた。
伊作先輩は眉を下げて落ち込んでいたから。
私は慌てて両手を横に振る。
「だ、大丈夫ですよ?…どのみち何時かこうなるとは…思ってたんです。何時までも隠し通せる訳、ありませんから…」
困ったように笑えば、伊作先輩は納得いかないように、醤油を自分の鮭に――何故かぶちまけた。
こ、これが不運か…。
醤油まみれになった鮭を見て嘆いている伊作先輩を見ながら、密かにそう思った。
その夜、何時も通りに任務があって裏裏山に来ていた。
任務内容は、およそ二十人程居る山賊の殲滅。
藁小屋の窓から漏れる灯り。
宴でもしているのか、ドンチャン騒ぎが聞こえる。
近くの高い木の枝に居る私は任務内容が記された巻物を懐にしまい、忍具が揃っているかを確認する。
「――名前」
「っ…?!」
びくりと体が揺れた。
反射的に飛び移ろうとした体は後ろから抑えられて。
「はっ、はあっ……」
荒い息をする口から、そうっと手が離される。
ぐっと唇を噛み締めた。
「……つけてきたのか…?」
何でまた、五人が…――。
110406.