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がらっ
「名字、町に行くぞ」


お馴染みの三郎と雷蔵の部屋で六人寛いでいた時、何の遠慮も無しに扉が開けられて、見れば立花先輩の姿。


「は?街、ですか?」
「そうだ」
「今からですか?」
「ああ」
「名前は私達と居るんで邪魔しないで下さい」
「鉢屋…。ふっ、名字、お前に拒否権は無いぞ」
「…?」


悪どく綺麗に微笑んだ立花先輩に、夜の任務の事を言ってるんだと思い当たった私はバッと立ち上がった。


「ま、街かぁー楽しみだー」
「名前!」
「雷蔵…皆も、ごめん。まあ五人で楽しんで」


――そうして、部屋を出たのがさっきのこと。




「………」
「………」
「…立花先輩」
「どうしたの?名前」
「なんで女装してるんですか」
「ふふっ私は元々女よ?おかしな名前」
「………」


私は立花先輩と町に向かっている。
女装した、立花先輩と。


「というか立花先輩ではない。今は仙子と呼べ」
「立…仙子さん」
「…まあ良いだろう」
「キレーですね、仙子さん」
「当たり前だ。お前も中々になると思うぞ」
「で、仙子さん。何故に女装して町に?」
「女装道具が切れてきててな。女物の店に男が一人入り化粧道具を大量に買い込むのはおかしいだろう」
「で、私は」
「男避けだ」


ああ…確かに仙子さん並の美人が居たら男は放っておかないな。


「六年生は居なかったんですか?潮江先輩とか…」
「筋肉バカ三人組と来る気は毛頭無い」
「三人組…じゃあ中在家先輩は?」
「寡黙過ぎて若い男女の色恋に見えん」
「…善法寺先輩は」
「あいつの不運に巻き込まれ女装が崩れる事は見えている」


仙子さん、手厳しいデス。


「まあでも、やはりお前を誘って良かったよ」
「?」
「見たか?あのお前が私を選んだ時の顔!クックッ」


仙子さん、こぇえええー。


「ちゃんとついてきてるようだしな…」
「え?すいません、聞こえなくて…」
「なんでもない。さ、行きますよ名前」
「……はーい」






「なんで立花先輩が名前と、名前と…!」
「名前…最近六年生と仲良いよね…」
「嫌だ。名前は、渡さない」
「当たり前だ!俺達は六人で一つだからな!」
「ハチかっこいー!惚れ直すよ!さ、尾行続けるぞ!」






「名前、名前。どちらの紅が似合いますか?」
「はあ、どっちも似合うと思いますよ」
「……鉢屋達に」
「せせせ仙子さんは肌が白いから此方の紅が合いますよ」
「あら嬉しい!ありがとう」
「………」


どっちも似合うってのは本心なんだけどなー。


不必要に体を密着させてくる仙子さん。
すると店の店主らしき男がやって来て


「おや、お似合いですなあ」
「あら…そんなこと無いですわ。ね?名前」
「あ、仙子さん。お団子買ってきましょーか?」

ガッ!

「あだっ!」
「空気を読め…。だがまあ、団子は買ってきて良い」


ちょ、仙子さん。
私は草履で、仙子さんは女装してるから下駄だからね、今。
けど…団子好きなんだ。


頬を緩めて「はーい」と団子屋に向かった。


それにしても…三郎達にバラすって箇所箇所に脅してきてるけど、立花先輩も言う気は無いんだろうな。


「団子二個下さい」
「まいど!」


確証は無いけど、そんな気がする。


ふと視線を戻すと男二人に絡まれる仙子さんの姿が見えた。


「お待ち!」
「ありがとう」


私は着物の胸元を少し開き着流して、結っていた髪をほどく。
そして髪を右側に流し、けど右半分の上の髪は少し後ろに引っ張って隠していたクナイで止めた。
そして仙子さんの所に近付いて


「――…待たせたな…」


グイッと肩を引き寄せた。

仙子さんは微かに目を見開いたものの、直ぐに綺麗な微笑みを浮かべた。


「怖かった…っ」
「悪い…。お前ら、私の女に手を出したのか…?」
「あ、い、いやっ」
「な、なんだよっ!手ェ出したら駄目かい!」
「お、おい止めとけって!」


喜八郎の口癖を借りると、おやまあ、だ。
ちょっと悪さが漂う男を演出したんだけどなー。


一人は完全に怖じ気付いているが、もう一人は吃りながらも対抗してくる。


余程仙子さんが気に入ったんだなー。
普通人の女に手出したら駄目だろー。


「私はこの方しかいないんですの」


するり――
仙子さんが首に手を回してきた。
段々と顔が近付いてくる。
男二人が、あぁ…!と口を開ける。


私は特に気にせず、団子を包みから出して


「「「「「駄っ」」」」」


「「むぐっ?!」」


男二人の開いた口に投げ入れた。
と同時に仙子さんの膝裏と背中に手を回し抱き上げて走り出す。


………あれ?
今三郎達の声が聞こえたような…ま、こんなところに居る筈無いよなー。


「お前は本当に…空気を読め!」
「え。私何かしました?あ、助けるの遅くなってすいませんでした」
「…本当だ。お前は男避けとして連れてきたのに、意味が無いではないか」
「仙子さんがあんな短時間でも男に魅入られるとは…お見逸れ致しましたー」
「しかもお前…団子を無駄にしたな」
「…逃げる為ですってー」
「許さん」
「えぇー」
「だから、」
「はい」
「また私と町に来い」
「…はーい」






「ぜぇっぜぇっ…危ないところだった…!」
「た、立花先輩と名前が、く、く、」
「口吸いするところだった…!」
「ていうか何あの名前?!かっこよすぎるだろ!」
「もう名前は男前になるの禁止にさせなきゃね!」






(甘い蜜は快楽だけをもたらす訳じゃない)
101123.