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そしてあなたは私のものとなった。あなたが私を選んだわけじゃないし、ものでもないのはよく分かっているんだけど。ううん、やっぱり分かってないんだと思う。あなたはいきなり目覚めたかと思えば二万年も経過してて故郷である宇宙には私が地球を脱しない限り帰れないってきっと思ってるんだろうけど、私、やっぱりあなたを見ていたい。だからあなたが気に入らなかったら私を食い破ってでも自由になって欲しい。受け入れるから。やっぱり変だよね、私。どうしちゃったんだろう。この気持ち全てが正しくなくてあなたに知られてはいけないことしか十数年生きた私には分からない。
二十メートルもある巨体では一緒に居れるのはワイルドエリアだけだけど昼間では落とす影があまりにも大きいから、夜ならば私たちを咎めないのだ。私は野原に寝転がって、ムゲンダイナは少しだけ地面から浮いて、長い長い首を伸ばしたら星空に届いてしまいそうで宇宙の中だったら大きくなんてなかったのにね、なんて思ってしまう。
赤く縁取られて群青の骨で形成された身体は骨格標本のようで、流星群の軌跡のようにも見える身体がやっぱり好きで、皮膚、肉、臓器、あるべきものがない美しさは正しい美しさなのかも知れない。
初めて見たとき、そんな場合なんかじゃなかったのにあのとき、あなたを通してその曲線に神を見た。私は神聖の最上位の表現を神だと表現する方法しか知らなくて、本当はもっと特別な言葉があるんだと思うけどやっぱり神だとしか表現できない。
その肋骨にあるコアに触れたらどうなるだろう。大量のエネルギーを有しているという土星のようなの形をしたコアに。私は砕け散ってしまうかな。それよりも間近で見たら眩しくて触れるどころではないかも。もしも宇宙で出会っていたら、生まれ変わりを信じれば出会っていたかも知れないけど、ムゲンダイナは遠い昔の私の髪を一度でも撫ぜたことはあるだろうか。そしてあなたの身体は今よりも大きかったのか、それとも小さかったのか。あなたのことをもっと知りたかった。二万年のことも、今のことも。死んでしまっても構わないから。
あのとき、私は選ばれて、あのとき、あなたは何を見ていたんだろう。私はどう映っていたんだろう。けどこれはあなたが望んだわけじゃない。だから気に入らなかったら私を殺して欲しい。本来の関係であるように。だとしたら息では弱すぎて、魂では乱暴すぎる。

「ねえ、私を好きになってくれる?」

立ち上がって名前を呼んだら、ムゲンダイナは顔を近づけて首を傾げてきた。六個の複眼と目が合う。その顔を覆う赤い膜状のエネルギーに私が反射していて、服に手を掛けたら指先が震えていることに気付いた。上を脱いだら、少しだけ肌寒かった。

「ううん、やっぱり好きでなくていい。私もこれが好きっていう感情なのか分からない。だけどずっと一緒に戦って欲しくて……傍にいて欲しい」

下も脱いでしまえば肌が粟立った。反射している自分を見ていたら懺悔しているような気分になった。恥ずかしさと緊張と高揚でよく分からなくなってる。それでも私という質量が確かに存在していて矮小な存在であることには変わりない。

「だけど私のこと、憎んでいるでしょう。こんな小娘に制限されて。あなたは本当はどこにだって行けるはずなのに。でも私、どうしたってあなたのことを手放せないの」

骨を見せることは出来ないけど私の全てを見せるから。なるべくあなたと近くなるから。告白するに相応しい姿になるから。

「捨ててしまいたかったら、食べていいよ」

全てを脱いでしまえば何故だか自然と涙が溢れた。今から食べられても、顔を背けられてもきっと全てが神聖だ。本来、本能とは神聖なものの気がする。それが十数年生きた私の答え。纏うものは一切なくて、誰にも見せたことのない、私の幼い、凹凸の少ない身体。身体中に散るほくろは私が隕石だったとか、星座であった証だと信じてる。ムゲンダイナはゆっくりと窮屈そうに首を曲げて私を少し上から見下ろした。その複眼は私を捉えていて、細胞すら見透かすような、真意を汲み取っているようにも見えた。私は何もしなかった。ただあなたの出す答えを待った。
やがてその複眼は表情を変えて瞼が下ろされると私の身体に顔を押し付けてきた。おそるおそる手を回す。優しく抱きしめるつもりだったけど、しがみ付くように強く抱きしめてしまった。私はそのとき、温度のある涙を流した。受け入れてもらえるということはこうも私の輪郭をはっきりさせて同じ気持ちだと理解してしまうから一つになったような錯覚をして二人で閉じてしまえばいいって、誰にも邪魔されたくなくて確かに神聖だった。赤いエネルギーは生温かくて人肌みたいでごつごつとした骨が身体中に当たった。残る痕は刻印みたいに刻まれていたい。
ずっと温度に包まれていたら、お腹の底がなんだかぱちぱちした。本来きっとこういうのは分からないのだろうけど、本能的に理解した。私は受胎して、腹に星が宿ったのだ。私はムゲンダイナの末裔になったのだ。全て見透かされていた。

いつかのエネルギープラントの屋上でのこと。あなたが時空を歪めたこと。私が感じた惑星ついて。出会った海王星から一番遠い場所。二人で見たお互いの裸。星の中で今、骨と皮膚が触れ合う。飛び出してしまったら、銀河の中で抱きしめあって流星群となった。

そして産まれ落ちる日まで待つ。


私に口づけを撃ち落として 200119

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