「遅くなった!ごめんな」
「大丈夫だよ。僕らも今集まったところ」
「お?名前、お前酒持ってきたのか?」
「ああ、美味いやつな」
にこりと笑んで、右手にぶら下げていた酒瓶を持ち上げてみせる。
促されるままに座布団の上に腰を下ろし、まだ注がれていない徳利に酒を注ぐ。
「ああ、名前!もう、私達も酒用意してたのに!」
「まあまあ勘ちゃん。これ本当に美味しいから、みんなに飲んでほしいんだ」
そして自分も徳利を掲げて、率先して「乾杯」と言い、徳利を傾けた。
「――ふう、美味い」
「…本当だ、美味いな」
「わあ、美味しいね」
「豆腐と同じ位美味しい」
「兵助の判断基準は分かんねえよな」
「でも豆腐小僧の兵助が同じって言うんだから、すごいことだよね」
ごくり。
五人の喉仏が上下する。
そして次の瞬間、隣の三郎が緑色の畳に手をついた。
「っ…?!」
「三郎?!どうし…!」
がくりと体を折り、耐えきれない眠気に五人は沈んだ。
それを見届けてから、口内に忍ばせてあった脱脂綿を吐き出した。
少し口をゆすぐか…。
脱脂綿がかなり吸い取ったけど、やっぱり少しでも口内に残るのはマズイ。
細胞からいくらでも睡眠薬が取り込まれてしまう。
これから任務だから、尚更気を付けなきゃな…。
音を立てずに行動し、布団を五人に掛ける。
――部屋を出る時に一度だけ中を振り返った。
けど直ぐに前を向き、自分の部屋へと歩き出した。
黒い忍服に着替えてクナイや手裏剣、撒菱などを揃えて体に忍ばせる。
「ふう……」
軽く息をつく。
そして膝を折って机の上にある香の灯りを消した。
――次の瞬間、天井から音がして誰かが私を襲った。
音に気づいた私は素早く身を翻して、その誰かの首元を掴み床に叩きつけ抑える。
「……?!ハチ…?!」
その誰かは、ハチだった。
解ると直ぐに私は手を離してハチの上から退く。
なんで…!
なんでだ…?!
ハチは今頃、睡眠薬が効いて眠ってる筈だろう?!
それに私の…私の恰好を見られてしまった…!
いや、それよりなんでハチは私を襲ったんだ?!
驚きに言葉が出ない。
床に仰向けに寝るハチの首から少し血が流れるのを見て、ズキリ、胸が痛んだ。
私が今つけた傷。
――すると襖が開いた。
「……三郎、雷蔵、兵助、勘ちゃん……」
なんで、此処に――。
110309.