火薬の匂い、
砂ぼこり、
矢やクナイ、
それらが飛び交う合戦場に私は居る。
今回の任務内容は、この合戦の状況、そして各軍の軍事情勢を調べること。
―…数は違うけど実力は五分五分か…××軍の方が体制が整ってるな。
「…あ、」
合戦の中心部から少し離れた場所に見える栗色の柔らかい髪。
怪我人を助けてるその人。
…保健委員長?
任務かな、って…!
合戦の中心から外れた矢やら火薬やらが保健委員長の居る場所丁度ら辺に飛んできた。
…そういえば保健委員って不運な人達の集まりだって乱太郎が言ってたっけ?
さすが委員長。
バッと木の上から飛び降り、保健委員長の前に降り立つ。
―と、殆ど同時に隣に誰かが降り立った。
矢やら火薬をクナイで弾き飛ばしながら、その隣の人も同じ事をしている。
保健委員長の味方か…なんだ、私来なくても良かったのか。
全て処理し終えて、沈黙。
まあ当然の事と言えばそうだけど、保健委員長にも、その味方の人にも凄い見られている。
合戦場で、知らない忍に助けられたらそりゃ驚く、っていうか不思議だよなあ。
私は六年生と面識は無いし、保健委員長ともあの時だけだから…大丈夫か。
よし、スルーで。
「――君、なんで此処に居るんだい…?」
背を返した時に、保健委員長の声が投げられた。
……私に向けて言ってる…?
いやいやまさか。
あの時一回だけの人の事を…
「五年生は合戦場には来てない筈だよ」
覚えてるんですねーはは。
…厄介な事になったなあ…。
再び保健委員長の方に体を変えて、浅く頭を下げる。
すると隣の人が
「なんだ、お前五年生か」
「はい」
「伊作を助けようと思って飛び出したら他にも誰か来たから驚いたぜ。ありがとな」
すると人が飛んできた。
風を切る音だけをさせて、私達の周りに降り立ったその人達。
―…六年生か。
………多分。
忍術学園の忍服じゃなくて黒い忍服を着てるから分からないんだよなあ。
まあ私もそうだけど。
「…!…ほう、誰と話しているかと思えば…名字名前じゃないか」
艶がある黒髪をさらりと靡かせる人が、軽く目を見開いた後に愉しそうに笑った。
それに続けて他の人達が口を開く。
「バカタレ!五年生に守られるとは情けないぞ、伊作!」
「う、うるさいよ文次郎!…あれ?ていうか皆なんで此処に…?」
「角笛鳴ってたぞ」
「ええっ!気付いてたなら言ってよ、留さん!」
「長次、コイツが名字か?!」
「ああ…。雷蔵が、よく話してる…」
……帰っていいかな。
なんで私の事を知っているのかっていう疑問はスルーしよう。
無言で足を後ろに下げて、木に飛び移ろうと力を入れる。
すると寸でのところで、仙蔵と呼ばれている人にパシッと腕を掴まれた。
「どうせ帰る所は一緒だ。…そう急ぐ事も無いだろう?」
「名字!お前はバレーは好きか?!」
「はあ」
「そうか!私も好きだ!今度私と一緒にやろう!」
「はあ」
「ところでお前、一人で彼処に居たのか?」
「はあ」
「なんでだ?」
「はあ」
「ははは!名字は面白いな!」
なんでだー。
ていうか適当に受け流してるだけなのに…会話ってここまで発展するんだなぁ、新発見。
戦場から忍術学園までの道を、六年生に囲まれながら歩く。
私の方に体を向けながら前を歩いてる、つまり後ろ向きで歩く先輩は七松小平太先輩で、体育委員会の委員長。
そういえば前に滝夜叉丸が夕方頃にボロボロになっていて、理由を聞いた時にそんな名前が出てきていた気がする。
「しかし名字、確かに何故お前は一人で彼処に居た?」
「学園の任務です」
「ほう…は組でも落ちこぼれなお前を一人で戦場に、か」
「…落ちこぼれを成長させる為ですよー」
…名前を言われた時にも思ったけど、なんで六年生は私を知ってるんだ?
「そういえば今日は毒もらってない?」
「………」
「毒…?」
「うん。名字君、前に放っといたら死ぬ毒を持ってきててね。今日は大丈夫なんだ?」
「…大丈夫です」
善法寺先輩の言葉に目を細めた立花先輩に、私は若干顔をひきつらせた。
やっぱり怖い。
善法寺先輩怖い。
可愛い顔して怖い。
今言ったの絶対わざとだ。
「ていうか伊作を助けた時のクナイの扱いは落ちこぼれじゃないよな」
「人間死ぬ気になれば何でも出来ますよー。それには組は実戦に強いクラスじゃないですか、食満先輩」
「……お前はそうじゃないって、聞いた…」
「長次先輩…」
ていうかなんで私の事を知ってるリターンだ。
私は委員会にも入っていないのになぁ。
「名字」
「なんですか?立花先輩」
「お前、こうして学園外の任務をしている事は鉢屋達に言ってはいるのか?」
「…?なんで三郎達が、ていうか学園」
「学園からの任務としてもいい。とにかく鉢屋達には言ってはいるのか?」
「…言ってないですけど、」
「そうか!」
だからなんで三郎達が、その言葉は立花先輩の嬉しそうな声に消された。
ぽかん
上機嫌に少し先を歩いていく立花先輩に口が開く。
すると後ろから
「仙蔵は鉢屋達が気に食わねえんだよ」
「潮江先輩、」
「ま、俺も同じだがな。だから無愛想なアイツらが溺愛するお前を探ってた。それで鉢屋達が知らないお前を知って、良い弱みになるって喜んでんだ」
「無愛想…三郎達がですか?」
「お前は見たこと無いだろうがな」
「ていうか溺愛って何ですかそれ。あはは」
「………」
「ハッ!男らしくねえ」
「んだと留三郎。お前だってこの案にノっただろうが」
「あ゛ァ?」
……チンピラが二人だ。
ヤクザでも当たりだ。
眼光がギラン!てしてるし、潮江先輩は隈が余計に作用してる。
「お?なんだ二人共、楽しそうだなー!」
……チンピラが二人と、チャレンジャーが一人。
ヤクザでも当たりで、空気読めない人でも当たりだ。
既に取っ組み合いを始めてた二人に混ざっていく七松先輩。
他の三人は慣れたものなのかスタスタと先に行ってしまう。
えぇー、放っといて良いのかコレ。
でも私早く帰りたいんだ。
眠い。
三人が拳やら足を振り出すのを見定めて、素早く間に入った。
「なっ…?!」
「名字?!」
「……!」
潮江先輩の拳を左腕で受け止め、食満先輩の蹴りを右手で掴む。
そして七松先輩の腕を蹴り上げて拳を回避した。
「止めてすいません。でも眠いし…早く帰りましょう!」
よし、大人しくなった!
って…あれ?
「「「………」」」
固まっちゃった…?
ていうか震えてるぞ。
え、なんでだ?
私拳や蹴りを止めただけだぞ。
まさか止めた瞬間に私から何か衝撃波が…かっこいい!
…ってそうじゃない。
「あのー…?」
「……名字、…」
「はい、潮江先輩」
「……お前、…」
「はい、食満先輩」
「今度一緒にバレーしよう!」
「…はい?」
「「違うだろ!」」
「なんでだ?私、拳を蹴り飛ばされたのは始めてだ!きっと名字なら私のアタックも受け止められる!」
「バカタレ!何故バレーにいくんだ!俺は」
「名字、今度俺と鍛錬してくれ!」
「留三郎!先に言うな!」
「うるせえ!」
「あぁーだから早く帰りましょうって」
再び始まった取っ組み合いを止めると、おぉ!と期待のこもった視線。
ていうか鍛錬って、私と組み合いをするとかそういう事だよな?
「私には先輩達のその筋肉についてく自信が無いです。無理です」
「お前今俺達の拳を止めただろ」
「この腕でどうやってんだ?」
「人間死ぬ気になれば何でも出来ますよ。っていうか早く帰りましょう」
(初めましてじゃないらしい)
101123.